Lake Mburo National Park (地図を見る)

      11 月 22 日から 25 日にかけて、旧英連邦諸国の首脳級会議 (チョグム) がウガンダの首都カンパラで開催され、53 か国から政府要人がこの小さな国に集結した。イギリスからはエリザベス女王やチャールズ皇太子も出席されたため、空港のあるエンテベやカンパラでは厳戒態勢がひかれ、政府はこの 4 日間を休日にしてしまった。実際のところ多くの市民はカンパラを抜け出していたようで、市内はそれほどの混乱もなく、道はむしろ平日よりも空いていた。JICA 事務所は事態の予測がつきにくいことから地方隊員がカンパラに上がることを原則禁止したため、隊員宿舎もガラガラに空いていた。
      一方、獣医隊員 4 人は短期なので時間がない。チョグムなどを気にしている場合ではなく、その真っ最中に地方での仕事を終えてカンパラに集結した。そしてさらに任地でひたすらチョグムが終わるのを待つ長期隊員を尻目に、最後のチャンスとばかりにムブロ湖国立公園へと遊びに出かけた。この小さな国立公園は、カンパラの西南約 230 km のキルフラ県に位置する。広さは 370 km2 であるから、だいたい 20 km 四方に収まってしまう程度の大きさだ。ゾウやキリンといった大型の動物は見られないが、地形が河谷林、サバンナ、アカシアの森、岩の小丘、湿地帯、湖と変化に富むため、様々な種類の動物と間近に接することができる。

11 月 24 日 (土)
      この日は朝から空はどんより曇っていた。9 時前に隊員宿舎を出発すると、程なくして雨が降り出す。雨女の呼び声高い中田さんがみんなの非難を浴びる。カンパラ市内は混雑もなく、街から西南に延びるマサカームバララ道へはすんなりと入ることができた。多くの村落隊員が活躍するムピジ県を過ぎる頃には、雨が本格的に降り出した。11 時頃、マサカを過ぎたあたりからはより激しい降りとなり、一同不安な面持ちで窓の外に目を走らせる。昼前に Lyantonde (ヤントンデ) 着。雨の中、牛肉の串刺しを 5 本買い、キルフラ出張時に何度か立ち寄ったことのあるレストランで休憩した。小林さんの任地であったキルフラ県のカゾは、このちょっと先を右に折れて 1 時間ほど走ったところにある。小林さんは昨日任期を終え、この地を通ってカゾからカンパラへ戻ったばかりであり、「どうせ来るのがわかっていたんだから、ここで待っていればよかったのに」と、日大 3 人組から攻められていた。
      ヤントンデを出ると国立公園はもうすぐそこだ。小林さんのカウンターパートであり、弾丸のようにしゃべりまくる獣医師、ルシータが住む Nyakahita という街の先を左に折れる。この頃から急に雨が小降りになり、国立公園のンシャラ・ゲートへ着く頃にはもうほとんど止んでいた。これは晴れ男を自負する自分のおかげだろう。ゲートで規定の入園料を払う。隊員 4 人は 25 ドル/日、滞在ビザを持つ筆者はその半額、そして車が 25 ドルだ。明日の同じ時間までに公園を出ればよいそうである。
      中に入るとすぐにシマウマが目に留まった。インパラもいる。前者はこことキデポ・バレー国立公園にしか、そして後者はやはりこことカトンガ野生生物保護区にしかいないらしい。最初は少し車を走らせてはその姿が見える度に停車し、写真を撮っていたが、かなり頻繁に見かけるようになり、余程近くにいない限りは止まらずに通り過ぎるようになった。キルフラでは牧野で何度かシマウマを見かけたが、これだけ数が多ければそれもうなずける。その他にもトピやウォーターバックといったレイヨウ類の仲間や、イボイノシシなどを目にした。2 年ほど前に生態調査の短期隊員としてザンビアに行っていた小林さんが野生動物につてすごく詳しく、いち早く遠くの方にいる動物を見つけては、その名前や特徴をみんなに説明していた。だれでもひとつくらいは取り柄があるものだ。


