サンプリング百景 --- キボガ 2007 年 10 月 29 日

      朝、6 時半にカンパラを出発してキボガへ向かう。松波くんの任地だ。松波くんは日大生物資源科学部獣医学科博士課程の 1 年生で、実験動物学研究室に籍を置いている。糖尿病関係の仕事をしているらしいが、筆者にはよくわからない。野生児的な印象を受けるもののお酒はからっきしダメらしく、「その風体で下戸はないだろう」と訴えられてもまあ仕方ないかなと思う。口であーだこーだ言う割には、まめに連絡を取り何でもきちんとそつなくこなす、、、目上の人にかわいがられるタイプかも。
      途上、曇りがちで小雨もパラついていたが、キボガに到着する頃にはすっかり晴れ上がり、暑い一日になりそうな気配が漂っていた。8 時 20 分着。準備万端オーバーオール姿の松波くんが迎えてくれた。一緒に行く予定のスタッフはまだ顔を見せていない。「8 時だよ、全員集合」と声をかけたのだそうだが、二人が現れたのは 9 時近くであった。まあ、こんなもんでしょう。9 時過ぎにフィールドへ向けて出発。

山羊の保定に活躍してくれた男の子。ロバートが採血。

左からロバート、松波くん、研修中の女性スタッフ。

山羊の飼育場。

右の睾丸が腫大した山羊。ブルセラの疑い強し!

      最初に訪れたのはどうも教会系の農場であるらしく、シスターの出で立ちをした女性が数人現れた。なかなか大きな農場で、肥育している牛は約 600 頭いると聞いた。「採材は午後になったはずだが」と言うシスター。どうもアレンジをしている Dr. カムラシがチョンボをしたらしい。「全くひどいマネジメントだな」と、モーゼスとロバートがこぼしているが、誰がやったところでこんなものだろう。だいたいにおいてウガンダ人はマネジメントが下手なんだから。とにかく山羊の採血から始めることにする。松波くんとスタッフの間で、ひとつの農場から山羊 25 検体、牛 25 検体の採材をすると決めたそうだ。というわけで山羊が飼育されている柵内に入り、耳標がついている山羊をとっ捕まえて採血をする。採血はロバートとモーゼスが、サンプルの処理は松波くんが、そして記録は女性の研修生が担当するという役割分担になっていた。ちなみに筆者は写真を撮っていたのみ、たまに小言を言って気晴らしをしていた。
      睾丸が片側的に腫大している山羊を発見。耳標はついていなかったが採血をすることにした。後日、松波くんから聞いたところによると、やはりこの雄山羊だけローズ・ベンガル凝集試験が陽性だったという。B. melitensis に感染しているのだろうか。
      山羊の採材が終わり程なくして牛がフィールドから集められてきた。「結構早いじゃん、感心感心」と褒めてあげたい。追い込み柵 (クラッシャー) に入れられて採材とツベルクリン検査を始めるも、なかなかうまく保定できず時間ばかりがかかる。いっそのことクラッシャー内ではなく、その手前の柵内で一頭ずつ捕まえた方がやり易いのではないか、ということになった。

松波くんとモーゼス。

これから採材の始まり。

ツベルクリン注射をロバートに指導する松波くん。

牛を保定するシスターと採血をするモーゼス。

柵内に仲良く並んだ牛。
      それにしてもウガンダ人は牛をよく叩く。松波くんに、「いやあ、ワーカーが木の棒で牛を叩いたらシスターがすごく怒っていましたよ。」と話しかけられたが、その 10 分後には同じシスターが白いベールを振り乱し、親の敵のごとく牛を叩きまくっている姿を目撃した。ムピジ県の村落隊員が進めているウガンダ西部への牛耕導入計画では、牛耕が西部で普及しなかった理由のひとつとして、"西部の人間は家畜を家族のように大切にするため" と説明しているが、これは大きな誤りで、実はものすごく馬鹿にしているのではないか、という印象さえ受けた。恐るべしはウガンダのシスター。慈悲も何もあったものではない。

      2 ヶ所目の農場に移動。到着前にモーゼスが農場のマネジャーに連絡をしようとしているがつながらない。自分の携帯はエアー・タイム (ウガンダのプリペイド式携帯のポイント) がないからと筆者の携帯を使っている。農場に着いてみると案の定、何の準備もできていない。農場のワーカー達は今回のサンプリングについて何も知らされていないのだろう。携帯のアンテナは 1 本しか立っていない。モーゼスは羊が好んで登りそうな近くの塚に上がり、連絡を試みた。結果的にマネジャーと連絡は取れなかったのであるが、むこうの電話とはつながったらしい。
      いずれにしろこの農場でも山羊の採材から始めることにした。飼育場には小高い塚があり、山羊は器用に登っていく。携帯でもかけるのだろうか。こいつらは本当に好奇心が旺盛だ。ここでは逞しい農場のスタッフが手伝ってくれ、逃げ回る山羊を片っ端から捕まえてくれたので、あっという間に 25 頭分の採材を終えた。

塚に登って携帯を試すモーゼス。

飼育場の塚に集まる山羊。

山羊の保定を助けてくれた逞しい農場スタッフと採血をするモーゼス。 クラッシャーの先に薬浴槽がある。中の薬液はかなり汚れており、とても効果が期待できそうには見えなかった。

      牛の採材をするため、クラッシャーのある場所に移動。ここの農場でも約 600 頭の牛を抱えているそうで、なかなか立派な薬浴槽と追い込み柵があった。程なくしてワーカー達に追われて牛が到着。ほとんどが長角種であるアンコーレ牛だ。連絡が届いていなかった割にはなかなか素早い対応で、天晴れ天晴れ。ここのクラッシャーは前の農場のそれよりも頑丈にできているため、牛の保定も楽そうだった。アンコーレ牛というのは角が邪魔で採血をしにくい、もしくは危険であろうと考えていたのであるが、実際に見ているとワーカー達は角を柵に固定することにより保定している。こうされてしまうと牛としては二進も三進もいかず、「せっかくの武器である長い角も保定の道具になってしまうんだなあ」と、いたく感心してしまった。長い立派な角も無用の長物と化すわけだ。



角を抑え込んで保定する。

採血、ツベルクリン検査、進行中。

ツベルクリン注射指導中の松波くん。

ロバートにツベルクリン注射指導中。

採血をするモーゼス。

ロバートのツベルクリン注射を心配そうにチェック。

こうされてしまうと、牛はどうしようもできない。

キボガのラボも随分と仕事がしやすそうに変わった。

      採材を終えてから遅い昼食を取り、獣医事務所へ戻ったのは 4 時前だった。検査は翌日にするとのことなので、筆者はその足でカンパラへ戻った。

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2007 年 11 月 長期専門家 柏崎 佳人 記
"短期獣医隊員活動"のスライドショーをダウンロードする。(File Name: Uganda-JOCV'07.mov)