ウガンダ国の畜産の概況

本稿は、FAO の Pro-Poor Livestock Policy Initiative Working Paper No. 29: Livestock, Liberalization and Democracy: Constraints and Opportunities for Rural Livestock Producers in a Reforming Uganda を基本的に参照しつつ、他の関連情報を加えて記述した。


1.農業・農村分野における畜産の位置づけ

ウガンダは、その人口の 88 %が農村地域に居住し、農村社会および農業は社会経済上重要な存在である。農業部門は GDP の約 45 %、労働雇用の約 80 %を占めている[1]。農業生産では、輸出作物としてのコーヒー、綿花、タバコ、茶などをはじめとして、作物栽培がその基幹となっている。多くのウガンダの農村地域住民にとって、農業生産は自給用食料および現金収入源となっているが、その一方で多くの農民が貧困層にとどまっている。畜産は自給的農業において、極めて重要な役割を有しており、GDP の約 7.5 %、農業分野 GDP の約 17 %を占めていると言われている[2]。また、作物栽培のみに依存している農民は、家畜飼養や漁業など作物栽培以外の生産活動をあわせて行っている農民に比べて、貧困の程度がより厳しいとの報告がある[3]

畜産は、ウガンダの北東部から南西部に延びる Cattle Corridor と呼ばれる地域で最も重要な産業であり、この地域の農民の約 60 %が家畜を保有し、アンコーレ牛をはじめとする在来品種の家畜の多くがこの地域で飼養されている。UBOS 2001によると、全国では農家の約 40 %が家禽を、約 20 %が牛を、約 30 %が山羊を保有しているが、多くの農家にとって、家畜は現金収入源としては重要なものにはなっていないとの報告がある[4]。地方の多くの農家にとって家畜生産の多くの部分が、自給用食料源、資産、ステータスシンボルとしての役割を有し、婚資としても用いられる。このような家畜の利用は、GDP などの統計上の数値には現れないが、家畜の保有は農民の社会生活を維持し、食料を確保するためには欠かせないものとなっている。

[1] Uganda Bureau of Statistics (UBOS), 2001
[2] Muhereza and Ossia 2003: Marginalization and inclusion of pastoralism in the poverty eradication action plan, Uganda National NGO Forum
[3] Okidi et al. 2004: Operationalising pro-poor growth, A country case study on Uganda, AFD, BMZ, DFID and the World Bank
[4] Ashley and Nanyeenya 2002: More than income、Pro-poor livestock development policy in Uganda:UK Department of International Development


2.家畜の飼養生産状況

ウガンダの家畜生産の多くは、小規模農家および牧畜民により行われ、両者をあわせると牛の約 90 %、半分以上の家禽、豚、羊、山羊が飼育されている[5]。家畜の飼養形態は、有畜混合農業、伝統的牧畜、商業的畜産に大きく分けられる。これらのうち、混合農業形態で飼育される家畜が最も多い。伝統的な牧畜は、水や草を求めて移動する牧畜民による飼養形態であり、主として北東部の乾燥地帯に普通に見られ、季節的には Cattle Corridor の全域にわたり移動を行い、牧畜民の主要な生計手段となっている。ウガンダの牧畜民は、基本的に根拠地となる特定の居住地を有しており、いわゆる遊牧とは異なる。商業的な畜産経営は相対的に少なく未発達で、市場の牛肉や牛乳の約 10 %以下の生産にとどまっている。一方において、カンパラなどの大都市およびその近郊ではゼログレージングや養鶏などの家畜飼養が増加しており、カンパラで消費される鶏卵、鶏肉の約 70 %はこのような近郊の畜産農家から供給されている[6]。このような近郊の商業的小規模農家の増加はあるものの、家畜を飼養する農家の多くは地方の農村にあり、ウガンダの貧困人口の 96 %は農村地帯に居住している[7]

[5] FAOSTAT
[6] Ishagi et al. 2002: Urban and peri-urban livestock keeping among the poor in Kampala City, Ibaren Konsultants
[7] Okidi et al. 2004: Operationalising pro-poor growth, A country case study on Uganda, AFD, BMZ, DFID and the World Bank