Topi

Burchell's zebra

Impala, male

Impala

      今晩、公園内で泊まれるのかどうか、予約も何もしていなかったため、ゲートで紹介されたロッジに行ってみることにした。そこはゼブラ・トラックからルロコ・トラックに入り、しばらく走ってから左に折れたところにあるそうだ。ルロコ・トラックに入ると途端に道が悪くなった。今朝の雨でかなりぬかるんだのだろう。この車で遠出をするのは今回が初めてであり、ましてや四駆のギアなどは使ったことがなかったため最初はかなりあせったが、そのうちに慣れてきて心臓もドキドキしなくなった。自分以外に若いのが 4 人も乗っているのだから、いざとなったら押してもらえばいいわけだ。
      ロッジの名前はミヒンゴ・ロッジ、サインがそこここに設置されていたので迷うことなくたどり着くことができた。そのあたりは岩の小丘が立ち並んでおり、ロッジもひとつひとつが小丘のてっぺんに建てられていた。見るからに宿泊料金が高そうである。ロッジにたどり着くと思ったよりも沢山車が停まっていた。まあ、泊まらなくても昼飯ぐらい食おうじゃないかとレストランとおぼしきところに登っていくと、あわてた様子で白人のマネジャーが現れた。ロッジは今日は満室、レストランも予約制になっているとのこと。ちなみに宿泊料金は 250 から 350 ドルだそうである。空いていたとしても僕らが泊まれる料金ではない。そのマネジャーも対応は非常に丁寧であったが、内心ではきっと「おめーらのような貧乏人の来るところではねェ」と思っていたことだろう。
      ミヒンゴ・ロッジを後にした我々は、再びゼブラ・トラックに戻りムブロ湖のほとりにある公園のヘッドクウォーターへ向かった。とにかく今晩泊まるところを確保しなければならない。ここにはお手頃な価格のゲストハウスがあるとゲートで聞いていたからだ。事務所で聞くとゲストハウスは一杯だが、テントならば空いているという。見せてもらったところ、これがなかなか立派なテントで、中にはベットが二つ置いてあり、しかも蚊帳まで張ってある。少し離れたところにはシャワーとトイレがあり、何とトイレは洋式の水洗であった。料金はテントひとつが 2500 円程度なのでひとり 1250 円。お手頃である。ここに泊まることに決めて支払いを済ませ、遅い昼飯を食べに湖畔のレストランへと出かけた。

Warthog

Warthog

Waterbuck

Topi

      レストランからは湖が見渡せる。そのまわりではベルベット・モンキーが遊び、イボイノシシが一心不乱に草を食べ、湖の方からはカバの息を吐く音が聞こえていた。メニューを見ると半ウガ飯 (ウガンダ食に近いが、少し洒落ている感じ) 的であるが、値段はなかなかリーズナブルだ。それぞれ好きなものを注文し、今後の予定などを和気藹々と話しながら料理を待っていた。しかし 30 分が過ぎても誰の料理も出てこない。そろそろイライラし始める。日が傾き、湖の方から僕らのテーブルに日が差し込むようになり、座っていると暑くて仕方がない。そのせいもあり、また暇を持て余したこともあり、ひとりまたひとりとテーブルを離れ、湖のまわりをうろつき始めた。レストランのスタッフに聞いても梨のつぶて。本当に作っているのかと心配になる。結局、1 時間以上も待ってようやく皿が並べられ、遅い昼食にありつく。食事が終わったのが 5 時過ぎになってしまった。全く午後の一番良い時間をレストランで過ごす羽目になり、せっかく国立公園に来たというのにもったいないことをした。その後、1 時間だけワルキリ・トラックから湖沿いを車で走り、キャンプ・サイトに戻った。途中、小林さんが湖沿いの灌木林の中にいるカバを発見したが、自分がサンルーフ越しにそれを見ようと立ち上がったときにクラクションを鳴らしてしまい、それを聞いてあっという間に逃げて行ってしまった。カバは臆病者だった。
      テントに荷物を運び込みしばらく雑談をしていたが、他にすることもないので再びレストランへと出かける。その日、夜 7 時半頃、 14 番目の月が 45 度の放物線を描きつつ天頂にさしかかろうとしていた。月明かりで星はかすんでいる。自分は立ちションをしようと皆と離れ、レストランの脇に生えている木の方へと歩いていった。するとブヒブヒという音と共に何か大きな物体が湖の方から近づいて来る。カバだ。月明かりに照らされた闇の中、こちらのことなどお構いなしに草を食べながらスロープを登ってくる。他の 4 人を呼ぼうと大きな声を上げてもカバは見向きもしない。夕方、クラクションにビクついて逃げ出したカバはバカだったのだろうか。写真を撮ろうとデジカメを構えるが、シャッターが下りない。オートだと暗すぎてダメなのだろう。フラッシュも届かないとカメラが勝手に判断するようだ。かといってどうやってマニュアルに切り替えるのかもわからない。結局、誰もまともな写真が撮れずにチャンスを逃してしまった。どうせまた次から次へと現れるだろう、と高をくくっていたのだが、この日、僕らが目にしたのはこの 1 頭だけであった。その後、レストランでビールを飲み、山羊肉に舌鼓をうち、11 時前にはテントへ戻った。

