ルワンダ持続的農業・農村開発調査 現地視察、その2

      昼食は近くの町ニャマタにあるガチャチャ・レストランで食べた。メニューは山羊肉のバーベキューだ。ウガンダで長距離移動の際、バスやマタツの客相手に道路脇でよく売られているやつである。我々の人数が多かったためか、注文してから出てくるまでにかなり時間がかかったが、その肉はジューシーでかつ香ばしくもあり、あっという間に割り当て 3 本を平らげてしまった。

昼食を食べたガチャチャ・レストラン

ニャマタの目抜き通り

農家 7:改良乳牛導入プロジェクトのモデル農家

農家 7 の牛

農家 7 の牛小屋

ネピア・グラスを裁断しているところ

農家 7:改良乳牛導入プロジェクトのモデル農家
      牛の導入後、妊娠していないことが判明。昨年 3 月に人工授精を試みるも発情は止まらず。12 月より既に 4 回も自然交配をしているが、未だに発情がある。除角後化膿し、ようやく治ってきたところである。というわけで、この農家では 1 年半も牛を飼っていながら未だに子が生まれず、従って乳も全く出ないという悲惨な状態にある。何も生産しない牛のために、農家は毎日水を運び、餌を与え続けている。

農家 8:改良乳牛導入プロジェクトのモデル農家
      昨年 6 月に雄の仔牛を生んだ。乳は最高で 2 リットル/日程度しか出ていない。昨年 7 月 27 日に人工授精をするも失敗した。人工授精師にコンタクトを取るのが難しく、今年 3 月 5 日に自然交配をし、それ以来発情はない。


農家 8:改良乳牛導入プロジェクトのモデル農家

農家 8 の牛

農家 8 にて。左から多田さん、栗田さん。

農家 8 の牛小屋

稲作事業
      低地に水路を引き、約 1 ヘクタールの水田を数軒の農家と開拓した。鳥やネズミによる被害はあったものの、まずまずの収穫量を得た。今年も続ける予定である。この水田の脇で陸稲ネリカの栽培を試みたが、昨年 12 月に雨が降らず、ネリカは失敗に終わった。水田の向こうはパピルスが茂る湿地であり、雨期の最盛期には水深が 1 メートル近くにもなるという。

プロジェクトで整備した水田

左から多田さん、栗田さん、後藤さん

収穫後の水田に牛が入ると、その糞が良い肥料となる。

収穫後の水田

      サイトへの道沿いにあった虐殺地を見学させていただいた。ここと同様に当時の状態のまま保存され、一般公開をしているメモリアル施設がまだ他にもあるのだろう。このンタラマ教会では 1994 年 4 月に約 5 千人が虐殺されたそうだ。何かの名目で住民がこの教会に集められ、そこに手榴弾を投げ込んで殺したと聞いたが、とても 5 千人を収容できるような大きさの教会ではない。何度か同じ事を繰り返したのか、それとも教会の敷地内の至る所で虐殺が行われたのか。いずれにしろ狂気の沙汰としか思えない所行である。

5000 人が虐殺されたンタラマ教会

ンタラマ教会

ンタラマ教会に並べられている人骨

真ん中の頭蓋骨には金属の棒が刺さっている。

虐殺された人たちが着用していた服

ンタラマ教会内部

7 月 2 日 (木)
      朝、開発調査チームの栗田さんと共に動物資源開発公社 (RARDA) へ出かけ、One Cow One Family Project の責任者である Dr. ナバホンゴと意見交換を行った。話の要旨は以下の通り。赤字は筆者の感想である。

1. プロジェクトの問題点は
i) 何のシステマティックな方法論も評価体制もないままに牛の交雑を実施している。以前はアンコーレとフリージアン、ブラウン・スイス、サヒワ種のいずれかで交配していたが、現在はアンコーレとフリージアンかジャージーにしている。---> 個体レベルで能力を判定し選択していかなければ、全く改善されない
ii) 餌がネピア・グラスに偏っており、配合飼料などは全く与えていない。

2. アイルランドから純血種を輸入し農家に配っているが、個体によって乳量が異なる。---> 当たり前

3. たとえ乳量が少なくとも、牛糞を肥料として使えるので、牛を飼う意義は大きい。農家は平均して 0.6 ヘクタールの農地を所有しており、浸食防止策としてテラスを造り、そこで牛糞を肥料として利用し、天水管理システムによる水を使って作物を作ることができる。---> 言い訳に聞こえる

4. ブゲセラ郡ではひとりの人工受精師が 400 頭の牛をカバーしている。---> サポート体制が全くできていない

5. 凍結精液はフリージアンかジャージー 100 % のものを使っている。繁殖センターでフリージアンの種雄牛 2 頭、ジャージーの種雄牛 3 頭を飼育し、凍結精液を生産している。また輸入もしている。---> きちんと後代検定をして雄牛の能力を評価しているのか疑問

6. 昨年は 13,900 頭の牛を、今年は 6 月までで既に17,900 頭を農家に配布。複数のドナーにその数を割り当てることにより賄っている。---> JICA による 18 農家という数はほんの微々たるものであり、それでもこれだけの問題が噴出しているのであるから、他のドナーが担当する農家ではどうなっているのか、想像に難くない