3.流通と加工

地方のインフラの不備は、農村の家畜生産者にとって、畜産物を販売する上での大きな阻害要因になっている。道路、通信、家畜市場、家畜の薬浴槽などのインフラは 1971-1985 年の間に、大きく破壊された。政府はこういったインフラの修復を行っては来たが、畜産物需要の高い都市部へ、農村から家畜や畜産物を輸送するには、コスト高や困難が存在するうえに輸送時間がかかり、生産物の品質も低下する。例えば、牛乳の場合、仲買人が農家や集乳所から集荷・購入したミルクを市場で直接販売したり、小売業者に販売したりする形が見られる。家畜の仲買人は、直接農家から、または地方の家畜市場で家畜を買い集め、都市の屠場まで輸送する。トラックによる輸送は、仲買人にとって大きなコスト負担になるが、どの地域やどの地方市場あるいはどの農家で良い牛を購入できるかを前もって知ることは、通信手段や市場情報の不備もあって、非常に困難である。このため、家畜商は、良い牛を探してコストをかけながら地方を移動して回ることになる。

仲買人は農家と市場を結ぶ重要な役割を有するが、農家との間の力関係、有する情報や経験知識の差により農家が不利になることが多い。特に、市場のインフラ、例えば家畜の体重計や牛乳の品質検査器具、市場の価格情報などが無いところでは、農家と仲買人との間での公正な取引を期待することは困難である。

特に牧畜民は、家畜を販売する上で弱い立場におかれることが多い。家畜を売ろうとする遠隔地の乾燥地に多い牧畜民は、仲買人のいる町まで乾燥地を越えて、徒歩による長距離の困難な移動をすることになる。移動期間中に草や水の不足から、家畜はやせ商品価値は落ちることになる。さらに、一旦町まで移動してきた家畜をまたそのまま持ち帰る余力はすでに無く、結果として仲買人の言い値で売却せざるを得ない立場に追い込まれる。

流通インフラの不備に加えて、畜産物加工施設はさらに限られている。屠場から出る肉、皮、角、内臓などは、そのほとんどがそれ以上に加工されること無く、生で直接販売される。12 箇所の乳加工場があるが、それらはカンパラ周辺から南西部の地域に集中している[8]。このような処理加工施設の不備は、需要と供給の季節変動による畜産物価格の大きな変動や余剰乳の廃棄などの無駄すら招いている。さらに、電力供給の不安定は、冷蔵施設を必要とする肉や牛乳の貯蔵加工流通にとって、当然のことながら大きな障害となっている。


[8] Parastatal 組織としての Dairy Development Authority (DDA) はミルクの流通加工の技術指導や監督を行っている。国営企業だった Uganda Dairy Cooperation は民営化されたが、その民営化の経緯、さらには School Milk Programme の供給契約には、政治的な関与についての不透明性が言われている。


写真左:大きな角を持つアンコーレ牛 (在来種) を載せたトラック。屠場にでも出荷するところだろうか。写真右:国内にある動物のチェックポイント。


4.畜産物市場


PMA や NAAD は、農業の自給自足型から商業的な生産活動への移行と発展を目指している。このため、流通加工と並んで、市場の開発可能性はウガンダの政策関係者にとって大きな関心事であり、輸出品のための品質管理ラボの設置や技術協力の希望も聞かれている。このようなラボは専ら貿易業者を対象とした有料の検査証明サービスを行うものであり、ローンの利用による初期投資・施設整備と独立採算制による運営が基本と考えられる。


1) 国内市場
        ウガンダは貧困国であり、国民の購買力はいまだ低く、国内の畜産物市場規模は限られている。ウガンダの 2002 年の GDP per capita は 1390 US$であり、これはサブサハラアフリカの平均値 1790 US$ を下回っている。UBOS 2001によると農村の農家支出の 60 %が食費で占められているが、肉およびミルクの消費量は少ない。ミルクの消費が少ないのは、ウガンダ人の食習慣にもよるものと思われ、周辺諸国と比べても少ない。多くのミルク処理工場の処理量はその処理能力を下回っているという[9]。さらに、自給自足型の混合農業が広範に広がっていることも、畜産物の市場を通じた購買量を少なくしているものと考えられる。すなはち、ウガンダでは肉およびミルクを含む食料消費を自給生産に大きく依存しており、UBOS 2001 によると、農村家庭はその食料消費の半分以上を自給生産により賄っている。加えて、3 に述べたような適当な市場の不在や市場へのアプローチの困難、さらに生産および市場取引に関わるリスクが存在していることも、畜産物の販売や商業的な家畜・畜産物の生産への意欲を減退させる原因となっている。
        一方、都市部居住者はその食料の 90 %以上を購入により得ている。しかしながら、比較的豊かな農業環境条件を有するウガンダにおいて、多くの地方住民が自給自足を基本としている現状にあっては、畜産物の国内市場は主として、限られた都市部およびその周辺の消費市場に限定される傾向が続くものと思われる。

