ブギリの視察 (20078 月)

      カンパラから東へ向かって車を走らせ、マビラ・フォーレストを通り抜けジンジャを過ぎ、工事中のひどい道をしばらく走ってイカンガを過ぎ、その次に通る街がブギリである。カンパラから150 キロくらいだろうか、車で2時間、ここからトロロへはさらに 1 時間くらいかかるが道はいい。この街に村落開発隊員の天野君が働いている。Universal Amazing Grace Ministries という、農民のコミュニティーや学校をサポートする NGO に配属されている。これまで坪井専門家が支援するネリカ米の普及などを行ってきたが、最近、学校で鶏を飼い始めたらしく「一度見に来てくれないか」という依頼を受け、ムバレ・クミ・ソロティへの出張に合わせて寄ることにした。
      NGO の責任者のシトゥマさんは牧師さんだそうだ。その他には若いスタッフが何人かおり、ほとんど無給で頑張っているという。しかし給料が出なくてはやはり長くは続かないので、NGO として何とか利益が上がるような活動をしていかなければいけないと、模索している最中だそうだ。

      まずスタッフと一緒にブギリ県の獣医事務所へ出かけ、所長の Dr. マンゲニから話を聞いた。ジェネレーターや冷凍庫、診断用の簡易な機材類もあるとのこと。また事務所が近々新設されることになっており、そこに移った後に小さな診断ラボをセットアップする予定だという。
      ワクチンはニューカッスル病、ランピー・スキン病、狂犬病の 3 種類をストックしている。ニューカッスルは経口もしくは経鼻用のイタリア製ワクチンで、1 バイアルが 500 ドース、4000 シリングする。それゆえ農家ごとにバイアルを買って接種すると効率が悪いため、農家の中からボランティアを募ってトレーニングを受けてもらい、ワクチン接種のシステムを作ったそうだ。それは、ワクチン接種を希望する農家は毎週木曜までにそのボランティアに連絡し、金曜日の朝にボランティアが希望する農家をまわってワクチン接種を行うというものだ。農家は 1 羽につき 200 シリング払う。確かにこれであればロスが少なくて済む。ワクチネーション・プログラムはベルリン自由大学が 1992 年にウガンダで行ったリサーチの結果に基づいており、1 週齢、4 週齢、7 週齢と 3 回、経鼻で接種する。
      牛肺疫のワクチンは年に 1 回一斉に接種を実施しており農家に 500 シリングの負担を課しているが、その負担金の回収率は 20 %程度であるという。
      問題になっている疾病はいずこも同じ、ダニ媒介性の東海岸熱、バベシア、アナプラズマなど。トリパノゾーマも重要な疾病のひとつである。この県には薬浴の施設が 3 ヶ所にしかなく、しかもそのうちのひとつしか稼働していないとのことであった。

ブギリの街から約 40 分くらい野中の細道を走ったところにある部落を訪れた。
山羊と牛を 30 頭くらいずつ飼育している。現在、状態はそれほど悪くないらしいが、特に雨期は問題が多いらしい。
NGO の若いスタッフ 2 人と天野君 (中央)
鼻部に結節様の炎症を示す子ヤギ。耳や四肢にも見られた。

