農家向け「養豚セミナー」をジンジャで開催 (2008 年 8 月 16 - 17 日)

      ムバレ獣医事務所の所長 Dr. ウェレはジンジャの出身であり、以前はジンジャの獣医事務所で働いていたため、今でも家族はジンジャに住んでいる。週末は家族の元へ帰るのが普通であり、そこで小さな養豚農場を経営しているという。そんな経緯から、ジンジャ近郊で養豚を営む農民グループとつながりを持つようになったそうだ。「彼らのために養豚の基礎に関するセミナーを開催したいので資金援助をして欲しい」、という申し出を受けたのがかれこれ 5 月頃だったであろうか。プロジェクト・サイトではないジンジャでの開催であることと、疾病対策を主眼とするプロジェクトの活動内容とは若干かけ離れた内容であることから、しばらくは口を濁して乗り気ではないそぶりを見せていた。しかしその後、既にあきらめただろうと思っていた 7 月に入ってから再びこのことが話題に上り、「まあ直接農家に裨益するセミナーだし、金額的にも大きくはないからいいかなあ」という気分になり、試しに一度やってみるかということになった。時は短期隊員の活動の中間地点にあたる 8 月半ば、ジンジャでの養豚セミナーの後、エンテベでの JICA セミナーにも彼らが引き続いて出席できるようにセットした。
      当日の朝 7 時半、前日にカンパラへ上がってきていた近藤くんと戸田くんを協力隊のドミへ迎えに行く。東部にいる二人 (加藤さんと越後谷くん) とはジンジャで落ち合うことにしていた。土曜日だということもあり、カンパラ市内の渋滞もなく 9 時前にはジンジャに到着した。約束のベルビューホテルへ行くと、太った体に白衣をまとった Dr. ウェレが新聞を広げ、開けたばかりのコーラを飲み始めるところだった。挨拶をしてから「何時に始まるんだい?」と聞くと「9 時だよ」という。その時点で既に 9 時は過ぎていた。コーラなんか飲んでいる場合じゃないだろう。しかしあわてる様子もない。だいたい Dr. ウェレが白衣を着ている姿など見たのは初めてだ。これはきっと農家に対するデモンストレーションだろう。もう、ウガンダ人は格好ばかり気にするんだから。とにかく急いでコーラを飲ませたが、今度は携帯電話の修理に行った友人が戻ってこないという。あーあ、ウガンダ人の時間的感覚はこの程度なのだから、あまりセカセカしても仕方がないか。その友人がしばらくして姿を見せ、ようやく我々はセミナー会場へと車を走らせた。