2) 国外市場
        ウガンダ政府はその豊かな農業自然環境に恵まれ、畜産物を含む農業生産物の生産余力がかなりあると見積もられ、また上に述べたような国内消費市場の限界もあることから、輸出産業としての農業生産の振興を期待しており、畜産関係者の間でも畜産物の輸出拡大の可能性を期待する声が大きい。特に輸出に当たっての検疫などの品質基準が比較的緩い近隣の東アフリカ諸国および中東諸国向けに、牛肉、皮革および中東向けの山羊の輸出の促進が期待されている。しかしながら、西欧諸国に比べて品質基準が緩いとはいえ、畜産物の輸出に当たっては、輸入相手先との契約に基づく、一定の量と品質を安定的に維持することが要求されるのは当然である[10]。また、品質管理体制はもとより、冷蔵のための電力や輸送などのインフラの不足も輸出のための阻害要因となっている。


[9] Kasirye 2003: A Review of small scale dairy sector, Uganda. FAO Prevention of Foods Losses Programme, Rome
[10] 例えば、中東への山羊の輸出契約に当たっては、350 頭の白い山羊を毎週コンスタントに確保することが求められたという。

5.家畜疾病と獣医療、疾病対策

家畜および畜産物の品質の向上のためには、広範に存在する家畜の病気と不十分な家畜衛生改善体制が大きな阻害要因となっている。常在病や流行病の対策は、家畜飼養農家にとって大きな経済的な負担となり、一般に品質や能力は高いが病気に対する抵抗性の低い改良種の家畜の導入意欲もそがれる結果となる[11]。例えばウガンダに存在しているアフリカ豚コレラやニューカッスル病の蔓延は、農家にとって深刻なリスクであり、特に多頭羽飼育による商業的な養豚産業や養鶏産業にとっては致命的な経済的打撃となる。さらに、アフリカ豚コレラやニューカッスル病以外にも、牛疫、牛肺疫、小反芻獣疫、口蹄疫などの重要な国際越境性伝染病も存在しており、流通や貿易の阻害要因となっている。最近は世界的な鳥インフルエンザに対する関心の高まりから、渡り鳥の飛来するサンクチュアリや湿地を多く有するウガンダにおいて、高病原性鳥インフルエンザの侵入を危惧する声も聞かれている。

他の旧英国領植民地のアフリカ諸国と同様に、ウガンダの家畜衛生対策や獣医臨床サービスは植民地時代から独立以後も公的部門に大きく依存してきたが、1970 年代から 1980 年代前半にかけての内乱の時代に、この政府による家畜衛生ネットワークは崩壊した。ムセベニ政権以後、農家に対する獣医臨床サービスは民間部門によるものとされ、他の家畜衛生対策活動は地方分権化の方針に基づき、地方政府によるとの方針になった。中央政府の任務は、政策、法規制および疾病対策・サーベイランスとされ、疾病対策活動は主として牛疫、牛肺疫、口蹄疫、狂犬病などの重要感染症を対象とした[12]

この結果として、地方政府は様々な分野の中で必ずしも家畜衛生対策に優先順位を与えることは無く、また中央政府は家畜疾病の流行対策についての予算を獲得・確保することが困難になった。現在、ウガンダには約 600 名の獣医師が登録されているが、大多数の獣医師は地方政府の職員として法規制や監督の業務につく一方で、非公式に農家に対する獣医臨床サービスを有料で行っているようである。民間の開業獣医師数は約 80 名にとどまっており[13]、官民を問わず獣医師などの家畜衛生技術者のほとんどは都市部に分布し、遠隔地の農家にとっての利用は困難な状態にある[14]


[11] ウガンダで飼育される家畜の 95 %は在来品種といわれている。一方、Heifer International などの国際 NGO の事業などによる都市周辺でのゼログレージングシステムでは、改良品種の導入が進んできている。外来の改良品種や改良品種との交雑品種は一般にその生産性は高いが、その遺伝的能力を発揮させるためには、適切な飼料給与や疾病予防・衛生管理などの経費支出を伴う投入が欠かせない。
[12] アフリカ諸国での世銀などのエコノミストが主導する構造調整政策においては、家畜衛生分野は獣医師が農家を対象に行う診断治療といった獣医臨床サービスのイメージにより民営化の方向でくくられ、疾病予防対策分野の公的な役割についてはあまり顧みられなかった傾向がある。
[13] OIE Handistat
[14] PMA や NAADS に見られる商業的農業生産促進を重視する政策方針による影響からか、ウガンダ関係者の間では、商業的畜産により農家が収益を上げられるようになれば、農家が病気の予防や治療にコストをかけられるようになり、家畜衛生対策は自然についてくるとの意見も聞かれるようである。

(2006 年 1 月 JICA 国際協力専門員 多田 融右 記)