小林郁雄、カゾで大いに考える。

ウガンダ側の今後の展望と課題

国際協力の予算の3割ほどが役人の汚職によって吸い取られているというニュースを最近聞いた。せめて1割に減額してほしい。ウガンダの辺鄙な町であるカゾでもマネーイーターは元気に活動している。仕事も熱心にやってほしい。

最近のウガンダでは教育費もかさむようで、現金が必要な家庭ではせっせと牛乳を搾っては近くの集乳所へ一所懸命自転車をこいでゆく姿がよくみられる。ところが近くの乳業会社を覗いてみると、ミルクを冷やすクーラーが満タンになっていて、せっかく運んできた牛乳を受け取り拒否している。しかたがないので農家のおじさんはその辺で安売りするか、配って歩くか、捨てるしかない。

クーラーを大きくすればすむ問題ではない。これらのクーラーを冷やすためには電気が必要である。ところが田舎では電気がないので、乳業会社の裏にはジェネレーターが備え付けてあり、燃料を燃やしながら発電している。肉屋に至っては冷蔵庫がないので、その日に消費する分の肉が付いた牛を、その日の朝に屠殺しており、見込みを誤れば肉が腐る。電気をどうにかできないものだろうか。

畜産物は傷みやすい。コールドチェーンには電気が必要。でも電気はない。畜産物の品質は悪いままである。ウガンダでは食べ物が豊富なせいか、冷蔵庫がないせいだろうか、残り物はどんどん捨てている。電気がないと蓄積が難しい。蓄える習慣と経済発展の間には因果関係がありそうだ。ウガンダ政府には電気をどうにかしてくれと言いたいが、これはドナー側の課題なのかもしれない。それと教育。教育とはいかに大事であるかとつくづく思った。日本もぼやぼやしていられない。


自転車で牛乳缶を運ぶ少年。バランスを取るのが大変そう。

溢れるまで入れてある。4トンは入っているのでは? これではうまく冷えない。

今回、疾病調査を行っているうちに、「ぜひうちの牛も調べてくれ」という農家が次々と事務所にやってきて、断るのが大変であった。流産の多さや繁殖成績の低さに困っている農家は多い。ブルセラのみならず様々な原因があるだろうし、その他の疾病もいっぱいある。それを調べることも、予防する指導も、ほとんど対処できていないのが獣医事務所の現状である。やるべきことはたくさんありすぎて、すぐにどうこうなるものでもない。少しずつしかできないだろうと思う。

ラボを利用したい人はたくさんいる。キルフラには家畜飼育の伝統文化があり、生活の一部となっている。地域住民、特に地域の有力者は皆、数多くの牛を飼っているので、このラボへの期待は非常に大きい。ディストリクトのチェアマンも見に来ていたが、彼など 2,000 頭の牛を飼っているという。検査依頼件数が多いので、任期の後半には、カゾ近くのサブカウンティーの Officer やフィールド・アシスタントが、自分でサンプルを持ってきては検査するようになってきた。

とはいえ、ラボとしての機能はまだまだである。採血はできる。血清の保存はできる。ブルセラのローズ・ベンガル・テストはできる。顕微鏡と遠心分離器の操作、血液塗抹標本の作製、ヘマトクリット値の測定、バフィー・コートのトリパノゾーマ検索、結核の判定、糞便中虫卵の観察等も一応できるようになった。マイクロピペットを使える。数種類の試薬を作製できる。以上である。血液塗抹標本中の白血球、寄生虫、ゴミ等の判別はまだ。糞便中の虫卵の大まかな同定や花粉やゴミ等との判別もまだ。調査結果の評価に不安があり、ラボ施設の維持にも不安はある。冷蔵庫が常に稼動できるぐらいの電力が欲しい。できればしっかりとしたラボ・テクニシャンも欲しい。


カゾ獣医センターのラボで検査をする。

血液塗抹をひく。

課題はいろいろあるのだが、一番気になるのが、正確な技術を身につける大切さを考えているのだろうか?という点である。やり方を少し理解したら「知っている」といい、たまたま何回かできたら、「俺はできる」と思っている人がけっこういる。文化の違いといってしまえばそれまでなのだが、まだまだできてないぞ。もちろん、一生懸命練習する人もいた。日本も同じだろうか。