      獣医事務所を訪問後、NGO の支援する農村へ連れて行っていただいた。草原の中を進んで行くとぽつんぽつんと集落が現れては消える。学校が近づくと裸足の子供達が増え、そしてまたいつの間にかいなくなる。そんなことを何度か繰り返すうちに目的の集落にたどり着いた。
      広々としたスペースの真ん中に家があり、大きな木が木陰を作っている。ここだけ別の時間が流れているようなところだ。家のまわりには山羊が群れ、草原の中の木の下では牛が休んでいた。NGO のシトゥマさんや若いスタッフに通訳をしていただき農家の方の話を聞くと、次のような症状を示す牛が雨期、特に 3 月から 4 月にかけて多発するという。
1. 四肢の皮膚から炎症が始まり、徐々に腫れが全体に広がっていく。片側性の時もある。
2. 皮膚が腫れ、そのうちに破れてはがれ落ちる。
3. 子牛では耳の下あたりから腫れ始めて、それが肩の方まで広がっていく。死亡する時もある。
4. 眼が赤くなって涙が沢山出る。そのうちに白く濁り、最終的に失明する。
      実際に症状を呈する牛を見ていないので何とも言い難いが、1 から 3 の症状については、ランピー・スキン病に由来するのではないかと推察した。獣医事務所のスタッフもこのところ同病が多く出ていると説明していたし、ムバレでもやはり沢山罹患牛が出ており対策に追われているという。ワクチンがあるのでそれを定期的に打てばよいのであろうが、1 ドースが 1,300 シリングすることから、牛を多く所有する農家にとっては大きな負担となる。また獣医事務所のスタッフに頼んでも距離が離れていることからなかなか来てくれないし、またその分の交通費や手数料も払わなければいけないという。4 の眼病については恐らくピンクアイ (伝染性角結膜炎) であろうと思われる。これについては眼病用の抗生物質軟膏があるのでその使用を勧めた。
      山羊では皮膚に炎症ができ (乳房など)、その後でカサブタとなって結節みたいに固くなるという。死亡する場合も多いらしい。原因ウイルスがランピー・スキン病に近縁といわれる羊痘なのだろうか、その症例を見たことがないので何とも言えない。鶏では、毛が逆立ち、皮膚が熱くなり、鼻汁が沢山出るという症状を呈して死亡することが多く、小腸に点状出血斑が見られたという。
      獣医事務所のスタッフも人数が少なくて忙しいのだろう、あまりあてにはできないというのが実情である。ある程度の治療やワクチン接種は自分たちでできるようにならなければいけないのかもしれない。そのためには家畜疾病に対する基本的な知識、体温や貧血気味かどうかなど症状のチェック、原虫性疾患であれば血液検査による原虫の特定、等々の技術を習得する必要がある。
農家で昼食をご馳走になった。トロロの NALIRRI を 3 時半に訪問する約束をしていたが、食事が終わったのが 4 時。
ウガンダの典型的な食事。炭水化物が多い。黄色いのはマトケ (バナナ)、茶色いのは、、、

      現場の視察を終えた後、トロロ郊外にある家畜資源研究所 (NALIRRI) に立ち寄った。当プロジェクトの支援機関のひとつである。14 年前、イギリスで学生をしていた頃にフィールド調査をするために 2 ヶ月ほど滞在した研究所である。その当時、一緒に仕事をした ジョゼフが居合わせ、 14 年ぶりに再会を果たした。あの頃はヒョロッと痩せていたのに、今ではどっぷりと貫禄がつき、見間違えるほどであった。そのジョゼフと 1 時間ほど話をして現在の NALIRRI の状況を聞いた。
      NALIRRI という機関は新しい診断法などの開発を行い、それを関係機関に提供するのがその役割であり、それゆえその開発された診断法を当プロジェクトで活用させてもらおうと筆者は考えていた。ところがジョゼフによると NALIRRI の機能は技術開発ではなく、先進国などで開発された診断法などをウガンダ国内で使用可能かどうか検査することなのだという。ということは、疾病調査などで支援をしてもらえるような状態にはないということであり、期待が大きかっただけに少なからず落胆した。これまでほとんどの活動はドナーからの援助を受けて行ってきたそうで、現在ではそのドナーの援助も極端に減り、研究所としての機能は低迷しているらしい。かくいうジョゼフ自身、ポスト・ドクトラル・フェローのポジションを得て、この 9 月には北大獣医学部へ行くという。つまり筆者がウガンダで 2 年間働いている間、ジョゼフは日本へ 2 年間行くことになったわけで、全く不思議な巡り合わせである。

2007 年 8 月 25 日 長期専門家 柏崎 佳人 記