7 月 2 日 (木)
朝、開発調査チームの栗田さんと共に動物資源開発公社 (RARDA) へ出かけ、One Cow One Family Project の責任者である Dr. ナバホンゴと意見交換を行った。話の要旨は以下の通り。赤字は筆者の感想である。
1. プロジェクトの問題点は
i) 何のシステマティックな方法論も評価体制もないままに牛の交雑を実施している。以前はアンコーレとフリージアン、ブラウン・スイス、サヒワ種のいずれかで交配していたが、現在はアンコーレとフリージアンかジャージーにしている。---> 個体レベルで能力を判定し選択していかなければ、全く改善されない
ii) 餌がネピア・グラスに偏っており、配合飼料などは全く与えていない。
2. アイルランドから純血種を輸入し農家に配っているが、個体によって乳量が異なる。---> 当たり前
3. たとえ乳量が少なくとも、牛糞を肥料として使えるので、牛を飼う意義は大きい。農家は平均して 0.6 ヘクタールの農地を所有しており、浸食防止策としてテラスを造り、そこで牛糞を肥料として利用し、天水管理システムによる水を使って作物を作ることができる。---> 言い訳に聞こえる
4. ブゲセラ郡ではひとりの人工受精師が 400 頭の牛をカバーしている。---> サポート体制が全くできていない
5. 凍結精液はフリージアンかジャージー 100 % のものを使っている。繁殖センターでフリージアンの種雄牛 2 頭、ジャージーの種雄牛 3 頭を飼育し、凍結精液を生産している。また輸入もしている。---> きちんと後代検定をして雄牛の能力を評価しているのか疑問
6. 昨年は 13,900 頭の牛を、今年は 6 月までで既に17,900 頭を農家に配布。複数のドナーにその数を割り当てることにより賄っている。---> JICA による 18 農家という数はほんの微々たるものであり、それでもこれだけの問題が噴出しているのであるから、他のドナーが担当する農家ではどうなっているのか、想像に難くない
7. ルワンダでは東部が低地であり、人口密度が 150 人/km2 であるのに対し、西部は丘陵地帯であり、人口密度も 600 人/km2 と高い。しかし 45 % の牛は東部で飼育されているため、東部でアンコーレ牛を購入して西部へ輸送し、そこで人工受精をして交雑種を生産している。また西部は雨量が多く、その水が低地である東部へ流れる際に浸食が起こる。それを防ぐためにテラスを造り、牛糞を肥料として畑作を促進することにより、浸食防止になる。---> これだけで浸食防止になるのか甚だ疑問
8. ルワンダには獣医大学がなく、獣医師は全部で 70 名程度しかいない。しかもその多くは獣医師としての職になく、実際に獣医として働いているのは、 RARDA に勤めている 10 名のみ (本部に 7 名、郡レベルに 3 名)。現在、約 40 人が国外で獣医の勉強をしている。獣医補は 2 種類あり、 A1 (diploma レベル)が約 400 名、その下に A2 (certificate レベル) がいる。以前、獣医衛生サービスが無料だったために、農家は獣医師の診療に対する支払いを未だに躊躇する傾向にある。それゆえプライベートでの開業などは仕事として成立しない。
9. ルワンダでの家畜飼養頭数は、牛 百万頭 (交雑種もしくは純血種は合計で 15 万頭)、山羊 130 万頭、羊 60 万頭、豚 40 万頭である。
10. 家畜衛生上、問題となる疾病は、牛でランピー・スキン病と口蹄疫 (ウガンダから入ってくる)、豚ではアフリカ豚コレラ (ブルンディから入ってくる) である。豚コレラの発生があると、豚の頭数が 4 分の 1 に減るほどの被害を受ける。
11. 乳牛では東海岸熱とアナプラズマ病が重要であるが、ゼロ・グレージングであるため、防虫剤のスプレーでなんとか予防している。---> 開発調査チームがかかわる農家数は 18 軒と少ないものの、牛が原虫病に罹ったという話は聞かなかったので、結構うまく予防ができているのだろうか
12. プロジェクトとして、農家に対する研修と導入牛の選択が大きな鍵である。NGO を含め、複数のドナーにサポートしてもらっているが、郡レベルにはほとんど家畜衛生・畜産スタッフがおらず、農家に対するサービスは行き届いていない。---> サービス体制がない中でこういったプロジェクトを実施するのは無謀
13. コンゴは肉の消費量が多く、潜在的なマーケットとなりうる。
Dr. ナバホンゴは話のよくわかる頭の良い方であり、問題点も十分に承知しているという印象を受けた。しかしこのプロジェクトは決定済みの国策であるため、彼としてはとにかく事業を進めていくしか取るべき道がないのであろう。やはりそのしわ寄せは農家にくるということになるのだろうか。
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