Vervet monkeys and my car, Nissan Mistral

Lunch time

At dusk

Dinner time

11 月 25 日 (日)
      トイレに行きたくて朝 6 時に目が覚めた。あたりはまだ薄暗い。テントの近くで用を足し、誰も起きていないようだからもう一眠りしようかとベットに戻ろうとしたが、徐々に明るくなる気配がしたのでせっかくだから散歩を楽しむことにした。テントから公園事務所の方へ歩いていく。10 分くらいの距離だ。事務所に着く頃にはかなり明るくなり、まわりの様子がはっきりとわかるようになった。事務所の裏に大きな木があり、その下に実物大のインパラ 3 頭の写真があるように見えた。「こんなところにこんなのがあったかなあ。」と不思議に思いながら近づいていくと、それは本物のインパラであった。雄だ。微動だにせずすくっと立っている。朝靄の中に立つ 3 頭のインパラは、近寄りがたいオーラを放ち、大切な何かを自分に伝えに来たような、この地球上の生物ではないような威厳さに満ちていた。ふと反対側を見ると、やはり大きな木の下に数十頭の群れが横たわってクビだけ上に伸ばしている。毎晩ここでこうして夜を過ごすのだろうか。角がなく小振りなのできっと雌と子供の群れだろう。ちょうど目を覚ましたところなのか、きょとんとしてあたりを見回している。しばらく見守っていると、端の方から少しずつ立ち上がり、3 頭の雄の方へ移動し始めた。すると、まるでゆっくり歩くのがもどかしいかのようにすぐに小走りになって、あっという間に森の中へ消えていった。
      その頃にはあたりはすっかり明るくなっていた。まだ時間があるので湖畔のレストランまで散歩しようかと歩き始めたところで、国立公園内を歩いて移動してはいけないことをハタと思い出した。バッファローに襲われて死んだ人がいたらしい。途端にひとりで歩くのが恐くなり、あわててテントまでとって返し車を運転して湖まで出かけた。湖面には朝靄が立ちこめていたが、切れ切れに浮かんだ雲とその隙間からのぞく空も映し出していた。すぐに晴れてきそうな様子にシメシメとほくそ笑みながらしばしひとりのドライブを楽しみ、4 人の待つテントへと戻った。

At dawn


Restaurant


Fish eagle

Hippopotamus

      この日は 8 時半に集合し、レストランで朝食を取った。昨晩のうちに注文をしていたので、比較的早く食事終了。自分はメガネをなくしたことに気づいてかなりへこんでいた。車の中にもテントの中にもなく、昨晩レストランに忘れたんだと意気込んでウェイターに聞いてみたら、「そんなの知らない」と無下もない。ウガンダで忘れ物をすると絶対に見つからないのだ。「きっと、レストラン・スタッフの誰かが盗ってしまったんだろう。あのメガネ、7 万円もしたんだよなあ」と、気分は落ち込むばかりであった。それを象徴するかのように天気も快方には向かわなかった。切れ切れだった雲は面としての広がりを持ち始め、しばらくもすると空全体を覆ってしまった。
      この日、10 時からボートで湖の遊覧に出かけた。フィッシュ・イーグルが湖畔の高い木の上で羽を休めている。この湖は一番深いところでも水深が 7 メートルくらいしかないらしい。湖岸に近いところではカバが顔の上半分を出して呼吸している。船が近づくと水面下に潜ってしまうが、またすぐに浮上するのもいる。カバは水中では餌を食べないのだそうだ。日中は水中で休み、夜になると草を求めて陸に上がり、何キロも歩いて餌を食べるという。船頭兼案内係のレンジャーが色々と説明をしながら船を操って動物を見せてくれる。しかしこの日はあいにくの曇り空であったため、天気の良い日に日向ぼっこをするワニの姿だけは目にすることができなかった。

