ウガンダのバイオガス事情 (ムバレ編)

      バイオガスに興味を持つ協力隊長期隊員が勉強会を始めた。隊員が活動する地域においても代替エネルギーとしてバイオガスを利用できないか、という可能性を探るのが目的であり、ゆくゆくは実際にそのような施設を作ることができれば、、、という、ちょっとした夢の実現を目論む。何事も動き始めなければ実現はしない。
      バイオガスは実際に使われているエネルギーだ。筆者はカンボジアやベトナムの農村で、牛や豚を飼っている農家がその糞を利用してバイオガスを作り、エネルギーとして利用している現場をいくつも見ている。ここウガンダでも実際にそのような設備を持つ農家が存在すると聞き、以前、農家でちらっと見かけたことのあったムバレの獣医事務所長 Dr. ウェレに頼んで、模範的な農家を見学させてもらうことにした。

最初に訪れた中国式の消化槽を持つ農家。数頭の乳牛がおり、その糞を原料としている。

毎日、左の一輪車 2 杯分の糞を消化槽に供給する。中央 2 つの投入槽内で糞に水を混ぜて撹拌する。

      アメリカの NGO であるハイファー・インターナショナル (Heifer International) が 1992 年からムバレ県で農家の生活改善のための活動を行っており、バイオガスはそのコンポーネントの中のひとつだそうだ。ハイファーというのは未経産牛のことである。つまりお産を経験していない若い雌牛である。この NGO のプロジェクトは、農家に妊娠させた未経産牛を 1 頭ずつ配り、その牛から生まれた仔牛を育て、乳を搾ることによって収入を増やし、かつ糞からはバイオガスを作ってエネルギーに替えるという仕組みになっている。農家は牛を 1 頭もらうかわりに、最初に生まれた雌の仔牛を育てて妊娠させ、それを別の新しい農家に渡すのだそうだ。こうして小規模な酪農家を育て、地域に集乳所を作り、と、うまくシステムが回転するように配慮をしている。なかなか面白いプロジェクトである。ちなみにこの NGO はイカンガ、ジンジャ、ムコノ、エンテベ等の県においても活動をしているらしい。

      話をバイオガスに戻そう。バイオガスを生産するために家畜の糞を利用するのであるから、放牧をしている農家では糞を集めにくい。それゆえバイオガスを利用できる可能性があるのは、家畜を舎飼いしている、つまりゼロ・グレージングとよばれる飼養形態を取る農家に限られる。これはひとつの大きな要因だ。肉用牛で舎飼いは農家にとって大きな負担となる。数が多ければなおさらだ。しかし乳牛であれば数は少なくとも日銭を稼いでくれる。朝晩と乳を搾るのであるから、多少手間がかかっても舎飼いの方が効率が良い。しかし牛乳は腐りやすく、「搾った乳を買ってくれる集乳所が近くにある」ということが酪農を始められるかどうかの要因となる。これも大きなネックになるだろう。そう考えると豚の方が効率が良いかもしれない。酪農か養豚か、どちらがその地域に適しているか見極める必要がありそうだ。
      さてバイオガスの施設には以下の 3 種類のタイプがあるという。
            1. 中国式、ドーム型 (Chinese type, dome shape)
            2. インド式、浮上型 (Indian type, floating iron tank)
            3. チューブ式 (Tubular type, made of plastic)
いずれもそのメイン・タンクである消化槽 (Digester) の形状・仕組みによってタイプが分かれている。ドーム型は一番シンプルであるが、容量が大きい。浮上型はコンパクトであるが若干コストがかさむ。チューブ式は恐らく一番簡単にできそうでだが、メインテナンスに手間がかかる。今回は中国式とインド式の 2 つのタイプを見学させていただいた。


