皮膚病を患ったアジアゾウ(シェムリアップ州 プノンバケン

経過
-> 当該ゾウは約45歳、メス、約2653kg(タイ式換算法で計算)
-> 当該ゾウは6年前に購入した。購入時より皮膚の丘疹がすでにあった。それ以前の経過は不明。6年かけて、徐々に全身に病変が広がっていった。痒がるようになってからは仕事(お客さんを背中へ乗せてプノンバケン山へ登る)ができない状態。
-> 1年ほど前から、他のゾウにもぽつぽつと皮膚に白斑が出来始めた。現在4頭。この4頭は、今はまだ痒みはない。時々仕事へも出ている。


ゾウの水浴び場

皮膚のひび割れ
->最近(ここ数ヶ月)当該ゾウの病状が悪化し、痂皮にひび割れや同部からの出血、化膿巣が出来るようになった。

皮膚の化膿創
->餌もよく食べ、とくにやせているとかいう訳ではないが、柱に体をこすりつけ、鼻で化膿した部分をたたくなど、痒がっている様子。

この他のゾウ
->現在4頭に白斑が出来始めている。当該ゾウ以外の係留場所は固定されていないので、特に接触する可能性が高かったかどうかなどは不明。
->水浴びのときや、プノンバケンへ仕事に行っていたときは、体に触れることはあった。現在も隣の柱に係留すれば体の接触はある。→当該ゾウのみ離して係留することを提案したが、場所がないとのこと。
->この4頭も含め、他のゾウ16頭も年齢は40歳前後(はっきりしたことは分からない)。1頭子ゾウがいる。


->サトウキビ、バナナの皮
->バナナの果実、パイナップルの果実をごくたまに与えることあり

水浴び
->他のゾウは一日4回、ゾウ舎中央の水浴び場で。当該ゾウは一日2回

これまでの治療
->内部寄生虫駆虫薬(商品名:「EMMED」、成分:Mebendazole)を当該ゾウのみ、年2回経口投与
->イベルメクチン2回注射(30mlずつ:数年前のことで時期は不確定)
->TeaTreeOil(Cajaput oilかも?、オーストラリア製)月2回塗布、3ヶ月継続(2004年)
->2004年11月から12月にかけてプロカインペニシリンを3日に1回、1ヶ月間投与(濃度不明)
->皮膚の化膿部分や裂け目にメチレンブルーか、Sudocremを塗布
->獣医師は今後、抗真菌薬「Sporal」の使用を考えている。

ワクチン接種
炭疸
破傷風
出血性敗血症
->はじめの年だけ試験的に0.1ml/頭接種し、異常がなければ2ml/頭を接種(どれも牛2doseに当たる)する。


初期の痂皮病変

病変の分布
->病変は、ほぼからだの外側すべてに形成されており、ない部分は鼻としっぽの裏側、鼻としっぽの先半分くらい、四肢の先端、おなかの下、口や肛門の周りの柔らかい部分のみであった。
->鼻としっぽのほぼ中間部分までの病変がおそらく初期のものと思われ、痂皮はまだ融合しておらず、一つ一つの距離があり、また、手ではがすことも出来なかった。体幹部の痂皮病変は融合し、手で簡単に採取できる。ひび割れや出血、化膿の病変も主に体幹部に見られる。
->痂皮は体毛と一緒にはがれてくる。はがしたあとは毛穴が目立ち、滑らかでなく硬い感じ。小さい痂皮でもはがすとゾウは痛がる。
->他の4頭の病変は、耳の付け根から肩にかけてと、臀部に多く認められた。まだ丘疹や痂皮と呼べる状態ではなく、直径0.5〜1cmくらいの白い粉を吹いたような丸い斑点が多数出来ている。

検査成績
->やや古い痂皮と新しい痂皮を10%KOH溶液で溶解し、カバーガラスを乗せて顕微鏡で観察→真菌の菌糸、ニキビダニ、疥癬(−)
->ミクロヘマトクリット管で血液を遠心し、バフィーコートを鏡検→ミクロフィラリア(−)
->血液塗沫標本をギムザ染色して鏡検→実施中
->PCV:33%、白血球数:7.45x10
->病理組織学的検査:実施中


初期の痂皮病変

初期の病変

白い粉を吹いたような丸い斑点

ゾウのその後

友人、前任に概要と写真を送って、それぞれの知り合いに聞いてもらったところ、どちらからも外部寄生虫によるのではということでした。友人の知り合いからニキビダニではと言われ、イベルメクチンの高容量投与をすすめたのですが、結果はまだ聞いていません(すみません)。

やっと何とか見られる切片を作ることができたのですが、皮膚上皮組織が樹枝状に増殖し、毛細血管新生が著しい、という組織像が見られました。なにかの原因で細胞が腫瘍性に増殖しているのでは?と思うのですが、増殖の様子がパピローマとも違うし、一番思い浮かんだのが、慢性化した豚の膀胱炎の上皮組織と似てる・・ということでした。

細胞増殖の原因が、何かの病原体によるのか、それ以外なのかはわたしには分からず、大学の研究室の先生に診ていただこうかと考えています。(20055月 青年海外協力隊員 坂井田 総子 記)
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