牛耕の研修
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半乾燥地資源研究所: National Semiarid Resource Institute - NASARI)

      ウガンダ西部、カンパラ郊外のムピジ県には多くの村落開発隊員が配属されている。彼らの日々の活動の中で、「トラクターなどの導入により耕作の軽減化が図れないものだろうか」という要望が農家よりあがってきた。しかし機械を導入するには維持・管理にコストがかかることなどから、多くの農家が所有している牛を耕作に活用できないかと考えた。実際、ウガンダの東部では牛耕が盛んに行われている。しかし「どうしてそれが西部では広まらなかったのか」という疑問に対するひとつの答えは、西部の人の動物に対する感覚の相違であるという。西部では動物を家族の一員であるかのように考えており、牛を耕作に使うということは牛に対する体罰であるかのように感じるらしい。またもうひとつの理由として、西部では土地の起伏が激しいことと、土壌そのものが東部に比べて固いことが上げられる。文化的な感覚の違いを克服するためには、デモンストレーションを通して牛耕が体罰ではないということを少しずつ広めていく必要がある。また土壌や地形などの問題は、牛に引かせる器具を改良することによって対処できるのではないかという考えのもと、この技術の東部への導入を目指して村落開発隊員の有志が動き始めた。

トロロのようにソロティにも岩山がある。街に供給する水のタンクをこの頂上に建設中らしい。

牛乳を運ぶ自転車。乳牛が多いのか、設備の整った牛乳の集配所がある。

      東部ソロティ近郊のセレレという小さな村に、農業研究機構 (NARO) に属する半乾燥地資源研究所がある。そこでは牛耕用の牛の訓練が行われており、スタッフにはそのためのトレーナーがいるという情報を農業省から得、協力隊員 5 人と彼らのカウンターパート 5 人がソロティまで研修を受けに出かけることになり、筆者も同行させていただくことになった。
      ソロティはクミの西北、約 50 キロメートルほどの所に位置する街であり、北部支援を実施している援助団体の前線基地となっている。なかなか落ち着いた雰囲気の漂う、居心地の良さそうな街であった。

動物用医薬品を売っている店

ソロティの街並み

      協力隊員はムピジ県から 3 人が、ミティアナ県から 2 人が加わり、それぞれ職場のカウンターパート (ウガンダ人) を伴って来たので、総勢が 10 人となった。半乾燥地資源研究所のあるセレレまでは未舗装道路をさらに 1 時間近く車を走らせなければならない。車に揺られながら窓外の景色を眺めていると、牛を使って畑を耕している農民の姿を目にすることができた。到着した研究所は他の NARO に属する研究所同様、白壁にオレンジ色の屋根瓦と芝の緑が美しく映える、よく整備された施設であった。
      我々の研修を計画してくださったのは Mr. Peter Obuo である。彼によれば、土地の状態や地形にもよるが、2 頭の雄牛で 1 エーカーを耕作するのにだいたい 2 日かかるとのことであった。詳しい説明は後回しになり、我々は早速、外に出て実際に牛が耕す姿を目にすることになった。

デモンストレーションの開始で、二頭立ての牛が現れた。

奥が耕作用、手前が除草用の器具。

牛耕を体験する協力隊員

牛耕を体験する協力隊員

      実際に目にし体験してみると、牛の力強さは非常に印象的であった。器具をおさえている人はほとんど力を入れる必要がなく、単に引っ張られて行くという感じだったそうだ。実際、女性隊員も男性と全く同じように耕していくことができた。雑草が生い茂っていた場所が見る間に茶色く姿を変え、すぐにでも種を蒔けそうな状態になった。除草作業は本当に驚くばかりで、トウモロコシが並んだ狭い隙間をあのでかい図体がすべるように進み、雑草がいとも簡単に取り除かれていった。2 頭の幅がきちんと計算されているとはいうものの、その正確さにただただ感心するばかりであった。

除草をしているところ。植え付けられている作物の間隔に合わせてヨーク (2 頭の牛をつなぐ棒) の長さを調節する。

牛の休憩中に説明を受ける参加者

除草をするときは、牛が作物を食べられないように口輪をはめる。 うまいこと作物の間を歩き、雑草を取り除いていく。 種蒔き用の溝をつけているところ。

牛につなぐ鎖を取り付ける穴がいくつかあり、それによって掘る溝の深さを調節する。これは作物によって植える種の深さを換える必要があるため。

牛耕を体験する隊員のカウンターパートのひとり

      実習を終えた後、セミナールームに移って詳細を伺った。まず牛耕で一般に使用される雄牛は、ゼブ種、ボラン種に加えてドイツから輸入した外来種 (サヒオ ?) などである。2 才くらいからトレーニングを始め、きちんと管理をすれば 15 年くらい現役で使えるという。働く時間は 1 日に 3~4 時間程度であり、多くても 5 時間で、できれば午前中が良い。リタイア後に肉として売ると、5~7 万円程度で売れるという。牛の訓練にかかる時間は上の図に示すとおりであり、全部で 1 ヶ月もあれば完了できる。牛を訓練する方法を習得するための人に対する訓練に必要な期間は 1 週間程度であり、そのトレイナー (TOT) の招聘に係る費用は宿泊、日当、交通費の実費程度である。
      現在の所、訓練済みの雄牛の価格は約 17,000 円、耕作用と除草用の器具が 2 台で 24,000 円、ネック・ループとヨークが 3,000 円弱であるから、雄牛が 2 頭必要だとして合計 6 万円程度最初にかかることになる。これは農家にとっては大きな負担である。逆に牛耕によって得られる収入は、1 日あたり 3,000 円程度、1 エーカー耕すと 6,000 円程度になる。
      自分で牛を購入して訓練する場合は、2~3 才 (歯で鑑定) の雄牛で、まっすぐな脚、まっすぐな背、中程度のこぶを持ち、蹄の先が閉じている個体を購入すると良い (上図、左上)。購入後、去勢し、名前をつけて呼び、訓練や耕作をした後には必ず報酬 (水や餌など) を与えるようにすることが大切であるとのことであった。

半乾燥地資源研究所

牛耕を体験後、さらに詳細な説明を受ける参加者

2007 年 8 月 24 日 長期専門家 柏崎 佳人 記