サンプリング百景 --- クミ 2007 年 11 月 1 日 |
朝、6 時半に事務所に集合。ここに赴任している平野くんは事務所で寝泊まりしているため、全く問題はないが、同行するカウンターパートのイマリガは少し離れた隣町から自転車でやって来るため、なかなか大変だ。それでも筆者が事務所に到着したときには、既にイマリガも顔を揃えていた。
馬が好きな平野くんはやはり日大生物資源科学部獣医学科の博士課程 1 年生で、キボガへ赴任した松波くんと同級。研究室は獣医衛生学研究室で、狂犬病に取り組んでいる。横浜の中心部である西区出身、一見都会のお坊ちゃん的雰囲気をかもし出しているが、やはり人は見かけによらぬもので、かなり大雑把な性格であることが判明した。ひとつ非常にビックリしたことがあったのだが、それについては後述する。
さて、早々と準備も整い、7 時前には事務所を出発した。松波くんのところに比べるとやけに荷物が少ない気がしたのだが、その理由も後にフィールドで判明した。まず本日のターゲットエリアであるンゴラ地区事務所へ行く。ここから家畜衛生スタッフがひとり加わり、道案内をしてくれる約束だったのであるが、その人が 9 時頃にならないと来られないらしく、家畜衛生とは関係のない別の女性スタッフがひとりついてくれることになった。しかしこの人、車に乗っても挨拶はなし、フィールドでは知り合いをひろって車に乗せ (そのために平野くんは荷台に移った)、サンプリング中は車内でおしゃべり。途中で帰るというので「ああ、セイセイした」と思ったのも束の間、「金をくれ」ときたもんだからムッとしてしまった (大人気なかったか?)。どうしたらあんなに図々しくなれるのだろうか、もちろん手当などは渡さずにお引き取り願った。 |
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ンゴラ・サブカウンティー事務所 |
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この日最初のサンプリング地 |
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胸と腹にロープをまわして引っ張り、牛を倒す。 |
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採血中の平野くん |
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ロープの先は角に引っかけている。 |
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イマリガと平野くん |
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それはさておき、サンプリングの話に戻ろう。最初に出かけたのは平坦な牧野をひたすら走り抜けたところにある小学校で、その校庭の一角をかりてサンプリングをするという。つまり近所の農家に呼びかけ、そこに牛を連れてきてもらうということ。14 年ほど前に筆者がトロロで行った調査の仕方に似ており、その雰囲気が懐かしかった。この日は 2 ヶ所でこのようなサンプリングを行う予定であり、かつ明日から平野くんはカンパラへ上がり数日間不在になるため、この日のサンプル数を 40 検体までと決めていた。つまり1ヶ所 20 検体のみであるから、すぐに終わるだろうと思われ、あまり多くの農家に知らせる必要もないようだ。
牛はちらりほらりと集まってきた。こっち (東部) の牛はやっぱり小さい。つい先日、キボガで採材した牛に比べたら本当に小振りだ。牛を連れてきた農家の人たちは、日本でやるのと同じく長いロープを使う方法で牛を倒していた。つまり反芻胃を圧迫することにより呼吸を苦しくさせて倒すやり方だ。確かトロロではひとつの脚に縛ったロープを他の脚に巻き付け、それを引っ張りバランスを崩して倒していたように思う。ここの住民はどうしてこの倒し方をするようになったのだろうか、興味を引かれるところである。
イマリガはあまり採血が得意ではないらしく、もっぱら平野くんが採血係であった。荷物が少なかった理由は血清を採っていなかったためと判明。つまり約 1 ml のみ採血し、それをあらかじめ EDTA を入れておいたエッペンドルフ・チューブに加えてサンプルとしていたためで、血清を採取するための試験管類などを全く持参していなかった。つまり血漿をサンプルとしてブルセラの凝集試験をしており、これは後になって問題であることが判明した (クミでは後になって判明することが何と多かったことか!)。 |
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2 ヶ所目のサンプリング場所 |
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近所の農家が集まってきて牛倒しショーの見学 |
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足を引っ張られては牛もたまらない。 |
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採血中の平野くん |
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男の子が孤軍奮闘。ひとりで何とか倒すことができた。 |
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西部に比べると東部の牛は小さい。 |
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サンプリング 2 ヶ所目は農家の庭先にある柵内で実施した。1 ヶ所目の小学校からさほど離れていないにもかかわらず、第1胃を圧迫する倒し方をする人は皆無で、トロロと同じく力ずくで牛を倒していた。ここでも採血は順調に進み、40 検体という目標は早々と達成した。
