サンプリング百景 --- ムピジ 2008 年 5 月 22 日

      ムピジ県マッドゥ・サブカウンティーでの疾病調査で、結核の陽性牛が複数頭見つかった農場が二つほどあり、その二ヶ所で再検査を実施することにした。多田専門員も同行することになり、車 2 台を連ねて朝 7 時にカンパラを出発。市内をスムーズに抜けることができ、ムピジには約束の 8 時よりも 15 分ばかり早く到着した。本日同行するのは、ムピジ事務所から畜産スタッフのムソケと村落隊員の増井さんだ。8 時には全員が揃い、採材に必要な物品や薬品類を積み、マッドゥへと向けて車を走らせた。
      マッドゥ着は 9 時 45 分。前回同様に開業獣医師であるカフルマが待っていてくれた。最初の牧場は町からそれほど離れていなかった。3 月に実施した最初のサンプリングで訪れた牧場らしく、陽性率は検査した 25 頭中 5 頭。カフルマによると腫脹はそれほどには大きくなく、親指大くらいだったそうだ。ブルセラの陽性牛はいなかったとのこと。この日ご主人が不在で、しかもカウボーイはひとりだけ、最近雇われたばかりときている。カフルマとムソケが牛集めの手伝いに出かけたが、それでも囲い柵へ追い込むまでに 40 分以上はかかった。

ようやく牛が柵の中に入った。真ん中二人が牧場の男の子

さてこれからひと仕事と、牛を見守る面々

ツベルクリン注射を担当する羽目になった筆者

牛が動くのでやりにくい !! 真ん中がカフルマ

      最初に注射筒を持ったのが運のつき、筆者が最後までツベルクリン液を打つことになった。というのも牧場スタッフがひとりしかおらず、カフルマとムソケは牛を捕まえるのにいっぱいいっぱいで、とても注射までは手が回らない。それに今回は事務所のドライバー、ジョンが来なかったため、記録の方は増井さんがひとりでこなさなければならなくなった。牛の名前を覚えているのは牧場の小さな男の子ふたりだけなので、記録を取るのも大変である。牛は全部で 80 頭弱しかいないとのことだったので、前回検査した 25 頭を除く全頭を検査するつもりであったが、前回のリストと一頭ずつ照らし合わせる余裕もなく、今回も片っ端から捕まえては注射を打つという戦法でいった。アンコーレ牛の群の中に入るとかなり恐い。牛の横を擦り抜けようとしたとき、ちょっと頸を振られただけであの不必要にでかい角が向かってくる。幸いにも突かれることはなかったが、蹴りは二度入れられ、足を一度踏まれた。
      今回は専門家のドライバー二人が活躍してくれた。筆者のドライバーであるキワヌカには、長い間所望されていた長靴を、この前日にようやく購入。そのかいあってか本人はかなりハイになっており、嬉々として牛を捕まえに駆けずり回っていた。また多田専門員のドライバー、ポールは、筆者が持参したカメラを首からぶら下げ、普段写す機会のない筆者自身の写真を何枚も撮ってくれた。出来はあまり良くなかったが、それはモデルが悪いからだという意見もある。

小休止中のメンバー

角の向こう、右から多田専門員、増井隊員、ポール (多田さんのドライバー)、キワヌカ (筆者のドライバー)

左から二人目、タンクトップ・マンが牧場のカウボーイ

青いツナギのムソケも今日は牛を抑えていた。

      二軒目の牧場は前回、筆者も訪れた農家だった。高台に立派な家が建ち、その奥には丸い泥壁に草葺きのウガンダ民家が 2 棟並んでいる。背後には鱗雲とできそこないの入道雲が浮かび、一枚の絵のようなアフリカの景色を作っていた。この牧場の陽性率は検査した 25 頭中 3 頭。しかもブルセラ陽性牛も何頭かいたそうだ。ここでは採血もして、もう一度ブルセラの検査をしようという話をしていた。
      しかしここでちょっと困ったことになった。ウガンダ人スタッフがなかなか動かずいつまでもご主人と話をしているため、もうそろそろ始めようとムソケに切り出したところ、何とご主人が再検査を拒否しているという。前の土曜にカフルマが来て確認を取ったときには了解していたのに、今日になって突然ダメだと言い出したらしい。「そんな検査をしても自分たちにとって何の利益もない」と言い張っているのだ。カフルマとムソケがブルセラ病と結核病について詳しく説明をしても、全く聞く耳を持たない。こうなっては仕方がない。ご主人の意に反して強行することもできないため、我々は引き上げることにした。カフルマとムソケは、ご主人を説得できなかったことと、せっかくここまで来たのに検査をすることができなかったことで、かなり意気消沈していた。唯一の救いはカフルマが子犬を一匹もらったことか。なかなか愛嬌のある骨太なヤツだったが、牧場を後にするときには車の中でしきりと悲しげな声を上げていた。まあ、子犬にとっては災難だったのだが、、、

この日、マッドゥの町で、郵便局の看板

二番目の農場の古い家

二番目の農場の新しい家

何故かこの男の子にだけすごい数のハエがたかっていた。

      マッドゥの町に戻った後、前回と同じレストランで昼食を取った。相変わらず味は良かったが、肉の柔らかさは前回の方が上だった。カフルマと新しい彼の番犬に挨拶をし、ちょっと沈んだ気持ちのまま我々はムピジ・タウンへの途についた。

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2008 年 6 月 7 日 長期専門家 柏崎 佳人 記