7. ルワンダでは東部が低地であり、人口密度が 150 人/km2 であるのに対し、西部は丘陵地帯であり、人口密度も 600 人/km2 と高い。しかし 45 % の牛は東部で飼育されているため、東部でアンコーレ牛を購入して西部へ輸送し、そこで人工受精をして交雑種を生産している。また西部は雨量が多く、その水が低地である東部へ流れる際に浸食が起こる。それを防ぐためにテラスを造り、牛糞を肥料として畑作を促進することにより、浸食防止になる。---> これだけで浸食防止になるのか甚だ疑問

8. ルワンダには獣医大学がなく、獣医師は全部で 70 名程度しかいない。しかもその多くは獣医師としての職になく、実際に獣医として働いているのは、 RARDA に勤めている 10 名のみ (本部に 7 名、郡レベルに 3 名)。現在、約 40 人が国外で獣医の勉強をしている。獣医補は 2 種類あり、 A1 (diploma レベル)が約 400 名、その下に A2 (certificate レベル) がいる。以前、獣医衛生サービスが無料だったために、農家は獣医師の診療に対する支払いを未だに躊躇する傾向にある。それゆえプライベートでの開業などは仕事として成立しない。

9. ルワンダでの家畜飼養頭数は、牛 百万頭 (交雑種もしくは純血種は合計で 15 万頭)、山羊 130 万頭、羊 60 万頭、豚 40 万頭である。

10. 家畜衛生上、問題となる疾病は、牛でランピー・スキン病と口蹄疫 (ウガンダから入ってくる)、豚ではアフリカ豚コレラ (ブルンディから入ってくる) である。豚コレラの発生があると、豚の頭数が 4 分の 1 に減るほどの被害を受ける。

11. 乳牛では東海岸熱とアナプラズマ病が重要であるが、ゼロ・グレージングであるため、防虫剤のスプレーでなんとか予防している。---> 開発調査チームがかかわる農家数は 18 軒と少ないものの、牛が原虫病に罹ったという話は聞かなかったので、結構うまく予防ができているのだろうか

12. プロジェクトとして、農家に対する研修と導入牛の選択が大きな鍵である。NGO を含め、複数のドナーにサポートしてもらっているが、郡レベルにはほとんど家畜衛生・畜産スタッフがおらず、農家に対するサービスは行き届いていない。---> サービス体制がない中でこういったプロジェクトを実施するのは無謀

13. コンゴは肉の消費量が多く、潜在的なマーケットとなりうる。

      Dr. ナバホンゴは話のよくわかる頭の良い方であり、問題点も十分に承知しているという印象を受けた。しかしこのプロジェクトは決定済みの国策であるため、彼としてはとにかく事業を進めていくしか取るべき道がないのであろう。やはりそのしわ寄せは農家にくるということになるのだろうか。


Rwanda Agricultural Resources Development Authority

動物資源開発公社 (RARDA)

      昼食後、我々はバイオガス施設の見学に出かけたが、夕方、再び JICA 事務所にて開発調査チームと落ち合い、最終的なラップ・アップ・ミーティングを持った。先に調査チームから指摘されていた問題点に対する多田専門員と筆者の解答は以下の通りである。

i) 低泌乳量
      75 % 交雑種であればローカル種よりも乳量が多いという補償は全くない。泌乳能力は個体個体で異なるものであり、だからこそ日常的な改善 (乳の出の良い親から生まれた仔牛を残すとか、良い雄牛の精液を使うとか) が必要となる。
ii) ネピアグラスに偏重した給餌飼料
      牛の状態を見る限り、ネピア・グラスだからダメだとは言えない。むしろ今の状態で濃厚飼料を与えたとしても、急に乳量が倍に増えるようなこともない。
iii) 家畜衛生を含む RARDA および地方政府機関の脆弱な支援体制
      開発調査チームとしてすぐにどうにかできるという問題ではない。
iv) 視覚に頼る改良乳牛選定
      少なくとも高い泌乳能力を持つ母牛の子を買うなど、視覚ではなく能力を重視した選定が必要。
v) 非常に低い人工授精成功率 (25 %)
      農家が牛の発情を的確に見つけられるのか、人工受精師はいつでもサービスを提供できるのか、また技術は的確か、牛に問題はないのか、など、多くの原因が考えられる。人工受精と自然交配をうまく組み合わせるしかない。もしくは地域ごとに妊娠の同期化を図り、人工受精師が来易くするなどの工夫も必要。

農家としても牛の管理を他人任せにするのではなく、記録を残すなどの努力が必要である。牛の基本的なデータにはじまり、人工受精や交配をした日時、日々の乳量、ちょっとした変化などをノートに書き留めておくと、何かの時にこういった情報が非常に役に立つし、またこのような情報なくして牛の能力の改善は見込めない。

「改良乳牛導入クイック・プロジェクト」は、どうも色々な点で無理に無理を重ねたプロジェクトであったようだ。最も、開発チームの方々も、ルワンダ側の強い要望に押される形で酪農に足を踏み入れることになってしまったそうである。おそらく RARDA のスタッフとて同じ気持ちなのだと思う。このプロジェクトがこの先どのように発展していくのか、傍観者の立場にいる筆者としては興味津々といったところである。

帰りの飛行機がまたもや 2 時間半も遅れ、30 分のフライトのために空港で再び 4 時間も待つ羽目になった。初め悪けりゃ終わりも悪し、、、くたくたになって帰宅したのが深夜 0 時である。


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2008 年 7 月 長期専門家 柏崎 佳人 記