アンコール遺跡群の地図を見る
アンコール日記(元マレイシア在住専門家のアンコール旅行記)

1月12日 晴れ
      5時起床。目覚ましが鳴る前に目が覚めた。6時に下へ降りていくと昨日頼んでおいたタクシーが入り口で待っていた。ドライバーはタイのチェンマイに住んでいたことがあるおじさん。俺もタイに住んでいたことがあると言ったら、途端によくしゃべりだした。日本の山梨にもいたことがあるという。運送会社に勤めていたらしい。飛行機はイポ6:45発、クアラ・ルンプール(KL)7:30着。KLの空港は冷房が効きすぎていて参った。KL発10時、バンコク着11時ちょい前。何故かトランジットでの乗り換えができず、一旦外へ出て搭乗手続きをし直さなければならなかった。それゆえ空港税500バーツを払う羽目になる。しかし空港の日本亭でなつかしいカツカレーを食べることができたのでまあよしとしよう。バンコク発15時、シエム・レアプ着16時前。プロペラ機。機内アナウンスは英語と日本語。タイ人の若いスチュワードが話していたが、日本語の発音がほぼ完璧で驚いた。入国審査時、オフィシャル・パスポートなのにビザ代20ドルを払わされた。オフィシャルでも観光ビザには金がかかるんだというのが向こうの言い分だったが、これは単なるでまかせだろう。外に出るとホテルからの車が待っていてくれた。ドライバーの若者は感じがいいし英語もうまい。空港から街への道もすごくなつかしい感じだ。発展途上にある国の活気と混沌とした空気から生まれるエネルギーを感じる。人々の顔も明るく、貧しい感じはしない。ドライバーの若者の名前はティー。明日、観光に自分の車を雇わないかとしつこく誘われる。不快には思わなかったが返事は保留しておいた。俺は自転車でのんびりまわりたい。後でわかったのだが、彼は旅行会社の人間で、ホテルの客を無料で出迎えるかわりにアンコール観光に勧誘するという図式がホテルとの間で出来上がっている様だ。453号室にチェクイン。ホテルはアンティークな感じでなかなかよろしい。街へ出かけてみるとほこりっぽいし、これと言って面白い物はない。観光客が多い。車とバイクが多く、しかもバイクは歩道でさえ我が物顔に走るからヒドイ。この国の交通事情も下手をすればベトナムのようになりかねないだろう。物価はベトナムの方が安いと思う。1ドル=R4000。夜、近くのレストランへ食事に。瓶ビール一本と豚肉付ライス、野菜炒めで6ドルだった。カンボジア人は感じがいい。MTVには宇多田ヒカルが出ていた。

13日 晴れ
       朝、8時半頃フロントで自転車を借りようとしたら、全部整備不良だから貸せないという。仕方がないので近くのレンタサイクルショップで借りた。一日借りて1ドルだからホテル(5ドル/日)よりも全然安かった。まずとにかくアンコール・ワットへ向かう。空気が爽やかで肌に心地よく気持ちいい。林の中を抜けていく感じ。街からアンコール・ワットまでは平坦な道を6km位の距離だ。こんなに短い6kmが一ノ瀬泰造の生と死を分けてしまったのか・・・あこがれの地はまだ遠い。アンコール・ワットの手前でパーミッションのチェックがあり、もう一本向こうの道まで3km位戻ることになってしまった。3 day pass が40ドル、写真付き。また3km戻ってようやくアンコール・ワットにたどり着く。入り口へのアクセス道のところでNHKのプロジェクトXでも放映された修復工事が続けられていた。中はさすがに広く、彫刻が精巧で緻密だ。タイのピーマイやパノム・ルンとは規模も精巧さも全然違う。特に外側の回廊の壁一面を飾る彫刻は素晴らしい。中央にいくつかある塔の中は何層かに分かれており、そのひとつひとつが今でも石造りの床=天井を保っているのには驚く。途中、小便がしたくなって林の中に入ろうとしたが、ふと地雷が恐ろしくなってやめといた。じっくり見ている間に昼になった。入り口近くの野外レストランでチャーハンとビールを食べる。味はまあまあか、4ドルなり。これだけ観光客がいるというのにレストランはどこも閑古鳥が啼いている。みんなパッケージ・ツアーのような形で訪れているので、旅行会社と契約したレストランで食事をするのだろう。うーん、地元の貧しい人たちにはあまり金が落ちてこないのかもしれない。