Flying fish eagle

Flying fish eagle

Burchell's zebra

Grey Crowned Crane


      昼前にボートライドから戻ると、公園のレンジャーがトコトコと近づいてきた。「誰かこのメガネを落とした人はいませんか。」まさしく自分がなくした 7 万円のメガネである。話を聞いてみると、どうも昨晩、カバを見て興奮し、写真を撮ろうとしたときに落としたらしい。レストランのスタッフを疑ったり、「ウガンダで物をなくすと出てこない」、などと先入観を持っていた自分が恥ずかしい。何度もお礼を言ってメガネを受け取った。
      さて、帰りはカズマ・トラックからルロコ・トラックに入り、ンシャラ・ゲートへ向かうルートを取ることにした。メガネが戻ってきて気分が晴れたのと同じように雲が切れ、日が差してきた。走り始めてしばらくはあまり動物の姿を見かけなかったが、先へ進むにつれてまた色々な動物が姿を現し始めた。特にインパラは頻繁に見かけたので、車に乗った面々もあまり興味を示さなくなってしまったほどだ。しかしそれが盲点となり、雄のインパラの写真をほとんど撮っていないことに後で気がついた。
      ウガンダの国鳥カンムリツルはつがいで優美に餌をつついていた。車が近くを通っても逃げるそぶりさえ見せない。水場ではトピやウォーターバックが楽しそうにくつろいでいる。そろそろあのミヒンゴ・ロッジが見えてもいい頃ではないかと話をしていると、道がどんどん細くなってついには消えてしまった。北に向かっていたので方角的には合っていたはずだ。小林さんが買った国立公園のガイドブックでも、僕が持参したガイドブックの地図でも、この道は一本道である。一体どこで間違えたのか、仕方なくまた戻ることにした。しばらく走ると先ほどの水場でバッファローが泥浴びをしていた。トラック上に立ちふさがり、車が通れない。本当にすぐそこにバッファローがいる。人に飼い慣らされたアジアの水牛とは全く異なり、この野生のアフリカ水牛は迫力がある。息遣いといい、体格といい、風貌といい、人に立ち向かおうとする態度といい、我々を恐れさせる何かを持っている。全く動こうとしないため、恐る恐る警笛を鳴らすと、怒りながらも道を譲ってくれた。ようやく不機嫌なバッファローをやり抜け、もと来た道を戻り、ゼブラ・トラックを通ってゲートまで戻った。後日、公園でもらったパンフレットの地図を見ていて気がついたのであるが、カズマ・トラックからルロコ・トラックに入る場合、二股に分かれているところを右へ行かなければいけなかったのだ。僕らは当然のごとく左へ進んだのであるが、その道は地図の中でも行き止まりになっていた。何でこの地図を先に見なかったのか悔やまれるところであるが、道を間違えたおかげで多くの動物を見ることができたのも確かである (間違えなければもっと沢山見られたかもしれないという説もある)。

African buffalo

African buffalo


Topi

Baboon


Zebra track


Nshara Gate of the Park

      2 時頃、公園を後にし、一路ムピジへと向かう。途中、赤道を通過。記念写真を撮り、北半球と南半球で水が作る渦巻きの違いを確認。その後、ムピジの村落開発隊員、間さんの任地を訪問した。任地が近い松井くんと藤崎くんも待っていてくれ、静かな屋外喫茶でしばし談笑をする。6 時前には出発し、途中、ムピジ・タウンの獣医事務所を見学した後、カンパラへ戻った。

Equator in Uganda


Testing the whirlpool in the Southern Hemisphere

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2007 年 12 月 長期専門家 柏崎 佳人 記