JICAカンボジア事務所
力石所長 殿

出張報告書

2005年1月18日
JOCV (16-1) 職種:獣医師
坂井田 総子

今回の出張について、以下の通り報告します。

期間:2005年1月11日から12日
出張先:シェムリアップ州・プノンバケン・ゾウ飼育場およびシェムリアップ州獣医事務所

【概要】

今回の出張の目的は、昨年10月と12月に2回ほど搬入された皮膚病を呈したゾウの検体について、きちんとした採材をして検査を再度行うこと、治療方針について事務所獣医師と相談することであった。その過程を通してカウンターパートの疾病および検査に対する理解が深められるよう、事前に2度、ゾウの皮膚病と、その検査・診断・治療法についての勉強会を実施した。また、一泊二日と短期間であったことから、当日現地で行う作業、および戻ってからラボで実施する検査について整理しておいた。

現地では午後から作業を開始したが、シェムリアップ州獣医事務所のVichさんの案内で、ゾウ飼育場へ行き、採血と皮膚の採材、当該ゾウの写真撮影を行った。その後獣医事務所併設のラボへ向かい、現地で出来る検査を実施した。顕微鏡と遠心器があると聞いていたのだが、顕微鏡は光量が足りず、ごく低倍でしか観察することができなかったので、その検査についてはプノンペンのラボに帰ってから、もう一度実施することになった。

翌日は再び、ゾウ飼育場へ赴き、いくつか確認したかった点についてもう一度観察し、写真を取り直した。ゾウ飼育チームのリーダーもみえ、当該ゾウのみ、別の場所で飼育することなど提案したが、場所がなく出来ないとのことであった。餌、水浴び、ワクチン接種、これまでの治療暦など、診療ノートを見ながら聞き取りをすることができた。当日行った検査のみでは、皮膚病の原因を確定することは出来なかったが、プノンペンのラボでの追加検査、および、写真と経過について専門家の方に意見を伺ってみた結果と合わせ、後日もう一度検討することになった。

ゾウ舎全景 計18頭飼養

耳静脈からの採血風景

【感想】

自分自身ゾウの病気について調べるのも、診るのもはじめてだったので、日本から資料を送ってもらったり、インターネットで調べたりするなど、一から勉強することとなってしまった。そのため内容については十分であったかどうかあまり自信はないが、カンボジアにおけるゾウの飼育状況について知ることも出来たし(現在約162頭飼育、野生ゾウは300〜600頭、2002年、FAO)、2年間活動していく上で、よい機会になったと思う。また、配属先ラボの出先機関に当たる地方獣医事務所の獣医師が診療に当たっているということからも、今後も検体が搬入されたり、相談にのる機会もあると思われる。「採材して、検査をし、その後の方針について、現地の獣医師と相談する」、というラボ本来の仕事の過程について、示すことができたのは、貴重な機会であった。事前の勉強会で話した内容や、治療方針についても、カウンターパートはきちんと理解して現地で説明することができ、とてもよい経験になったのではないかと思う。

今回、ゾウ使いの少年たちがゾウを自在にあやつり、また、プノンバケンで人を乗せて働く姿など見て、日本とはまったく違う形で、ゾウがカンボジアの人々との関係を持っていることを知ることが出来た。日本では動物園にしかゾウは飼育されていないし、飼育係や獣医師ですら、手を触れたり押さえつけたりすることは非常に難しいことで、ましてや治療などしようものなら、ショックで何日も餌を食べなくなることもあるという。アンコールワットの建設時にも大きな石など運んでいたゾウが描かれているし、そういったことがよいか悪いかは別にして、一つの文化の違いについて触れることができ、大変興味深かった。また、バスに乗っている間、道沿いの農家を見ながら、カウンターパートは折に触れ、カンボジアの畜産や農業について話をしてくれ、とても勉強になった。地方獣医事務所の獣医師から仕事について話を聞く機会が持てたのも、普段接することのない自分にとっては、とても興味深かった。


シェムリアップ州獣医事務所:右が事務所、左がラボと病院

獣医事務所内ラボで検査をするカウンターパートと所員
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