会場となったキヴブカ小学校

キヴブカ小学校

講義をする Dr. ウェレ

女性のレクチャラー。なかなかよくまとまった講義だった。

      会場であるキヴブカ小学校に着いたときには、既に 10 時近くになっていた。教室には 30 人を超える農家の人たちが集まっており、遅れてきた我々を暖かく迎えてくれた。挨拶の好きなウガンダ人に習ってお決まりの挨拶を交わし、持参したペンやノートを配り、いよいよ講義の始まり始まり。初日は午前中に「ウガンダの養豚業」「豚の管理システム」「豚舎の構造」「豚の餌」について、そして午後は「豚の疾病」と「一般的な飼養管理」というメニューであった。結構ガヤガヤするのかと思いきや、参加者は小学生用の小さな椅子に座って熱心にノートを取り、静かに耳を傾けていた。発表者 (Dr. ウェレの他に 2 人) は簡潔にわかりやすく講義の内容をまとめており、話す言葉は現地語であったものの書き記したノートは英語であったので、筆者もせっせと手帳にその内容を書き写した。ちょっと不思議だったのは、黒板がありながらその上に模造紙を貼りマーカーで要点を書き綴っていたことで、何故黒板に直接書かないのか、聞こうと思っていたその理由は結局のところ聞きそびれてしまった。
      東部組の二人、加藤さんと越後谷くんからはムバレ出発前に電話をもらっていた。ジンジャのひとつ手前の町、イカンガに着いたらもう一度電話を入れるように伝えておいた。そして昼前に「イカンガらしきところに着いた」との電話が入ったので、近藤くんと戸田くんをジンジャまで迎えに出した。ところがそれから 1 時間ほど後、もう一度、越後谷くんから電話があり「どうもジンジャで降りそびれたらしい」という。確かにバスはジンジャの街中を通らないのである。しかし、ナイル川にかかるダムを渡るとジンジャを過ぎたということであるから (そのくらいのことはわかっていると思った)、そのダムを渡ったところにいるのかと思いきや、既にマビラの森を過ぎたと言う。マビラの森はジンジャから 30 分ほどもカンパラ方向へ走ったところにある。次に大きな町はムコノだが、ムコノまで行ってしまうとカンパラはもう目と鼻の先。「ジンジャに来るのはあきらめて、この週末はカンパラでゆっくりしていれば」と伝えて電話を切り、迎えに行った近藤くんと戸田くんを小学校まで呼び戻した。
      我々は参加者たちと昼食を食べ、午後の講義を聴いていた。すると 3 時頃に再び越後谷くんから電話が、、、。「ムコノで降りてマタツ (乗り合いバン) に乗り、ジンジャまで来ました」という。それであわてて近藤くんと戸田くんを呼び、「もうこっちには戻って来なくていいから、2 人をピックアップしたら 4 人でナイルの源流でも見学してこい」と送り出した。ムバレからジンジャ行きのマタツに乗ればこんなことにはならなかっただろうに、カンパラ行きの大型バスに何か乗るからこんな羽目に遭うんだよな。

小学校の校庭内には沢山の標語が掲げられていた。以下の 3 枚もその中で見つけたものだ。とても小学生に適切な標語だとは思えない。それに内容的にもいまひとつおかしい気がするのだが、、、。
早期結婚にノーを セックスを遅らせろ 処女は健康的

隣の教室に吊されていたカード

二日目の午前中、セミナーに参加する隊員 4 人

二日目の講義終了後、みんなで記念撮影

      二日目はまず昨日の復習から始まった。Dr. ウェレが適当に参加者を指し、昨日の講義の内容について質問をしていく。初っぱなは 10 人ほどしかまだ人が集まっていなかったため、ほとんどの人が当てられたが、みんななかなか優秀でよどみなく質問に答えていた。それにしてもいくらセミナーの講師とはいえ、立派な大人たちを前にして Dr. ウェレの態度が非常に偉そうであった。どうしてウガンダ人は多くの人を前にすると演説をブチたくなるのだろうか、、、不思議だ。
      午前中の講義は「マーケティング」と「記録と記録のとり方」の 2 コマのみ。徐々に人も集まり、10 時を過ぎた頃には昨日の参加者が全員顔を揃えた。「記録と記録のとり方」は女性の講師の方が担当されていたが、昨日同様に講義の内容をわかりやすく簡潔にまとめており、なかなか感心させられた。
      11 時過ぎには予定していた講義を全て終え、記念撮影の後、バスに分乗して近隣の養豚農家を 2 軒と、ジンジャ側ナイル源流の対岸に建つ種畜牧場の豚舎を見学に出かけた。訪問した各豚舎で色々と説明をするのかと思いきや、3 カ所共に各々が勝手に見学して終わり。やはり講師の 3 人が参加者を引率し、豚舎の構造や各農家での飼養方法についてあれこれと解説を加えた方が、より効果的な視察となったであろう。その時の様子については以下の写真をご覧頂きたい。

1 軒目の農家。

1 軒目の豚舎で説明をする Dr. ウェレ (中央)

