カンボジアにおける牛住血吸虫症の中間宿主に関する調査
ーータイ人専門家 Dr. ノッポンによる技術指導、その1ーー
      住血吸虫症は水中で有尾幼虫(セルカリア)が経皮感染することによって感染する血管内寄生虫で、全世界に約2億人の感染者を数える。ヒトに感染するものには4種がある。かつては日本国内にも有病地が存在したが、1996年2月に終息宣言を行った山梨県を最後に、現在国内での流行は認められない。ヒトに感染する日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、メコン住血吸虫では肝臓、脾臓の病変が主であるが、ビルハルツ住血吸虫では膀胱壁に主病変が認められる。
      カンボジアではメコン住血吸虫の存在が認められており、特に北部のラオス国境近辺には多くの感染者を抱えている。それゆえメコン住血吸虫のように病原性の強い住血吸虫の疫学調査を将来的に行えるようにするため、牛寄生種である Schistosoma spindale の疫学調査を、タイ人専門家の Dr. ノッポンがプノンペン近郊において指導することになった。Dr. ノッポンはかつてのJICAプロジェクトにおいて、日本人専門家と共にタイにおける住血吸虫の調査を行っていた。

      住血吸虫は 2cm 以下の細長い寄生虫である。体表は軟質で口吸盤、腹吸盤を持つ。雌雄異体で抱合している。成虫は血液中に寄生するのでこの名称がある。成虫から産出された虫卵は組織を貫通して糞便、尿などから宿主の外に出る。虫卵は水中で孵化し有毛幼虫(ミラシヂウム)となり中間宿主の貝類に侵入する。貝の体内で無性増殖しスポロシストとなりその中にセルカリア(有毛幼虫)を形成する。遊出したセルカリアは水中を遊泳して人の皮膚から浸入する。日本住血吸虫では人以外の動物にも起きるので人獣共通感染症となる。ビルハルツ住血吸虫は尿中から、その他の住血吸虫では検便で虫卵を検出する。虫卵は長径 60〜70 マイクロメーターの円形または長円形で、突起の性状によって虫種の鑑別を行う。<感染環の図を見る

 
Dr. ノッポン(右から2人目)とカウンターパート(寄生虫研究室)
 
住血吸虫に関するポスター(Dr. ノッポン作)を見ながら講義のメモを取るカウンターパート。
 
糞便の検査(寄生虫卵の検出)
 
糞便の検査(寄生虫卵の検出)
まず試しに研究室にある検査材料の糞便を使って住血吸虫卵の検出を試みる。住血吸虫卵は比重が重いために浮遊法(飽和食塩水や砂糖水など、比重の重い溶液を用いて寄生虫卵を浮かせて検出する方法で、ほとんどの線虫や常駐卵はこの方法で検出できる)は使えないため、沈殿法で検査したところ、早速、右写真のような虫卵が見つかった。この研究室のスタッフによると、これまでにもこのような虫卵は見たことがあったが、寄生虫卵だとは思わなかったという。寄生虫を専門とする者としては、かなり恥ずかしい話である。  
独特な形をした住血吸虫卵(Schistosoma spindale
 
プノンペンの市場
 
市場内で牛肉を売る店
次に成虫を探すため、プノンペン市内の生鮮市場へ出かけた。ここで牛肉を売る店から牛と水牛の肝臓を購入して研究所へ戻る。虫が遊出しやすいように肝臓をスライスして生理食塩水に漬け、野外に置いて暖めたところ、何匹もの住血吸虫が採取できた(下の写真右)。他にも胆管を開いて調べたところ、肝蛭という吸虫が見つかった。人に感染しない種類とはいえ、店で売っている肝臓から意図もたやすく寄生虫が見つかるというのはあまり気持ちの良いものではない。こんな寄生虫もカンボジア人の栄養源となっているのだろう。
 
住血吸虫の成虫を集めるため、肝臓をスライスに切って温かい生理食塩水に漬ける。
 
集まった住血吸虫の成虫(雄)
 
実体顕微鏡を使い、集めた成虫の同定を行う。
 
住血吸虫の成虫(雄)
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