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1. 地理並びに自然環境
    タイは東南アジアの中心に位置し、国土面積は約51万4000平方キロメートル(日本の約1.4倍)、ミャンマー(ビルマ)、ラオス、カンボジア、マレーシアと国境を接している。人口は約6000万人で、民族的にはタイ族が約85%、中華系が10%、他にモン・クメール系、マレー系、ラオス系、インド系が暮らしており、山岳部にはそれぞれの文化や言語をもった少数民族が暮らしている。気候は熱帯性、年間の平均気温は約29℃で、バンコクでは一番暑い4月の平均気温が35℃、一番涼しい12月の平均気温が17℃です。季節は11月〜2月の乾期、3月〜5月の暑期、6月〜10月の雨期がある。
    ちなみに
首都バンコクの正式名称は、クルンテープ・マハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラアユッタヤー・マハーディロッカポップ・ノッパラッターナラーチャタニーブリーロム・ウドンラーチャニウェットマハーサターン・アモーンラピーンアワターンサティット・サッカタットティヤウィサヌカムプラシットであり、世界で最も長い名前の都市である。
2. 社会経済状況
    タイは、80年代後半から日本を始め外国投資を梃子に急速な経済発展を遂げたが、その一方で経常収支赤字が膨張し、不動産セクターを中心にバブル経済が現出した。その後、バブル破壊に伴い不良債権が増大し、経済の悪化を背景にバーツ切り下げの圧力が高まり、97年7月、為替を変動相場制に移行するとバーツが大幅に下落し、経済危機が発生した。
    タイ政府は、IMF及び日本を始めとする国際社会の支援を受け、不良債権処理など構造改革を含む経済再建に努力した。タイ政府の財政政策を含む景気対策、好調な輸出などにより低迷を続けていた経済は回復基調に転じた。
    2001年2月に発足したタクシン政権は、従来の輸出主導に加えて国内需要も経済の牽引力とすることを訴え、農村や中小企業の振興策を打ち出した。これらの内需拡大政策の奏功と見られる個人消費の活性化等により、経済は回復し、2003年は6.9%、2004年は6.1%の成長を達成した。
3. タイにおける家畜衛生技術協力
    日本の約1.4倍の国土を擁するタイでは、1970年代に入り従来のコメを中心とする穀物生産から、農業所得の向上を目指して畜産、果樹、エビの養殖など農業の多様化政策が取られた。さらに国民の体質向上のの一環として、当時牛乳の自給率が15%程度という乳製品の低い自給率を高めるため、酪農の振興と畜産物の輸出・市場拡大を目標に畜産の規模拡大が掲げられた。それに伴い、畜産の振興および生産性向上の大きな阻害要因であった家畜疾病防除の強化策が打ち出された。
    タイにおける日本の家畜衛生技術協力のきっかけは、今から47年前の1958年に遡る。1958年から2年間、牛疫ワクチンの製造および防疫指導、1967〜77年の10年間は熱帯農業研究センター(現在の国際農林水産業研究センター)の在外研究として口蹄疫(FMD)の共同研究を行い、それらが日本への信頼となっていった。そのため、1958年以降、国連食糧農業機関(FAO)の指導で取り組んできたFMDワクチンの製造になお大きな問題を抱えていたタイは、新しい手法でのFMDワクチンの大量生産技術の確立を日本へ求めてきた。我が国はこの要請を受け、JICAによるプロジェクト方式技術協力として、1977〜86年にわたり家畜衛生改善プロジェクトを実施してきた。このプロジェクトはFMDセンター(在パクチョン市)でのワクチン大量培養と、南部地域家畜診断センター(在ツンソン市)での診断・調査活動から成っていた。
    一方、東北部地域家畜診断センター(在コンケン市)では、1978年の設立当初からドイツが家畜衛生・診断法の改善プロジェクトを実施していた(1993年に終了)。また、北部地域家畜診断センター(在ランパン市)では1986年からオーストラリアによるFMDの疫学調査プロジェクトが行われた。このようにタイは我が国や諸外国の技術協力を得て、地域家畜診断センターの整備を進めてきた。
    このような地方機関の診断および防疫活動の発展と共に、家畜衛生に関する調査・研究と診断の重要性が益々増大してきた。それゆえタイ政府は、家畜衛生に関する情報網の整備と地方活動の管理を行える中央機関の設立と、中央における技術力の強化と技術の地方への還元、人材育成が重要であると考え、1884年に家畜衛生に関するプロジェクト方式の技術協力を日本に要請してきた。日本はこの要請を受けて1985〜86年にわたり無償資金協力事業(約24億円)により、バンコクに国立家畜衛生研究所を設立し、研究用機器を整備した。そして1986年12月から国立家畜衛生・生産研究所(National Animal Health and Production Institute: NAHPI)プロジェクトが開始された。
    NAHPIプロジェクトは、
中央研究所の体制と機能整備、FMDワクチンの質的改良と診断技術の向上を目的として、NAHPIとFMDセンターの2カ所で実施され、1993年の終了を前にタイ政府はプロジェクト・フェーズ2の要請を行ってきた。フェーズ2では研究所の業務が家畜疾病に限定することになり、研究所の法的承認の際に"Production"が除かれ、NIAHと改名された。NIAHプロジェクト・フェーズ2の目標は、1. 主要5大疾病(豚コレラ、ブルセラ病、結核、ヨーネ病、節足動物媒介疾病)に関する防除計画確立のための疫学調査・研究、2. 診断システム確立のための診断技術の改良・開発およびその平準化、3. 地域診断センターへの技術移転であった。1998年にこのプロジェクトが終了するまでの20年にわたる日本の技術協力で、タイは家畜衛生の研究・診断の分野で大きな成長を遂げ、その自信がインドシナ地域における主要疾病の防除を主眼とした当プロジェクトの要請に繋がったのである。