豚コレラウイルスの感染によって起こる急性の熱性感染症で、その伝染性は極めて強く症状は重篤であり死亡率は非常に高い。
1. 発 生
    古くから世界的に発生している。日本における豚コレラは、1881年、北海道でアメリカから輸入した豚にそれらしい疾病の発生した記録が最初で、確認されたのは1907年の福島県における発生である。その後は全国的に数千から数万頭の発生が毎年あり、養豚の発展及び経営に大きな障害となっていた。
    1969年、弱毒性ウイルスワクチンが開発され、全国的に応用されるようになってから発生は急激に減少し、1976〜1979年には1頭の発生もみないという状態であった。しかし、1980年以降は再び全国的に発生している。この発生の特徴は、全国的な発生にもかかわらずいずれも突発的で流行の形をとらず(従来の発生の様な面の発生でなく点の発生)、かつその症状がこれまでの豚コレラのように急性の定型的なものだけでなく、慢性型がみられることである。
2. 病 因
    豚コレラウイルスはTogavirus (Non-arbo) に属し、核酸はRNA、粒子は40〜50 nmである。
    自然界では豚とイノシシだけが発病し、ウサギ、山羊、羊、モルモット、マウスなどは一過性に感染する。
    発病豚の全臓器、血液はもちろん糞、尿、唾液、涙、鼻汁などにもウイルスは多量に含まれていて感染源になる。また、本ウイルスは自然抵抗性が強く、特に低体温下では長期間生存する。
    豚の脾臓、腎臓及び精巣の培養細胞によく増殖するがCPEは示さない。
    豚コレラウイルスは、これまで抗原的に単一と考えられていたが、牛のウイルス性下痢症 (BVD) ウイルスと共通抗原を有し、日本でも1980年以降に発生した際に分離されたウイルス株では従来の強毒株(急性型、人口感染では7〜12日で死亡する:H亜型)のほか、BVDに近い弱毒型(慢性型、15〜19日で死亡、B亜型)及びこの中間に位置する中間型(10〜13日で死亡)が存在することが確認された。
病勢が進行した症例。下痢と、腹部皮膚にチアノーゼ性の発色(紫色)が見られる。
感染豚群の典型例。下痢により汚れた体、歩行障害、無力、痙攣、等。
3. 感 染
    品種、性別、月例及び季節などに関係なく感染し、100%発病し死亡する。しかし、免疫がある豚及び母豚がワクチン注射を受けている場合は、生後日齢によっては移行抗体(母乳を介して母豚から子豚に移行する抗体)の関係で発病しない。
    野外では、病豚との直接接触(経口及び吸入)あるいは人やイヌなどを介して(間接接触)感染し、リンパ組織、特に扁桃で増殖し、次いで血管内皮系細胞や脾臓に及ぶ。
4. 症状及び病変
    潜伏期間は通常3〜7日であるが、時には4週間くらいの長い場合もある。経過は1〜3週間である。
    食欲の減退〜廃絶、元気消失、40〜42度の発熱、沈うつ、便秘から下痢、結膜炎(目やに)、歩様異常〜起立困難(後駆麻痺)を呈し、末期には耳、頸、下腹部などに赤紫色のうっ血及び出血斑を生じる。妊娠豚では流産を起こすことが多い。経過が長い場合には細菌性の肺炎を併発することがある。
    剖検所見では、リンパ節の腫脹と充出血、脾臓の出血性梗塞、肺、胃、膀胱粘膜、咽喉頭部などの点状出血、大腸のボタン状潰瘍などがあげられる。
    病理学的には、脾臓、リンパ節の実質変性、網内系細胞の活性化、血管変性及び非化膿性脳脊髄炎などの変化が特徴的である。しかしこれらは剖検所見同様にその経過、流行状況及び他病との混合感染の有無によって発現率が異なる。

脾臓の出血斑

腎臓の点状出血

大腸粘膜面のボタン状潰瘍

膀胱粘膜における出血
5. 診 断
    疫学的考察のもとに行う臨床所見や血液学的検査(白血球数の減少、血液像における核の左転、好中球の増加など)のみでもかなり正確な生前診断は可能であるが、確定には実験的な病理解剖、組織学的検査及びウイルス学的検査が必要である(診断マニュアルを参照)。
蛍光抗体法により検知された豚コレラウイルス抗原(扁桃腺窩上皮細胞)。
大脳グリア節における囲管性細胞浸潤
6. 対 策
    ワクチンは生後30〜40日の時1mlを皮下または筋肉内に注射する。3〜5日後に免疫効果が現れ1年以上持続する。ただし母豚が高度に免役されているときは、移行抗体の関係で生後日齢により免疫し難いことがある。また繁殖候補豚には6ヶ月後に第2回、更に1年後に第3回のワクチン注射を行う。
    なお現行ワクチンは、1980年代以降に流行した慢性型を含めすべての豚コレラワクチン(新分離株)に対して有効であることが関係機関により証明されている。
    豚コレラに対しては直接的に有効な治療薬はない。発病豚は病原ウイルスを排泄することから蔓延防止のためにすべて殺処分し、死体は焼却または埋却する。汚染豚舎、機材及び糞尿は消毒し、発生地区内の豚の移動は禁止し、ワクチンを補強注射することになっている。
    豚コレラに限らず感染病の予防のためには、常時豚舎へは管理者以外の出入を制限すると共に、管理者も消毒した作業着、靴を用いることが重要である。また豚の導入に際しては、産地が清浄地区か、ワクチン注射済みであるかを確認し、最短2週間の隔離観察を実行することである。
養賢堂、新版家畜衛生ハンドブックより
動物衛生研究所九州支所による「豚コレラの解説」を読む。