鎌田短期専門家、活動記 (2008 年 8 月 2 - 30 日)

      エンテベ・ラボの細菌検査室は診断棟入り口のすぐ脇にあり、見学者がまず案内される部屋である。筆者も赴任して最初に目にしたのがこの検査室であった。その時の印象はというと、"何か雑然としていてとらえどころがない" というもの。その印象はその後もずっと変わることがなく、どうにかしなければいけないと思いつつも、なかなか手をつけることができないでいた。筆者自身、細菌分野が苦手ということもあり、どこをどう変えようか考えあぐねていたのだ。これも大学 3 年生の時、初めての細菌学の実習で、当時の教授に「君は細菌検査に向かないね」と言われたのがトラウマになっているせいだろう。全く教育者たるもの、これからという若者にそんなことを言うべきではない !!
      というわけで、細菌分野については当初から短期専門家にお任せしようと考えていた。日大に人選をお願いし、幸か不幸かこの任をまかされたのが臨床病理学研究室の教授、鎌田先生である。筆者は 15 年ほど前のイギリス留学中、やはり牛疫の研究でイギリスに滞在されていた鎌田先生とお会いしたことがあった。しかし先生はその時のことを、全くすっかりきれいさっぱりお忘れになっていた。

マケレレ大学獣医学部見学
分子生物学研究室。見学したいと申し出るといつも連れてこられる部屋だ。トリパノゾーマの研究が主体。
アメリカはウォルター・リード財団の全面支援によって整備された鳥インフルエンザ・ラボ

病理学研究室のスタッフに話を聞く。

組織病理標本を前に学生たちをからかう。

学生実習室

小動物クリニック

      鎌田先生がラボに来られた初日、細菌検査室にお連れしたところ、そのとらえどころのない状況を目にされ、ガックリと椅子に腰を下ろし考え込まれてしまった。やはり鎌田先生にとっても、この検査室の状況は予想の域をはるかに超えるほど雑然としていたのだ。どこがどうダメなのか、あまりにも不具合多すぎてうまく指摘できないのだろう。これも真っ新な部屋で、さあこれからどうにでもアレンジしてください、というのであればまだ簡単である。しかし現状では、それなりに機材や物は置かれているがそのどれもがしっくりと馴染んでいない。これを機能的に変貌させるのは大変だろうなあ、ということは筆者にもよく理解できた。
      鎌田先生はまず、カーテンで部屋に仕切りを作られた。部屋が診断棟入り口のすぐ脇にあることから、風や昆虫などがすぐに入り込んでくるからだ。またラボ・スタッフのたまり場となっていることから、人の出入りが多い。それゆえ部屋に入ったところにスノコを置き、そこでサンダルに履き替えることにし、検査室内部を衛生的に保てるように改造された。部屋の天井近くにある開け放たれた換気口も塞ぐことにした。
      技術指導の内容は、細菌学的診断法の基礎である。滅菌消毒法、培地の作製法に始まり、菌の培養や染色など、基礎中の基礎をみっちり指導していただいた。第 3 週目には、地方獣医事務所スタッフを対象とした細菌に関するセミナーを予定していたため、その準備にも大忙しでおられた。

JICA セミナー --- 細菌と細菌病 (8 月 19 日から 21 日)
エーゼの使い方を説明する。
スライド・グラスを取り出し、これから染色の実習

ムピジからの二人を手助けする戸田くん

手前はキボガのスタッフ二人と近藤くん。奧はキルフラのスタッフを手伝う越後谷くん。クミからは参加者が現れず!

ムバレ事務所のスタッフ二人と加藤さん

様子をのぞきに来た近所のガキ

図書館での講義風景

細菌の運動性試験のデモンストレーション

      さてそのセミナーであるが、ほとんどの講義と実習を鎌田先生にお願いしてしまった。内容としては講義が細菌学総論、乳房炎とマイコプラズマ、ブルセラと芽胞形成細菌。実習は単染色、グラム染色、芽胞染色、抗酸菌染色、細菌の運動性検査、細菌数測定である。参加者はそのほとんどが短期隊員のカウンターパートであったため、短期隊員たちもエンテベまで呼び寄せ、カウンターパートたちの手助けをしてもらった。最もクミだけは参加者が現れず、クミで活動している越後谷くんはキルフラ事務所スタッフの面倒を見てもらった。しかし、人数的には 5 組 10 人ではなく 4 組 8 人になったのでやりやすかった、というのが本音である。参加者たちは普段、実際にする機会のない細菌の取り扱いや染色、鏡検に興味を惹かれた様子で、熱心に取り組んでいた姿が印象的であった。
      今回、短期隊員の赴任に合わせてインキュベーターやオートクレーブ、シャーレやエーゼ、培地、等々を各獣医事務所に供与した。まずは乳房炎の検査から始めることを目標にして、徐々に細菌の検査も地方でできるようにしていけたらと考えての配慮だ。このセミナーで使った染色液やアルコールランプなどを参加者に持たせたので、彼らが各事務所に戻ってから実習で学んだ技術を短期隊員と共にもう一度試して欲しいという願いを抱きつつ、3 日間のセミナーを終えた。最後はもちろんバーベキュー・パーティーで締めくくった。

左からロバート、モーゼス、近藤

左から戸田、ムソケ、越後谷

左から加藤、フィリップ、エチュー

染色した標本を鏡検する。

居残り二人組

実習室の窓の外

兵どもが夢のあと、、、実習はプロジェクトで改修した第二診断棟の洗浄室を使った。しかしこの部屋で鏡検をするにはちょいと狭いため、隣の病理検査室に顕微鏡を運び、そちらに移動して実施した。

      鎌田先生最後の週は、ちょうど実習に訪れた学生 3 人も加わり、再び細菌の分離・培養・染色法の指導に費やされた。筆者がキボガで採材してきたブルセラ病を疑う山羊の材料があったため、特にブルセラ菌の分離に焦点を当てて指導をされた。しかしキボガのスタッフがローズ・ベンガル陽性だと言ったその山羊は、解剖後、筆者が検査したところ陽性とは言い難く、案の定、ブルセラ菌は分離されなかった。「何事も人任せにしてはうまくいかない」という、これまでに何度も痛い目に遭っている教訓を再び痛感させられて、4 週間にわたる鎌田先生の技術指導が終わった。

細菌検査室での指導の様子
細菌検査室のメディア・ルーム
鎌田先生とカウンターパートのキデガ

学生 3 人とキデガに写真で説明する。

雑然とした実験台から仕事をしているという印象を受ける。

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2008 年 8 月 長期専門家 柏崎 佳人 記