フィールド奮闘記 --- ムバレ 2008 年 9 月 2 日

      昨日はクミ、今日はムバレでの採材である。集合時間は 9 時と遅い。ホテルのレストランで思いがけず長期隊員 3 人と出くわし、ゆっくりと会話を楽しみながら朝食を取る。今日はシピの滝を見に行くのだという。明日、外薗くんをジンジャまで乗せていく約束をし、部屋に戻った。テレビをつけると福田総理辞任のニュースが BBC で流れていた。
      ムピジに赴任している加藤さんは、やはり越後谷くんと同じ
獣医衛生学研究室の博士課程 2 年生。昨年の中田さんと同じく、大学卒業後しばらく働いてから大学院へ戻ったために、学部時代の学年は越後谷くんよりも少し上だそうだ。横浜市出身の美人で、さぞかし学部時代はモテたことだろうと察するにあまりある。いやいや、もちろん今でもモテていることでしょう。長期隊員ムバレ在住の久芳さんが、職場であるガンガマ小学校の同僚男性教師数名に加藤さんの写真を見せたところ、「すぐに連れて来い」と、かなりの評判を勝ち得たらしい。
      9 時に事務所へ行く。エチューと加藤さん、越後谷くんは既に準備を整えていたが、アルフレッドが来ていない。まずエチューが電話をかけ、それでも現れないので加藤さんが電話をする。結局、30 分以上遅れてアルフレッドが参上。挨拶も遅れてきたことに対するお詫びもなし。ものすごく機嫌が悪そうで、加藤さんが恐れおののく。遅れて来て機嫌が悪いもないだろう。いったい何様のつもりだ、と、筆者もムッとする。まあ、こんなヤツの機嫌などを取る必要はないわけで、すぐに出かけることになった。
      昨年、中田さんが活動していたときに筆者が同行した際もアルフレッドがフィールドへ一緒に行ったが、その時はすごく協力的であった印象がある。中田さんも色々とアルフレッドに面倒を見てもらっていたと記憶している。しかしその彼が変われば変わるもので、今年はずっと「心ここにあらず」という状態らしい。採材の日に遅れてくるのは当たり前。ひどい日には出発が 11 時になることもあり、フィールドでも携帯で電話ばかりしているという。「アルフレッドに彼女でもできたのではないか」というのは加藤さんの憶測であるが、一夫多妻のウガンダではありえない話ではない。

この日の採材地、マカイ小学校

マカイ小学校の校庭

左がエチュー、右が加藤さん

エチューが採血

      本日のサンプリング地は、ムバレから南方向トロロ方面へ少し下ったブソバ・サブカウンティー。アルフレッドが担当する地域である。クミとは違い、農家をまわるのではなく、サンプリングをする場所に近所の農家から家畜を連れてきてもらうことになる。この日、加藤さんはスカイブルーのジャケットを羽織り、日焼け対策バッチリという出で立ち。越後谷くんはいつも通り、汚い帽子をかぶっていた。筆者は昨日、越後谷くんに借りたオーバーズボンをホテルに忘れてきたため、ショーツに長靴という格好になった。サンプリングのベニューはマカイ小学校である。
      小学校に到着してみると牛が一頭いるだけであった。このスタイルのサンプリングでは、事前に農家をまわって告知をしておかなければ、動物は当然集まらない。アルフレッドがそれをサボったのだろうということは容易に察しがついた。「獣医チームが来たぞ」ということが近所に知れ渡ればそれなりに集まっては来るだろうが、それにはしばらく時間がかかる。まあ、それでも兎に角始めることにして、ネガティブな沈滞ムードの中、牛を倒すところからいよいよ開始と相成った。

