カゾの農場を訪れる。 --- 2008 年 3 月 7 日

      再びカゾを訪れた。プロジェクトの予算で更に建物の修繕をすることになり、そのための費用の一部を持参するためだ。丁度良い機会なので渋谷先生もお連れすることにした。ずっとエンテベにこもりきりであり、まだウガンダのフィールドを視察されていなかったし、また昨年、活躍してくれた日大からの短期隊員はキルフラで活動していないから、丁度良い機会だろうと考えた。
      ちょうど正午にカゾのセンターに到着。フィールド・アシスタントのエンマが待っていてくれた。もうひとりのフィールド・アシスタントだったアキレオが隣町のイバンダに移り、その後釜にまだあどけなさの残るシルヴァがいた。他の県ではフィールド・アシスタントなるスタッフはいないので、ここキルフラだけの制度なのだろうか。県のスタッフではなく、かつ給料も支払われないポジションに若者が入ってくるというのも不思議だ。余程就職先がないのか、それともこの仕事が面白いのか、、、
      修繕を請け負う業者が来ていたが領収書を持参していなかったので取りに行かせ、その間に我々は食事に出かけた。エンマが今日は問題のある農家を 3 軒まわって採材をすると言う。確かに農家を見学させて欲しいとは申し入れたが、採材をするとは聞いていない。センターの責任者であるカトーが画策したのか。自分が不在の間に自分がするべき仕事を日本人に押しつけるとは不届き千万。昼食後、支払いを済ませ、サンプリングの準備をしてセンターを後にした。

サンプリングの準備をする。

最初に訪れた農場

人は多いが見ているだけで、あまり役に立っていない。

採血をする。

      最初に訪れた農場では流産が問題になっているという。約 800 頭いるというからかなり大きな酪農牧場だ。農場のスタッフも多い。800 頭というから搾乳牛は 300~400 頭くらいだろうか。しかし一日に出荷している乳量は 500 リットル程度だというので、1 頭が一日に 2 リットルも出していない計算になる。それでも牧場として経営が成り立っているのだから、ウガンダはよほど人件費が安いのか、乳価が高いのか。いずれにしろちょっとした改善で大きく利益を伸ばせるように思える。
      ここでも我々が到着してから、農場のスタッフがおもむろに牛を集めに出かけて行った。農場からの要望で行うサンプリングであり、かつ連絡はしてあったのにいつもこの調子だ。エンマも彼らといっしょに牛を追いに行ったが、新米のシルヴァはおじさんの日本人ふたりと共に残っていた。待つこと 30 分、山肌にようやく牛の姿が見えてくる。我々も重い腰を上げてクラッシャーの方へと移動する。
      ウガンダ人のスタッフは流産というとすぐにブルセラだろうと言う。他にも色々な感染症が流産を引き起こすし、彼らも口ではわかっていると言うが、それでもすぐにブルセラの名前を口にする。確かに昨年、プロジェクトで実施したブルセラ病調査の結果からしても、特にウガンダの西部でブルセラ病が多いのは事実だ。しかしだからといって何でもかんでもブルセラの名前を出せば済む話ではない。こういう時に診断の重要さを実感してくれると良いのだが、そう感じているスタッフは少ないだろう。いずれにしろ、現在、ウガンダで診断のできる流産を起こす感染症はブルセラ病くらいであるため、今回もブルセラの検査をすることになる。もう少し流産に焦点を当て、レプトスピラやカンピロバクター、ネオスポラなどの診断をできるようにしたいものである。

2 軒目の農場。流産が問題だ。

クラッシャーの底が掘られ、一段低くなっている。

サンプリング風景

3 軒目の農場の母屋。なかなか立派だ。

      採材のやり方は短期隊員の小林さんがいた時と同じだ。クラッシャーに追い込んで尾静脈から採血をする。しかし今回の採材では小林さんもアキレオもいない。カトーはいてもいなくても大差はないが、このふたりがいないのは大きい。採血要員はエンマのみ。それで否応なく筆者も採血係に組み込まれた。採った血液を管理するのは渋谷先生の担当になる。シルヴァは記録係だ。今回、まさか採材をするとは思ってもおらず、渋谷先生は長靴を持参していない。私物のスニーカーを糞まみれにさせての視察旅行となった。筆者は常に公用車の中に長靴を入れて動いているので足下は大丈夫であったが、ゴム手袋をせずにいつも素手で採血をするため、尾根部からの採血で手が糞まみれになってしまった。
      次に訪れた農場でも流産が問題になっていると聞いた。約 20 頭余りからの採血を終えた後で、ブルセラのワクチンを打ったと聞いた。これでは採血をした意味がない。昨年、ブルセラ・結核の調査で陽性になった牧場であり、その後、農業省から配布されたワクチンを接種したのだそうだ。それがわかっていてカトーは何でまた採材のアレンジをしたのだろうか。口では偉そうなことを言っていながら検査の意義をわかっていない。これは後でとっちめてやらなければいけない。ストレスは発散させるに限る。事の次第とブルセラという病気について農場のご主人に話をし、淘汰する以外に牧場を清浄化する手だてはないだろうと説明すると、かなりガッカリした様子であった。
      最後に訪れた農家では乳房炎が問題だという。集乳所で牛乳の買い入れを断られたらしい。牧野の小高い丘の上に建つ農場主の家はなかなか瀟洒な造りであったので、それなりに儲かってはいるのだろうが、せっかく生産した牛乳が売れないのは深刻な問題だ。本来であればカリフォルニア・マスタイティス・テスト (CMT) でも使って一頭一頭乳質を検査しなければいけないところだが、CMT 試薬を持っていないのでここでも採血をすることになった。一応足を運んだのだから、ブルセラくらいは調べておこうかという軽いノリだ。しかしこれでご主人を誤魔化すのは気が引けたので、採材を終えた後に乳房炎の対処法をわかりやすく説明し、今回の採材はブルセラという病気を検査するためで乳房炎を診断するためではないということを明らかにさせておいた。ウガンダ人スタッフは説明責任を果たさないことが多く、これから改善すべき点のひとつだ。

集められてきた牛たち

みんなでクラッシャーまで追う。

ようやくクラッシャーの中へ入っていく。

問題は乳房炎だというのに、何故か採血をする。

      採材から戻ると既に 7 時をまわっていた。あたりは暗くなり始めている。センターではソーラーシステムで冷蔵庫を動かしているが、一日稼働させるには電気量が足りていない。それなのに冷蔵庫はワクチンで溢れ、ブルセラ・ワクチンの一部はクーラー・ボックスに入れたままで保冷剤や氷さえ入れていない。筆者はそれを知って気を揉み、エンマに色々と状況を聞いたりしたが、エンマにとってはいつものことで、この状況を改善する手だてなどないと悟っており、筆者の心配をよそに涼しい顔をしていた。確かに気を揉んだところでどうすることもできないのだ。しかし気になる。これも人の性格というものだろう。だからこういう状況を目にしたくないんだ。見てしまうと気になって夜も眠れなくなってしまう。
      我々は薄暮から漆黒に移りゆく中をイバンダ経由でムバララへと車を走らせた。9 時にようやくホテルへ到着し、BELL (ウガンダのちょっと軽めのビール) で喉を潤しつつ遅い夕食を取った。

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2008 年 3 月 長期専門家 柏崎 佳人 記