カンボジア獣医療事情
ー坂井田協力隊員の報告書第四号から (2006 年 1 月記)ー
カンボジアで獣医になるには、王立農業大学(4年制)、プレックリアップ農業短期大学(3年制)、コンポンチャム農業短期大学(3年制)の3つの大学の、いずれかの家畜衛生コースを終了する必要がある。この他、6〜7年前にオーストラリアの NGO がプレイヴェイン州に私立の農業学校を作った。
現在は改善されている部分もあるようだが、今鑑定所にいるスタッフ(30〜40歳台)が学生の頃は、実習は一切なく、クメール語で教えられる先生もいなかったため、教科や年によって、ロシア語、フランス語、英語で授業が行われていた。教科書もなく、みんな板書したノートしか持っていない。
この家畜衛生コースの卒業生は、3つの大学あわせて、一年間に60人ほどとのこと。しかしそのうち就職できるのは10%ほどである。なぜかというと就職先がない(地方に行きたくない、公務員になっても給料が数10$しかない)からで、どの報告を見ても「カンボジアは獣医師不足で・・」と書いてあるのに対し、驚きの事実である。その話をスタッフにしたら、「カンボジアは獣医がたくさんいて余っているよ」と、大笑いされてしまった。
獣医師は国家資格ではなく、国家試験の制度もない。出た学校や年数により、certificate、bachelor、master などと区別されている。職場内での評価は、仕事ができるかとか、勤続年数が長いかということよりも、この certificate か、bachelorか、それとも master(修士)まで持っているのかというところによる部分が大きいようである。そのため、仕事をしながら土曜日や夜間に学校に通い、bachelor や masterをとるスタッフもいる。ちなみにプノンペン市内の Royal Academy という学校で一年間に5人だけ入学させて、2年間通うと master が取れるとのことであるが、実習などはもちろんなく、それでも論文を書いたりするようである。
地域(州)獣医事務所には獣医師のスタッフがいるが、給料が 20〜30$と安く、事業予算が少ないため、家畜の診療、ワクチンの普及などを思うように出来ていない。村にはVLA(village livestock associates)という、家畜衛生に関する数ヶ月の研修を受けた、獣医師の仕事を手伝うスタッフ(農村獣医)がいるが、実際の仕事内容や技術レベルはまだまだ低いと言われている。
コンポンチャム州獣医事務所
コンポンチャム州獣医事務所のポスター

プノンペンの畜産局には390人の獣医の資格を持ったスタッフがいる。とても毎日そんな数の人が出勤してきているとは思えないのであるが、仕事がないし、給料も安いから、決まった人しか来ていないとのこと。390人中、200人は bachelor、100人は master を持っている。

動物病院を開業するには“CINTRI”という、緑の制服とゴミ箱でプノンペン市内の掃除とごみ収集を請け負っている会社に届ければ、数ドルで証書のようなものがもらえて、それで開業してよい。以前は、動物病院の数も少なかったので、スタッフはその証書を自分の商店の前に出して、犬猫にワクチンをうったり治療をしたりしていたらしいが、最近は動物病院の数が増えて、そんなことをしても誰も来ないとのこと。

写真左 ー> 動物用医薬品店(カンポット州)

カンボジアでは動物用薬は獣医師の指示書なしに誰でも購入できる。ベトナム製がほとんどで、タイ製、フランス製もあり。配合飼料(奥のほうに見える袋)やワクチンも一緒に置いてある店が多い。飼養規模が小さいので、ワクチンも薬も小さい単位で売られている。
国内で製造できるワクチンは現在のところ牛の出血性敗血症のみ。年に一度畜産局内の部屋で作っている。販売はせず、すべて地方に無料配布するためのもの。この出血性敗血症のワクチンはベトナム製もあるが、ベトナム製は年2回接種、カンボジア製は年1回接種で、カンボジア製は粘性の高い白いとろとろした液で、接種した部分が膨らむので、農家はベトナム製のほうを好むとのこと。他の疾病のワクチンはベトナム、フランス、タイなどからの輸入に頼っている。
動物用医薬品店の看板(カンポット州)
動物用医薬品店の看板(クラチェ州)

畜産局内の動物用薬販売店では受付に獣医師(Ms. ニー)がいて、農家や獣医師に症状を聞いて薬やワクチンを販売している。価格や接種方法などほとんど暗記している。ワクチンなどは冷蔵庫に保管してあるのだが、地方の動物用医薬品店では、冷蔵庫はなく、常温保存したり、氷の塊を入れた赤い保冷箱(商店でジュースなどを冷やして売っている箱と同じもの)にワクチンを保管しているので、それを信用できないという人はわざわざ畜産局まで買いに来るとのこと。畜産局内で販売しているワクチンの種類と価格は別紙一覧表のとおり。鶏のワクチンで MERIAL 社のものがないのは、カンボジアの多くの農家さんは数十羽単位での鶏の飼育が中心で、MERIAL 社は 1000 羽単位のワクチンしか販売していないからとのこと。

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