人糞を利用したバイオガス施設 (ルワンダ)

      ルワンダには人糞を発酵原料とするバイオガス施設があると聞き、是非見学させていただきたいと JICA 本部を通してお願いしたところ、JICA ルワンダ事務所企画調査員の菊池さんがアレンジをしてくださった。しかも構造がわかりやすいようにと建設途中の施設を、である。今回の出張の目的とは少し外れるが、現地の視察を終えたあと、首都キガリから東の方角へと車を走らせた。
      ルワンダには約 30 ヶ所に人糞利用のバイオガス施設があるそうだ。そのほとんどが人の多く集まる学校や刑務所などであり、発生したガスは主として料理とガス灯に使われている。それを手がけているのは Kigali Institute of Science and Technology (KIST) という機関の The Centre for Innovation and Technology Transfer (CITT) という部門。「様々な技術を農村などのコミュニティー開発に役立てる」ことを目標に掲げ、2002 年に創設された。当日はこの CITT から担当者がひとり同行し、施設の説明をしてくれることになった。
      目指すはカヨンザという町の郊外にあるニャミラマ中学校である。首都キガリからは車で 1 時間と少しの距離にある。途中のキガリ郊外には酪農牧場が散見され、乳の出そうな牛たちが青々とした草に顔を走らせていた。道はまだ新しいのだろう、なかなかきれいである。しかし菊池さんの説明によると、ドナーによってその幅が 6 メートルに制限されたため若干狭く、トレーラーなどとすれ違ったり追い越したりする時は、結構緊張するらしい。確かに筆者も後部座席に座っていてさえヒヤッとする瞬間が何度かあった。
      2 時過ぎに目的の中学校に到着。思春期真っ盛りの中学生たちが校庭でたむろしている。もう授業が終わったのだろうか、それともまだ昼休みなのだろうか。校庭でも何かわけのわからない工事が進められていた。我々は担当者に案内されて、校舎の裏にあるバイオガス施設建設現場へと足を進めた。同じく建設中の男子トイレ横を過ぎると、まるでクレーターのように大きく掘り下げられた現場に行き当たった。中には見慣れた形をした二つのドームが半分顔を出している。中国式のバイオガス発酵槽だ。これはウガンダの農村で見た牛糞利用のものと同じである。まあ、牛糞だろうが人糞だろうが、嫌気発酵によってガスを生成するわけだから、仕組みは同じはずである。

建設中のドーム式バイオガス・プラント

写真右奥に男子トイレを建設中

ドームてっぺんのホール。ここからガスを採取する。

付随する槽 (Expansion Chamber) への流出・入孔

      多田専門員と筆者は同行してくれた CITT の建設責任者くん (まだ若い !!) に、ここで早速質問を浴びせかけた。その答えは以下の通りである。

1. 見ての通りこの施設は二つの発酵槽 (Digester) を持つ。ひとつの大きさは 30 立方メートルで、半径が約 2.5 メートル。
2. おおよそヒト 10 人につき 1 立方メートルという割合で施設を造るため、この発酵槽のサイズだとひとつが約 300 人分の糞を処理できる。つまりふたつで 600 人という勘定になる。ちなみにこの学校の生徒数は 800 人とのことであった。
3. 発酵槽の内部は耐水性のセメントで塗り固めている。
4. 費用はだいたい 1 立方メートルあたり 3 万円から 3 万 6 千円程度。つまりこのふたつの発酵槽で約 2 百万円という計算になる。
5. トイレからは直径 20 センチの PVC パイプでつなぎ、直接、発酵槽へ流し込む。トイレットペーパーは消化されるため人糞といっしょに流し込まれても問題はないが、洗剤は菌を殺してしまうため NG である。
6. トイレの数は男子用が 15 部屋、女子用が 9 部屋。ウガンダでもよくある穴の空いたドロップ式だが、床下でつながっていて定時的に水を流す方式。発酵槽まで流すため、さほど深くない。
7. 上の写真で発酵槽の脇の土を均しているのは、そこに拡張槽 (Expansion または Compensating Chamber) を造るため (下の設計図を参照)。発酵槽ドームの斜め横に見えている穴がその拡張槽へとつながる。発酵槽内部のガス圧が高くなると内部の発酵糞液 (slurry) が押し上げられてこの拡張槽内に入る。しかしガスが消費されると再び発酵槽内へと戻る。この繰り返しによって新しい糞液と古い糞液が混ざり合い、より効果的にガスの生成が進むという。
8. この施設はメインテナンスをすることなく 30 年間使用可能。30 年後には一旦掘りおこし、中を空にして掃除し、もう一度新しい糞を入れて使い始める。


ドームの右側が Expansion Chamber への流出・入孔

ドームから見上げると、地表は高い。

写真中央が説明をしてくれた CITT の建設責任者

男子トイレ

      この中学校では生成されたガスを料理に利用するそうで (3 つのストーブを使用)、ガス灯の使用は考えていないという。建設予算は Ministry of Land and Natural Resources から出ているそうだ。ウガンダで聞いていた値段に比べてかなり高い気がするが、それはウガンダとルワンダの物価の違いからくるのだろうか。少なくとも 30 年は使えるというし、煮炊きに使っていた木材や石炭が全く必要なくなるとのことであるので、予算的にも環境に配慮するという意味からも、この施設を建設する意義は十分にあるだろう。
      少しゆっくりして学校や子供たちの写真なども撮りたかったのであるが、夕方、キガリで開発調査のメンバーと最後のラップアップ・ミーティングをする予定になっていたため、施設を見学後、我々はそそくさと中学校をあとにした。

図1:バイオガス・プラントを上から見た構造図。"Compensating Chamber" というのが Expansion Chamber (拡張槽) のことで、訪問時にはまだ造られていなかった (土地ならしをしていたところ)。この設計図では長方形になっていないが、これは恐らく単なるミスだろう。

図2:図1の A から B にかけてと、A から A にかけての断面図。

図3:図1の C から C にかけての断面図。Expansion Chamber の大きさはだいたい 8 X 5 X 0.7 (深さ) m とのことであった。

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2008 年 7 月 長期専門家 柏崎 佳人 記