       食後、アンコール・トムへ向かう。入り口のゲートからしてスゴイ。遺跡自体はかなり痛んでおりアンコール・ワットほど美しくはないが、それでもスケールはでかく、特にバイヨンには顔のでかい彫刻が林立していて圧巻。The Baphuon では象のテラスがスコタイの遺跡に似ていた。The Little Circuit に沿って走り、Ta Keo へ向かう。ここはまあまあといったところか、アンコール・ワットとアンコール・トムを見た後ではかすんでしまうのも仕方ないだろう。眺めだけは良かった。その後、Ta Prohm と Banteay Kdei は明日に回すことにして素通りし、一路シエム・レアプの街へ。これがまた遠くてなかなか着かず、1時間くらいかかってしまった。ケツが痛くなる。ホテルへ戻ったのは5時前。まずビール1本、風呂に入ってからもう1本。飲みながら洗濯をする。6時半過ぎから昨日行ったレストランへ出かけて夕飯。今日はチャーハンと牛肉とパッカナーの炒め物+コーラにした。7時過ぎにはホテルへ戻る。山崎まさよしの「PASSAGE」を何度も聞き返す。

14日 晴れ
       昨晩10時に寝てしまい、今朝は5時過ぎに目が覚めた。その後もウトウトとまどろんでいたが7時には完全に起きる。昨日と同じレンタサイクル店でチャリを借りて一路アンコール・ワットへ。昨日の後遺症でやっぱりケツが痛い。しかし朝の空気は気持ちいい。アンコール・ワットを通り過ぎてアンコール・トムへ。朝から観光客が沢山いる。アンコール・トムは東向きだから朝の方が光の具合が良く、逆にアンコール・ワットは西向きだから観光客は夕方訪れるらしい。最もほとんどの人は旅行会社のプランに従って動いているだけだろうが。今日は The Big Circuit の方へ向かって走る。まず、Preah Khan を見学。ジャングルに埋もれた遺跡という感じでなかなか面白いが、とにかく白人の観光客が多くて嫌になる。しかもみんな日本製のカメラを持ってウロウロ、ナショナル・ジェオグラフィックのカメラマンよろしく写真撮影にマジになっている。結構ゆっくり観光していて出てきたらもう昼近く、遺跡の前の出店レストランで食事。豚肉チャーハン+アンコール・ビール+アイス・コーヒーで4ドル50だった。ビール1缶2ドルは高いぜ!アイス・コーヒーの氷が心配だったが、何にも問題なし。隣のレストランの男の子がかわいくて一緒に遊んで写真を撮った。1時間くらいいてゆっくり食事を楽しみ、再び自転車をこぎ出す。木が真っ直ぐ上に向かって伸びている。見上げると背筋ばかりか気持ちまで伸びていくのがわかる。うーむ、あんなに素直に青空の中へ伸びていけたら悩みなんかなくなってしまいそうだ。
       午後の第一弾は Ta Som。ここは Preah Khan の縮小版といったところだろうか。一番奥のゲートの外側は1本の大木に飲み込まれていた。自然の生命力は人工物など凌駕してしまうほど強いのだ。人間は絶えず努力していかなければ、いつかは自然に飲み込まれていくのだろう、、、という気持ちを抱きつつ自転車をこぐ。Eastern Mebon へ。ここは眺めはいいもののかなり壊れてしまっていた。日本の神社にある狛犬の様な石像が、階段の登り口の両脇で対になって鎮座していた。Pre Rup は中に入らず外から写真だけ撮る。ここから Ta Prohm への途中、小学校に寄ったり床屋で写真を撮ったりしてなかなか面白かった。しかしいざ Ta Prohm に到着してみたら自転車のロックの鍵がなくなっているのに気づいた。