左側に投入槽があり、中央あたりの地面下に消化槽がある。奥に見えるドームは排出槽である。

消化槽頂上部。ここに水を入れて冷やすのだと言うが、この大きさで効果があるのだろうか。カエルが住みついていた。

      最初に訪問したのは、ムバレ獣医事務所で畜産スタッフとして働いている Dr. ウェレの同僚の家だった。1992 年にハイファー・インターナショナルから未経産牛 1 頭をもらい、それから牛の数を増やし、1995 年にバイオガス施設を作ったという。それ以来、一度もタンクの修繕をすることもなく、今日までガスを発生し続けていると聞いた。
      この農家には中国式であるドーム型のバイオガス施設がある。最もその中心である消化槽は地下にあるためその大きさを実感することはできなかったが、ご主人によると 13 立方フィート (約 4 立方メートル) だとのことであった。消化槽に糞を流し込む投入槽と、消化の終わった排出槽はどのタイプでもだいたい同じである。普通、投入槽から流れ込んだ糞は消化槽内の下部に潜り込み、消化の終わった糞が上に押し上げられて排出槽へと送られる。毎日手押し車 2 杯分の糞を水に溶いて消化槽へ送り込むという。一日中、料理でガスを使うような特別な場合を除き、日々の調理に必要なだけのメタンガスはこの量の糞で産出される。この施設を作るのに、当時、約百五十万シリングかかったそうだ

消化の終わった糞はここから排出される。

手前が排出槽、その向こうに消化槽の頂上部が見える。

この農家で使っていたガス・コンロ。

その隣には昔ながらのかまどもあった。

草の粉砕器。こうすると食べ残しがなくなるそうだ。

ウガンダでは珍しい搾乳用の山羊小屋。

      次に訪問したのはインド式の消化槽を持つ農家で、ご主人は Mr. Kegere Boniface。Dr. ウェレが所長になる前にこの地域を担当しており、その頃からここのご主人と懇意にしていたという。どうもこのあたりでは模範的な農家らしく、ケゲレさん宅のゲスト・ブックにはムセベニ大統領や副大統領 (名前を忘れた) のサインもあった。しかし農家でさえもゲスト・ブックを持っているとは、ウガンダ人のゲスト・ブック好きも堂に入ったものだ。
      この農家には 4 頭の搾乳牛と 4 頭の仔牛がいる。すべて 100 % 純血のホルスタイン。搾乳牛の中の 2 頭は乳量が一日に 20 リットルを超えるという、ウガンダでは超優秀な乳牛だ。近くには NGO ハイファー・プロジェクト・インターナショナルが建てた集乳所があり、ミルク・クーラーを持っているため、ここらでは酪農をする農家がすごく増えたという。NGO 活動の成果である。

インド式の消化槽を持つ 2 軒目の農家。4 頭の搾乳牛と 4 頭の仔牛がいた。日に 26 リットルも出す牛がいるという。

牛の糞は床掃除の排水とともにこの貯留槽に蓄えられる。ここから投入槽へは手作業で運ばなくてはならない。

右が投入槽、左が消化槽。

これがインド式の消化槽だ。ガスが貯まると浮かんでくる。

排出槽。棒を差し込んでいるところが排出パイプの入り口。

中央部に排出槽から延びた排出パイプの出口が見える。

      インド式バイオガス施設の大きな特徴は、その浮上する消化槽にある (下図参照)。大きなドラム缶を逆さまにしてかぶせたような構造で、投入された糞が嫌気発酵をして発生されるガスが内部に貯まると、徐々に浮き上がってくるという仕組みだ。ケゲレさんは、牛舎を掃除するときに出る、糞を洗い流した廃液を貯めておき、それを撹拌してから投入槽まで運んでいる。恐らく牛舎や住まいの立地条件からこうせざるを得なかったのであろうが、牛舎やバイオガス施設の設計の段階でもう少しうまくやればこの運ぶ手間は省けたのではないだろうか。
      このケゲレ宅にあるインド式バイオガス施設のお値段は、1.9 百万シリング。そのうちの百万シリングがメイン・タンクのコストである。1994 年に作ってからこれまで、一度だけ修理をしたことがあったそうだ。ちなみにガス灯の値段が 50 ドル (1994 年)、ガス・コンロの値段は忘れてしまったらしい。


インド式バイオガス発生装置の構造図 (1 フィートは約 30 cm)

左から投入槽、消化槽、排出槽。かなりコンパクトだ。

調理用ガス・コンロ。

排出槽と排出口 (手前左側、ひび割れたプラスチックの管が枯れ草の中に見える)。 家の中に延びるガス管。温度差の関係で中に水が貯まるのが難だとか。 ガス灯。かなり明るい。1994 年にケニアから購入、約 50 ドルしたらしい。

新しく建てた家。ここはかなりうまくやっている農家だ。

古い家。壁を一部崩して鶏小屋として使っている。

2008 年 2 月 18 日 長期専門家 柏崎 佳人 記