2 軒目の農家の豚舎

2 軒目の農家の牛舎

農家のゲストブックに記帳を済ませた隊員 4 人

集まってきたガキども

種畜牧場の豚舎

豚舎に群がって観察するセミナー参加者

種畜牧場の古い豚舎

良からぬ相談をする男 3 人

種畜牧場からビクトリア湖を望む。

      視察から戻ると食事の準備ができており、ウガ飯 (ウガンダご飯) の昼食となった。外国人特権でいの一番に食物にありついた我々は、これまた我が儘を言って机と椅子を外に並べてもらい、映画「家族ゲーム」よろしく横に並んで農家の奥さん手作りの食事をいただいた。食事の後、参加者お待ちかねの日当を渡すことになった。筆者としては順番にひとりずつ取りに来てもらえればそれで良いと考えていたのであるが、オーガナイザーたちは結構厳しくて、昨日の参加者記録を見ながらひとりずつ呼び出し、ズルをする人がいないように目を光らせていた。ウガンダ人は自分の同僚や仲間に対してもこういうところが厳しくて驚かされる。ひとり、セミナーの参加者ではない食事のおばさんが昨日も今日も日当を手にしたのだが、講師の 3 人がそれに気がついて「彼女はもらう資格などない」と、かなり憤慨していた。そのくせ全て終了後、Dr. ウェレがつかつかと寄ってきて「俺の車にガソリン入れてくれ」ときたもんだ。「ひとには厳しく自分には甘く」か。まあ、筆者もその傾向があるので批判はできないが、、、

沢山盛って喜び勇む越後谷隊員

ウガ飯を盛る戸田くん (中央) と加藤さん (右端)

ウガ飯

ウガ飯を食べる隊員 4 人

      カンパラへ戻る道すがら、時間がちょいと早かったので長期隊員の任地でも見せようかと考え、環境教育隊員としてマビラの森に配属されている熊本さんのところに寄った。何でも日本の参議院議員ご一行様が来ていて、つい今し方帰ったのだという。お偉いさん相手の説明+接待でクタクタな熊本さんにムチを打ち、森の一番短いトレッキング 1 時間コースを案内してもらった。動物や鳥の姿はほとんど見かけなかったものの、森の静けさと、凛とした空気と、樹木の息吹と、熊本さんの興味深い説明を堪能することができた。隊員 4 人は、トレイルの終点近くで遭遇したアリの隊列に興味を持ったらしく、しばらくじっとその様子を観察していた。昨年来た短期獣医隊員の中には、このアリに取りつかれてひどい目に遭わされた人がいたらしい。

マビラの森で熊本さん (左端) と。

アリの行列を観察する同級生 2 人

ニコリともしない子 (左) と出っ歯の子

ニコリともしなかった子 (右端) がほんのり笑った瞬間。真ん中がサトウキビをかじる女の子。

      いっしょにカンパラへ上がりたいという熊本さんの準備を待つ間、集まってきた近所のガキを相手に暇を潰した。特筆すべきは上の写真、緑色のシャツを着た男の子である。近くに寄ってきたにもかかわらず、全く言葉を発せず、能面のような顔を崩さず、怒っているのか泣きそうなのかも見当がつかず。誰が何をしても反応がなく、しかしごく稀にふっとかすかな微笑みを浮かべる。が、それも流れ星の如くすぐに消えてしまう。ヤツはただただ固まっていた。とうとう我々 5 人の誰ひとりとして彼を笑わせることができなかった。しかし、いざカンパラへ出発するという段になり、我々が車に乗り込むやいなや、その子もワーっと車に駆け寄って来て手を振ってくれた。さっきまでとは打って変わってうれしそうな表情を顔に浮かべている。笑うきっかけがつかめてうれしかったのか、わけのわからない不躾な日本人がようやく帰るのでうれしかったのか、はたまたしかめっ面をしているのに疲れたのか。「あの子も笑うんだ」と、車の中も笑いで満ちた。何か得な子である。
      その緑の子といっしょにいたのが出っ歯の子だ。この子はなかなか愛想があってうれしそうに笑う (単に歯が出ていて口が閉まらないだけだろうという説もあった)。すぐ目の前にいながら、無言で手を振ると彼も無言で振り返してくれる。それも 2 度振ると 2 度だけ、3 度振ると 3 度だけといった具合に同じだけ返してくるのがおかしかった。きっと無駄なことはしないミニマリストなのだろう。なかなか堅実でよろしい。
      もうひとり気になったのはサトウキビをかじっていた子だ。固いサトウキビをバリバリ言わせてかじっており、かじりながらもずっとうれしそうに笑っていた。どう見ても頭が良さそうには見えない。後で熊本さんに聞いたところ、女の子だというので驚いた。頭はやっぱり悪いらしい。

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2008 年 8 月 長期専門家 柏崎 佳人 記