NAHPIC の概要 (2004年12月31日現在)       カンボジアJOCV(16-1) 坂井田総子

正式名称:農林水産省・畜産局・家畜病性鑑定所
(National Animal Health and Production Investigation Center: NAHPIC)

1. スタッフについて
・所長、副所長(2名)以下、スタッフは約25名
・事務局の他、疫学、血清・ウイルス学、細菌学、病理学、寄生虫学、血液学、生化学の7つの部門がある。それぞれ1〜4名が配属になっているが、半数以上の部門では全員が常時出勤しているわけではない。
・それぞれの部屋にチーフがいるが、カンボジア国内には獣医学の勉強が出来る大学は3校しかなく、4年生の王立農業大学を卒業した人が、チーフについていることが多い(他は3年生)。スタッフは王立農業大学を「university」他を「college」とよび、中での待遇が大きく違うため、就職してから土日に大学の授業に通い、レポートを提出して、4年制の資格を取るスタッフもいる。
・JOCVの派遣は、細菌学部門に1名(2年間)、病理学部門に1名(1年6ヶ月)、その後血液学部門に移動(9ヶ月)、自分で3人目となる。

2. 組織の予算と給料について
・スタッフの話では予算はなく、現在倉庫にある備品や試薬類は 1. 世界銀行(world bank)からの援助(2年前に世界銀行から、総合的に組織を構築するための専門家が来ていて、各部門を回って少しずつ教えていたときに、大量に購入したものがほとんど)と、2. 各部門に入っている援助団体がそれぞれのプロジェクトのために購入したもの。1. の使用に際しては申し込み書類の提出と所長の了承が必要。2. については、援助が入っている部門以外の使用は不可能な雰囲気。予算がないとは言うものの、必要な物品は書類を所長に提出すれば、時間はかかるけど(数ヶ月?)購入可能な場合もあるとのこと。
・給料は国内の他の省庁とほぼ同様で、月10〜20$前後だが、世界銀行のAPIP(Agriculture Productive Improvement Program)という事業で、スタッフが出勤しなくなるのを防ぐために毎月別に給料を渡しているとのこと。所長は170$、各部門のチーフは150$、他のスタッフは120〜130$前後。毎日きちんと出勤することが条件なので、常時出勤しているスタッフの出勤状況はかなりよい。この援助も2005年で終わりであるがその後については未定とのこと(2004年6月に一度終わるといって延長した)。

3. 業務内容
・農家などから依頼のあった検体について各部門が取り組んで原因を探り、結果をもとに対策をとるというのが基本の流れであると思うが、検体はほとんど来ない状況。検体を搬入して検査を依頼する場合、農家はお金を払わなくてはいけないし(例:血液学部門で1検体5$、血清・ウイルス学部門で8$)、運搬費用もかかるため、お金のない農家はなかなか搬入できないのが現状。
・現在各部門では各地で採材をして検査をするという、調査業務を中心に行っている。各部門の業務の概要と、援助団体は以下のとおり。


センタースタッフ、カンボジアの伝統的なお祭り、カトゥン祭にて
疫学部門:HPAIについて調査したデータの整理と採材、聞き取りなど。国連食料農業機構 (Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO) の援助の下、市場で鶏を買って出荷元を調べ、HPAIの感染状況を調べるとか、農家から鶏を買い上げて、その検査(実際の検査は病理部門で解剖後→血清・ウイルス学部門検査実施)を行うという疫学調査を行っている。この事業のためにときどきFAOの職員が来ている。何か検体が搬入されれば、聞き取りや対策のアドバイスをするのもここの部門。

血清・ウイルス学部門:疫学と共同でのHPAI調査の他、Project on Animal Disease Control in Thailand and Neighboring Countries (ADC) という、JICAとタイが中心に行っている、東南アジア各国の感染症診断レベルアップのためのプロジェクトの援助が入っており、2年ほど前から各種疾病について全国調査を実施・継続している。自分が配属になるのと同時期くらいまで、フランスからのボランティア(FAO所属)が2年間配属されていた。12月にはタイの専門家が1週間、HPAI診断法の指導のために来ていた。スタッフは各国に研修に行き、業務もかなり忙しい様子。
    いろいろなところから機材や物資、専門家が来ているが、チーフが言うには消化不良な感じ。特にレジュメも事前の段取りなどの説明もなく、ただ口で説明しながらどんどん作業をするという方法で教えられても、あまりよく分からないとのこと(それを本人に言えないのは国民性?性格?)。フランス人のボランティアが、一通りHPAIの検査法について立ち上げていったが、その方法もタイからの専門家が変えてしまった(12月末にもう一度来たそのフランス人ボランティアいわく、一番大事な検査を省かれてしまったとのこと)。いろんな人が来て教えてくれるけど、みんな言うことが違うから、どうしたらよいのか分からない、というのは、この部署のスタッフだけではない。ある程度理解が深まってくれば、どこが大事で、カンボジアではどうやって行くのが一番いいかを自分で選択できるようになると思うのだが、今は言われるままに、やっているという印象である。
    次はぜひこの部門にJOCVを派遣して欲しいといわれているが、他からの支援が一番多いこの部署にどうやってJOCVが入っていくかまだイメージがわかないし、自分も今は質問されたことに答えるくらいしかしていないが、いまだにどうやって関わっていくべきか迷っているところである。