本日のこれからの予定は、3 日前に実施したツベルクリン注射の判定を 3 軒の農家で行うことである。1 軒目の農家には 2 ヶ所目のサンプリング場所へ行く途上、一度寄ったのであるが (この時には牛は柵内にいた)、結局、判定は後まわしにすることにして 2 ヶ所目のサンプリング場所へ先に向かってしまった。それが結果的には裏目に出て、2 度目に訪れたときには農家が牛を牧野へ放してしまっていた。よくあることであるが、予測がついたことでもある。仕事は動物のいるときに片づけてしまうのが一番で、後まわしにすると必ずこういうことになる。イマリガは「後で来るからと農家に伝えたのに」と言っていたが、ウガンダ人のイマリガがまだウガンダ人のことをわかっていないらしい。 |
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ツベルクリン試験の判定 |
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ブルセラの疑陽性が沢山出た 2 軒目の農家 |
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間違った結果をもとにブルセラの説明をしているところ |
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説明に耳を傾ける農家の人たち |
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というわけで気を取り直し、残り 2 軒の農家へ判定に出かけた。どちらでも判定のみであるので作業はスムーズに進んだ。この時、農家には既に検査の終わっていたローズ・ベンガル試験の結果を説明した。特に 2 軒目の農家では検査した牛のほぼ全頭が陽性であったため、ブルセラという病気についてや公衆衛生上の留意点 (例えば生乳を飲まないように、等) を詳しく説明した。しかし、実はこのローズ・ベンガル試験の陽性反応は、血漿をサンプルとして検査したために起こった疑陽性であると後になって判明 (キルフラの小林さんも最初は同じことをしていたらしい)。農家にとっては全く迷惑な話である。ブルセラについては ELISA で確定試験を行うが、血漿を使っても大丈夫かどうか確認しておく必要がある。 |
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判定をするために牛を連れてくる。 |
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へっぴり腰でツベルクリン試験の判定 |
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ツベルクリン試験の判定 |
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ツベルクリン判定、3 軒目の農家 |
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翌日、筆者とカンパラへ上がることになっていたため、この日はサンプリングが終わってからサンプルの処理とヘマトクリットなどの検査を行った。平野くん曰く「ギムザの染まりが悪いんですよねえ」。筆者が教えたギムザ・ストックの作り方が間違っていたのかと思い、ギクッとしたが、よくよく話を聞いてみるとギムザ染色液を作り置きしているとのこと。それじゃあきれいに染まるわけがない。"ギムザ液は染める直前に希釈・調整する" というのは常識であると思っていたが、、、これで平野くんに指導 1 がついた。
非常に驚いたことをここで披露。凝集試験を行う平板用に厚いガラス板を渡して「これにマジックでマス目を引いて使ってください」と伝えていた。普通であればきちんとガラス板の長さを測り、マス目をいくつ作るかを考え、物差しを使って線を引こうとすると思う。しかし平野くんの思考回路はそのようには働かなかったらしく、筆者が目にしたガラス板には力強い線 (曲線) がフリーハンドで描かれていた。「お前は水森亜土か (古い人でスミマセン)」と突っ込みたくなるのを抑えているうちに、「まあ確かにこれでも検査ができないわけではない」という気持ちになってきた。しかしあの小林さんでさえ定規を使っていたし、松波くんに至ってはマス目の中心にまで線を引いて、血清とローズベンガル液で囲碁でも始まりそうな凝集試験用平板になっていた。それにしても恐るべし平野!人は見かけによらない。ガラス板の写真を撮り忘れたのが悔やまれる。
「何故、ローズベンガル凝集試験で血漿を使うと陽性反応が出るのか。」それもこの日、ちょっとしたことから疑惑が持ち上がった。最初のサンプリング地区で集めた 20 検体 (抗凝固剤入り) のうち、ひとつだけ凝集している血液があった。つまりこの検体だけは血清が取れたわけである。これらの検体を平野式フリーハンド凝集板を使って検査したところ、血清サンプルだけが陰性で、残り 19 ヶの血漿サンプルは全て陽性という結果が出た。これで俄然疑いが強まったわけである。同じようなことをしていた小林さんにカンパラに上がった折に尋ねたところ、血漿を使っていた時はやっぱり全頭陽性になったそうだ。その後、平野くんがクミに戻って血清を使い始めたところ、ほとんどの検体が陰性に傾いたそうである。これで平野くんに指導 2。どうなる平野、判定負けを喫するか。最も最初の疑問はわからないままであるが。 |
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クミの事務所 |
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検査をするイマリガと平野くん |
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血液塗抹を引く平野くん |
集まってきた子供達。先生に「写真を写すまねをしてくれないか」と頼まれたので、喜んでシャッターを押した。 |
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2007 年 11 月 長期専門家 柏崎 佳人 記 |
"短期獣医隊員活動"のスライドショーをダウンロードする。(File Name: Uganda-JOCV'07.mov) |