少々荒っぽく牛を倒す。

採乳しているところをのぞく二人

越後谷くん (左) と加藤さん

乳房炎の検査中

加藤さん採血中。本来、腹側からするものだが、、、

暑くなってきて、木陰に集まる。

ブチ山羊の親子

「俺は二頭も連れてきたんだぞ」

      この日も快晴で原色がまぶしく目に飛び込んでくる。日が高くなり T-シャツでも汗ばむ時間帯になってようやく動物が集まり始めた。しかし山羊が多い。しかも連れて来ているのはほとんどが小学校低学年くらいの子どもだ。きっと親に「山羊を連れてって検査でもしてもらってこい」と言われてお尻を叩かれたのだろう。さもなければお祭り気分で参加しに来たのかもしれない。二頭連れて来たはいいが、逆にその山羊たちに引きづられてしまう子どもがいるかと思うと、その近くでは 5 才くらいの男の子が 4 才くらいの子に山羊の縛り方を伝授している。
      あちらこちらで子どもたちが山羊と格闘をし、倒しては抑えつけて採血をしてもらうのを待っている。あまりにも数が多くなり、加藤さんとアルフレッドでは追いつかない。エチューは記録取りとサンプル処理だけで手一杯といった状態。そのうちに越後谷くんが採血をはじめたが、それでも順番待ちをしている子どもたちが沢山いる。心優しい筆者としてはその子どもたちを見ているに忍びなく、カメラを置いて採血を手伝うことにした。山羊の採血は久しぶりであり、かつウガンダの山羊は体格が小さいこともあって血管がわかりにくい。子どもたちは大きな瞳をクルクルさせながらじっと見つめているので、あんまりモタモタしていると格好悪いのであるが、まあ、その「格好悪い」と思われるギリギリのところで何とか採血を終え、次の獲物へと移る感じか。それにしてもウガンダには色々な紋様の山羊がいて面白い。

左からエチュー、加藤さん、アルフレッド

山羊ばっかり沢山集まってきた。

加藤さんの採血を見て痛そうな顔をする飼い主 (左)

「早く血を採っておくれよ」

      前日は越後谷くんの採血の仕方が気になったが、この日は加藤さんのやり方がすごく気になった。普通、頚静脈から採血をする場合、1. 動物の腹側に自分の身を置き、2. 順手で注射器を持って、3. 体側から頭側方向に注射針を刺すのが基本だ。ところが加藤さんの場合、1. 動物の背側から、2. 逆手に注射器を持って採血をすることが多かった。どうしてそれがダメなのか、筆者にも明確な理由を思い出せなかったので、喉まで出かかった注意をグッと胸に押し戻したのであるが、「まあ若いうちは奇をてらわず基本通りにやっていた方が間違いはない」ということで納得してもらうしかないだろう。帰国前日、送別会の席で、結局そのことを加藤さんに注意してしまった大人げない筆者である。同席していた長期隊員の唐橋くんは「柏崎さん、そんなの蹴り入れてやりゃ良かったのに」と言っていたが、そこまですると下品ですよね。
      この日を境にアルフレッドはサンプリングに姿を見せなくなったという。まあ、嫌々来て不機嫌な雰囲気をまき散らされるよりは、初めから来ない方が気が利いているかもしれない。もちろんエチューはいつも通り参加していたというし、アルフレッドの代わりに若者がひとり手伝ってくれたらしいので、その方が加藤さんにとっても気楽だったことだろう。その日、1 時前にはサンプリングを終え事務所に戻った。

「ほら、山羊はこうやって縛るんだぞ」

「今、倒すから、早く採ってくれよな」

この男の子は最後の最後まで残って見学していた。

そろそろ今日の採材も終わりに近づく。

      昼は筆者が泊まっていたホテルで食事をした。やたら愛想のいいウエイトレスが現れ、越後谷くんは牛肉料理を、加藤さんと筆者はポーク・カツレツを注文した。いつも通り長いこと待たされた挙げ句、そのウエイトレスが笑顔で現れ、「キッチンの手違いで牛肉の料理が 2 つに豚肉のが 1 つになったがそれでもいいか」と言う。筆者は「いやいや、注文通りにしてくれ」と伝え、更に待つことにした。それでまず出来上がっていた越後谷くんの牛肉料理と加藤さんのポーク・カツレツが運ばれてきた。牛肉料理は結構うまそうで、「ああ、これでも良かったなあ」と思ったがそのことは伏せておいた。加藤さんのポーク・カツレツはどう見てもポーク・チョップで、カツレツには見えなかった。2 人が食べ終わる頃、筆者の料理も運ばれてきたが、やっぱりどう見てもポーク・チョップだった。とにかく食事を終え、支払いの伝票を見ると、やっぱりポーク・チョップが 2 皿になっているではないか。全く愛想がいいだけでひどく頭の悪いウエイトレスだ。注文を取りに来たときに書いていなかったので、品目も数量も間違えたのだろう。ポーク・カツレツはポーク・チョップより約 200 円安い。もちろん筆者はポーク・カツレツの料金分だけを支払ってレストランを後にした。

手描き感があってなかなか洒落ている。

小学校に書く標語じゃないと思うんだけど、、、

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2008 年 9 月 長期専門家 柏崎 佳人 記
"短期獣医隊員活動"のスライドショーをダウンロードする。(File Name: Uganda-JOCV'08.mov)