特に Officer の中には、そんな雑用みたいなものは下々のアシスタントにやらせるからいいや、みたいな感じの人もみかける。雑用ではなく診断の「基本のキ」なのだが、腰が重い。これも文化というのだろうか。少しはできてからそう思うならまだしも、ぜんぜんできていないのに「俺はできるからもうやらない」という。こちらの研究者のまねをしているのだろうが、技術レベルの違いを理解してほしかった。役人の仕事は椅子に座って命令するのが理想的であると思っているようにも見える。このような意識のままだと、技術指導の対象としてふさわしくなくなってしまう。人の習慣は変えられるものではなく、技術指導を試みるには時間がかかる。これは誰にとっての課題なのだろうか。

さらに、今回の隊員派遣における技術指導他の対象相手は、キルフラ獣医事務所の Officer 達であったにも拘らず、実際に一生懸命勉強しようと頑張って働いていたのは、正規の職員ではないフィールド・アシスタントの人たちの方が多かった。正規職員ではない彼らの関与に否定的な見解を示す Officer もいるが、彼らの協力なしで家畜疾病対策をすることができるだろうか。ウガンダ側で、是非検討してほしい。


顕微鏡をのぞくフィールド・アシスタントのエンマ。

EDTA を分注するフィールド・アシスタントのアキレオ。



JICA 側の今後の展望と課題

キルフラ・ディストリクトには、カゾセンターと同じ立場のラボ施設がもう一つある。サンガ(Sanga)というムバララ街道に面する町の獣医事務所には、ドイツの GTZ が援助した立派なラボの建物がある。ちょっと前まで2枚のソーラーパネルがあり、いろいろな実験設備があったようだが、今は建物しかない。整備したのはかなり前のことだが、今では換金できそうなものは全て失われている。どこに行ってしまったのだろう。

この施設を見た帰り道、カゾセンターもあと何年かしたら、このようになってしまうのだろうかと考えた。もしそうなったとしたら無益なお金の使い道である。そのような空しい例は過去にいくらでもある。そうならないためにはどうしたらよいのだろう。

今回の「家畜疾病対策計画」プロジェクトは2年の計画である。2年経って地方獣医事務所に誰も来なくなり時間がたてば、元の木阿弥になるのは目に見えている。このプロジェクトがまだまだ続き、ちょくちょく見に行けるのであれば、もっとどうにかなるのではないかと思う。しかし、それには更なる投資が必要となり、投資効果を見出せなければ盗人に追い銭ということになってしまう。

この地域における現金収入としての畜産の重要性はいうまでもなく、地元での期待も大きい。もちろん、インフラや教育や保健医療など、ほかにも重要なポイントはいくらでもあるだろう。しかし、今回の短期派遣あるいは2年間のプロジェクトだけで、あとはよろしくとウガンダ側に言ったところで、ウガンダ側にその後をしっかりやる能力はないと思う。誰かがたまにはやってきてサポートしたり、目をつけておいたりしないと、今回の事業はやりっぱなしで終わってしまう。

たとえプロジェクトが続かなくても、JICA ウガンダ事務所の誰かが1年に一回見に来るだけで、設備が散逸する期間を延長させることが可能なのではないだろうか。さらに、物理的な面のみならず、気持ちの面から考えても、たまには日本人がやってきて何かしているみたいだな、と感謝されることも増えるのではないだろうか。「昔来ていた日本人」よりも、「今でも来ている日本人」の方が有難みが増すと思う。

さらに必要であれば、近隣諸国から、この分野の専門家なり、隊員でもたまに見に来てつないで貰えばいい。ウガンダ政府はともかくとして、地元住民の期待は大きい。今回の隊員派遣は最初の一歩であるに過ぎず、最終目的である疾病診断能力の向上および地元農家の所得向上までにやるべきことはたくさんある。地方獣医事務所のサポートは、最低 10 年、できれば 20 年は続けてほしい。