細菌学部門:解剖後の材料や、メーカーから来る牛乳細菌検査依頼について実施している(ただしごくごく少ない)。初代JOCV隊員が2年間いたのと、スタッフ2人が日本に“研修員推薦制度”で10ヶ月ずつ研修に行っていた(うち1人は今アメリカで働いている)ため、基本的な検査はこなしている様子?。

病理学部門:検体が搬入されたときに解剖するほか、牛などは持ち込めないため地方に解剖に出かけて行った事もある(自分が配属されてからは今のところない)とのこと。今は疫学と血清部門で行っているHPAIの調査の際に、持ち込まれた鶏を解剖し、処理する業務と、NAHPIC全体の備品の管理が中心。前任者が配属されていた際に、チーフが日本へ、同じく“研修員推薦制度”で10ヶ月研修に行っている(しかし現在期間未定で休業中)。解剖したあとの組織切片を作って観察する組織化学的検査は行われておらず、解剖しか実施していない状態。スタッフと話をしたが、いくつかの機材がないと組織化学的検査は行えない状況。
    前任者が2001年から2002年にかけて1年6ヶ月配属されていたが、機材がないのと、検体がほとんど入らないことから、活動が出来ず、血液学部門へ変わったとのことであった。血液や糞便だけで検査が出来る部分もある他部門と違い、家畜そのものの搬入がないことには検査が出来ない病理部門は、難しい面が多いが、このまま組織検査に取り組まないでいるわけには行かないと思う。機材についても、すべてをオートメーション化するのには確かにお金もかかるが、手作業を前提にしてもよいのなら、あといくつかの機材があれば、組織検査は可能であると自分は考えている(別紙参照)。ただし、継続して組織検査を実施するには、試薬が続けて供給される必要があるし、今後の方向性などが分からない部分である。

生化学部門:女性の職員が1人配属されているものの、現在は別の組織(NGO団体:World Visionという人権問題に関する団体)で働いている。
寄生虫学部門:トンレサップ湖〜メコン河流域の肝蛭の調査を行っている。1週間に約150頭の牛の糞便のサンプルについて検査を実施。採材は各州の provincial staff が実施して持参する体制。4年間で全域を実施予定で、今ちょうど半分程度終了した段階。メインのスタッフ4人のうち3人は北海道帯広市の原虫病研究センターで研修(10ヶ月)を受けている。基本的な方法は理解しているし、スタッフは英語が堪能な人が多く、英語の教科書など読むのも苦にならないようで、現在、資金面の援助だけで仕事を進行させている部門である。

血液学部門のカウンターパート(女性2人)

4. 配属部門(血液学部門)の概要
・スタッフは3名だが、1名はほとんど出勤していないので、実際のカウンターパートは、血液学部門チーフ(女性・32歳)と、スタッフ(女性・34歳)の2名。
・前任者が9ヶ月配属されていた間に、これまで実施していたいくつかの基本的な血液検査のほかに、血液塗沫標本の観察(血球の観察・分類と、住血微生物の観察)、および buffy-coat の観察が行えるようになった。二人とも基本的な手技はやや手際に差が見られるものの、しっかり理解してスムースに出来る様になっている。
・検体は自分が配属されてからの5ヶ月で、犬が7検体、牛が13検体来たのみ。この他、HPAIの調査で採材されてきた鶏やアヒルの検査も実施。
・顕微鏡観察技能の向上と、検査結果をどう捉えるかという理解を深めることが重要であると思う。まだ実施できていないいくつかの検査については立ち上げることを考えているが、それらも含め、今ここで実施している検査は、もし今後専用の機械が入ることがあれば、自動で検査可能である。そのことも踏まえ、優先順位をつけていく必要がある。分光光度計があるけど使われていないので、それを使ってヘモグロビンや、生化学検査についての取っ掛かりということで、BUNの検査を行えるようにしたいと考えている。(FS)

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