仕方なく路面に視線を落としながら床屋あたりまで戻ったが、ちょっと見つけるのは無理とあきらめ街へ帰ることにした。無念。帰り道は少し近道になる新しい道路を通ったが、とにかくケツが痛くて参った。ウルグアイで牧野を馬で走った時以来か。今日は40kmくらい走っただろう。チャリを返しに行って鍵をなくしたと言ったら、「いいから」と言うだけで弁償する必要もなかった。本当によかったのかなあ。たった1ドルで一日自転車を借り、その上鍵をなくしてしまい申し訳なく思う。4時20分ホテルに戻る。一気にビールを飲んだら胸がすごく痛くなった。シャワーを浴び、洗濯をしてから6時半過ぎに昨日と同じレストランへ。今日は Fried noodle with vegetables & pork + Fried beef with mashroom にした。カンボジア料理とタイ料理は似ているという。「違いは」と聞いたら、「カンボジア料理の方が less spicy」だって。それならばタイ料理の方がいいだろう。ヌードルはいわゆるビーフンでイマイチ。牛肉とキノコの方はなかなかうまかった。ウェイトレスのひとりがテーブルの側に立って、俺が食べているのをじっと見つめていて不気味だった。今日は他にも客が入っており、みんな忙しく働いているというのに何で俺のそばについていなきゃいけないんだ。

15日 晴れ
       8時45分頃ホテルを出てチャリを借り、いつも通りアンコール方面へこぎ出す。朝の風はやっぱり気持ちいい。道行く人の笑顔と挨拶も爽やかだ。まずは Phnom Bakheng へ。小高い丘の上にあり夕陽がきれいなところらしいが、その時間帯は観光客で溢れるというので朝のうちに行くことにした。かなり険しい坂を上る。ここが映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」に出てきた丘だと思う。アンコール・ワットが靄にかすんで彼方に見える。カンボジア人の一家がいて、いい被写体になった。遺跡だけ写してもつまらないが、ローカルな人が入ると味のある写真になる(多分ね)。眺め良し、朝は空気がかわいていて気持ちいい。お次はアンコール・トムを通り過ぎて The Little Circuit に入り、Thommanon へ。ここはまるで教会のような遺跡だった。着いてすぐに観光バスが2台も入ってきて興醒め。団体客というのは個人旅行者に対して暴力に近いものがある。雰囲気のいい遺跡が一瞬にして人で埋まり俗化する。えっちらおっちらチャリをこいで Ta Prohm へ向かう。今日もケツが痛い!Ta Prohm もやっぱり人が多い、、、が、この遺跡はでかいのであまり気にならなかった。まさに遺跡の中に木が根を張り、枝を這わせている。森が徐々に遺跡を飲み込んでいく途上にあるのか。森と人口の遺跡が共存しているようにも見えるし、対峙しているようにも見える。いくら固くゆるぎない建造物も、ゆっくりゆっくりと成長する自然には無力だということか。人は自然とどの様に共存すべきなのか都市の生活からは答えが見えてこない。アンコール・ワットやアンコール・トムも発見された時にはこの Ta Prohm の様な姿をさらしていたのだろう。お次は Banteay Kdei へ。かなり崩れかけてはいるものの、その規模はタイの遺跡などよりは全然大きい。アンコールの文明の素晴らしさがどの遺跡からも伝わり、疲れを忘れる。
       アンコール・ワットまで戻り、おととい昼を食べた店で遅い昼食。2時近くになっていたので腹が減った。ビール2缶、チキン・チャーハン、牛肉と野菜の炒め物をゆっくり食べて満足した。甘い練乳がたっぷり入ったアイス・コーヒーで締めくくり、ざっと8ドル。3時までいて、最後に再びアンコール・ワットへ。やっぱり日差しは午後の方が良好だ。しかも結婚したカップル2組がちょうど到着したところで、うまいこと遺跡をバックにして写真に収めることができた。4時過ぎまでいて帰路につく。男の子2人乗りのチャリと一緒に走り、写真を撮ったりした。