さらに、農業畜産水産省の家畜疾病診断疫学ラボと連携し、家畜疾病対策体制を強化していくという、家畜疾病対策計画プロジェクトの上位目標がある。ぜひとも必要な連携ではあるが、地方獣医事務所の現状を考えると、これまたプロジェクト終了後の予算獲得に難航して、サンプルの輸送や、トレーニングや教育のための人材交流がはかどらない可能性が高い。形を変えてでもサポートし続けることが重要であると思う。


サンプリングに使っていた車。

車を離れてからがまた遠い。ひたすら歩く。

今後の地方獣医事務所で期待される役割として、日本側の支援組織である日本大学生物資源科学部をはじめとする先進国の研究機関の、研究フィールドおよび現地拠点として活躍してもらうという可能性も考えられる。国際協力も睨みながらの獣医学的な研究が中心になるならば、家畜疾病に事欠かない地方獣医事務所としては大いに活躍できるのではないだろうか。同時に、やる気のある地元スタッフが研究を手伝う仕事をしながら技術を身につけることも可能である。時間がかかるのは同じだろうが、この方面の将来性は高いように思われる。

その一方で、見方を変えて考えることもできる。アフリカでの国際協力は砂漠に水を撒くようにも感じられ、水を撒くことに意味を見出すのはいいのだが、花が咲いたり実ができたりすることは本当にあるのだろうかという疑問も残る。「ここはアフリカだからしょうがない」と、あと何十年も言い続けるのだろうか。数字の経済成長は可能でも、庶民生活の改善は難しそうだ。先進国は何をするべきだろう。

日本が発展途上国および世界に貢献できるのは技術と資金と人材だ。その中でも特に壊れにくい日本車は、中国製自転車と並んで途上国世界への貢献度が高い。しかし、どんなに壊れない機械であっても、燃料を必要とするのが欠点である。ソーラー電力と燃料を利用するハイブリッド・カーまたはハイブリッド・オートバイ(しかもオフロード仕様)の開発と普及ができれば、大きな国際貢献になると思う。

現在の石油依存型社会システムの下では、どうにもならないように思えてしまう。携帯電話がいきなり普及したように、途上国の変化は先進国の変化の手順を踏むとは限らない。今さらではあるが、ソーラー発電は発展途上国にこそ向いていると思う。ソーラー発電の国際的普及と価格破壊へ向けて、JICA と日本の企業が協力してなにかできないものだろうか。日本の国策として、ソーラー発電等の改良普及に取り組み、世界をリードしてもいいのではないか。そのために JICA が一役買えるのではないかと強く思った。


左奥の山肌に牛の姿が見えてきた。

農家のおっちゃんに挨拶をする。

最後に

ウガンダ滞在約2ヶ月。実際に任地で活動したのはたったの6週間である。こちらに来る前はあっという間に終わってしまうのだろう、と考えていたが、6週間は意外と長かった。これだけの期間でも、いろいろできるのだなあと思った。日本での2ヶ月があれほど短く感じられるのが不思議だ。

短期派遣の制度は、利用しやすくてとてもよかった。最近の日本では、どこもかしこもますますせちがらくなり、仕事を休んでボランティアに行きますなどと言ったら、まず退職してくださいと言われる。2ヶ月だったらなんとか首のつながる人はいるのではないだろうか。

もっとも、活動が順調に進んだのは、柏崎専門家をはじめとする JICA 関係者の皆様の段取りに因るところが大きいのは明らかである。臨床獣医師の世界では、「保定8割」ということばがある。動物を捕まえて押さえるまでの技術が8割で、治療その他は2割。段取りが非常に重要で、そこで大体の結果が決まってしまうという意味である。

するべきことは決まっており、道具は準備されており、あとはやるだけでいいという、他の隊員が聞いたら、うらやましいどころの話ではない。しかし、何をしたらいいのか悩みながら過ごす2年間というのも、得るところは大きいだろうな、と思った。

2ヶ月間でしたが、大変充実した時間を過ごすことができました。おかげさまで、何十年分かのバナナとパパイヤを食べながら、無事に過ごすことができました。この場を借りて、関係者の皆様にお礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。




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2007 年 11 月 協力隊短期隊員 小林 郁雄 文・写真
(最終報告書の一部を掲載)