16日 晴れ
       昨晩、9時過ぎに寝ちゃったので朝5時過ぎに目が覚めた。7時頃までベッドの中でまどろむ。8時前に朝食へ。客はほとんど出かけた後で、広いレストランにあるテーブルの2割も埋まっていなかったのに、何故か日本人の母娘連れが俺のテーブル(4人卓)に座ったのでビックリした。いったい何なんだ。20代半ばくらいの娘が変の字。すぐに2人が料理を取りに行ったので彼らを案内してきたウェイターに「何でこんなにテーブルが空いているのに俺のところに連れてきたんだ」と文句を言ったら、「この席がいいと言うんだ」とすまなそうな顔をしていた。急いで食ってもう一杯飲みたかったコーヒーも飲まずに席を立つ。8時20分に部屋を出てチェックアウト。空港まで送ってもらいすぐにチェックイン。$15空港税。9時半のフライトはすごく混んでいたが10時の便はガラガラでのんびりできた。往路と同じくプロペラ機だった。11時前にバンコク着。タクシーで街へ。空気がかすんでいる。明らかにスモッグでもやっている感じで驚いた。住んでいた頃にはあまり気にもならなかったが。ランドマーク・ホテルにチェックイン、2312号室。まだ12時前だ。12時半頃から買い物へ。Skytrain (BTS) でチッドロムへ。この時期、バンコクも風がさわやか、蒸し暑くなくてすごく歩きやすい。チッドロムの駅からゲイソンプラザの中を通ってWTCへ。鎌倉山でカツ定食を食べてからCDを買いに行く。Joni Mitchell "Blue", The Beautiful South "Blue is the colour", Phil Collins "Testify"の3枚を買う。パンティププラザへ行くもMacのソフトはかなり高いので買わなかった。それにしてもすごい人だ。しかもみんなつまらなそうな精気のない顔をしている。カンボジア人の方が余程生き生きしていて表情が豊かだった。やっぱり都会の人間はこんな顔になってしまうのか。俺も横浜で歩いている時はこんなつまらなそうな顔をしているのだろう。うーむ、問題だ。しかし歩道に所狭しと並べられている出店はスゴイの一言。タイ人の食に対する執念は生半可ではない。どこへ行っても食べ物で溢れているのは世界広しといえどもタイくらいだろう。
       帰りはアソックまで行ってロビンソンに寄る。内装が随分と変わってしまい、スポーツ用品もCDも電気製品もなくなってしまった。その後、地下のスーパーへ。染み抜きとビール4缶とドリアンを買う。次はアジアブックスへ。J. D. Salinger の「The Catcher in the Rye(ライ麦畑でつかまえて)」を買う。1945年に書かれた名作は21世紀でも読むに耐えうるか? ランドマークのアジアブックスで「Working with the Thais」を探したがなかった。3時過ぎに一旦ホテルへ戻った。夕方5時過ぎから今度はエンポリアムへ。ナット・ミリヤ(俺が好きなタイ人の歌手)のCD2枚とThe Beautiful South の「Painting It Red」を買ってしまった。アジアブックスで「Working with the Thais」を見つけて迷わずに購入。薄っぺらな本なのに375バーツは高いぜ!ちょっと服を見て回ったが買うのが面倒になってホテルへ戻った。部屋のテレビはNHKの映りが悪くてBBCを見ていた。Robin Cook の「Chromosome 6」が面白くなってきた。(2003 プロジェクト長期専門家 柏崎 佳人 記、「動物におけるニパウイルス」研究協力プロジェクト 元短期専門家)

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