Murchison Falls National ParkPart 1

      せっかくアフリカのウガンダまで来ていながら、野生動物を見ないで帰すのは忍びないという親心から、短期隊員 4 人を連れてマーチソン・フォールズ国立公園へと出かけた。昨年はムブロ湖国立公園だったから、今年はグレード・アップをしてゾウとキリンのいるところにしようと画策した。が、本当は筆者自身が行きたかったのである。
      マーチソン・フォールズはカンパラの北北西約 300 km のところにある。最短距離はルウェロ経由であるが、実際には近藤くんが赴任しているキボガを通ってホイマに抜け、そこからマシンディ経由で行った方が時間的には速い。ホイマ近辺で石油が発掘されたことから、カンパラからホイマまでの道がウガンダには不釣り合いなくらい整備されたためである。JICA 関係者が行けることになったのは昨年の 12 月からで、それも国立公園内の一部に限られている。それでもクィーン・エリザベス国立公園にはいないキリンが見られることから、隊員や専門家が頻繁に訪れる国立公園になった。


8 月 22 日 (金)
      7 時過ぎに協力隊宿舎で短期隊員 4 人をひろい、カンパラを出発。ホイマ・ロードへの入り口で、昨日までセミナーに出席していたキボガ獣医事務所のモーゼスとロバートを乗せ、まずはキボガへと向かった。カンパラから北上し、ルウェロを通ってマシンディに通じる道路は、穴ぼこだらけで状態が悪く、おそろしく時間がかかるということであったので、少々遠回りながらも道路状態の良いホイマ・ロードを使うことにしたわけである。キボガ獣医事務所で近藤くんの働くラボを見学した後、我々は再び車に乗り込み、ホイマ経由でマシンディへと向かった。ホイマからは未舗装道路となり、時速 60 km を出すのがやっと。とにかく揺れるし、車がどうにかなるのではないかと心配になるほどの悪路であった。しかし 11 時頃にはマシンディに到着。ここから公園のゲートまでは 20-30 km 程度の距離である。
      キクンバニョボにあるゲートは、まだマーチソン・フォールズのかなり手前にあり、実際にはブドンゴの森への入り口になる。チンパンジーが棲んでいる森だ。その森を抜けると道の左側がブグング野生動物保護区、右側がカルマ野生動物保護区となり、ゲートから 20 km くらい走ったところでやっとマーチソン・フォールズ国立公園内へと入る。ここはウガンダ最大の国立公園で、面積は 3,985 平方 km もある。
      ゲートから続く道はただただ真っ直ぐに北上する。あたりには木々が生い茂っているため見通しが悪く、動物の姿はほとんど見かけない。道沿いでたむろするバブーン (ヒヒ) の一群と、たまに横切るイボイノシシの親子くらいであるため、かなり退屈なドライブであった。地理的に視界が効き、ゲート内に入るとすぐにシマウマやレイヨウ類の仲間を目にすることができるムブロ湖国立公園とは随分と違う。とにかくまず滝を見に行くことに決め、ひたすら北上した後、分岐点を右に折れた。この頃から雨がパラつき始めたが、あまりひどくはならないような気配である。草原に入って視界が開けると、右手に泥浴びをしている水牛が 2 頭目にとまった。今回初めての大型動物である。相も変わらず不細工であり、常に怒っている風情が憎たらしい。S 字状に湾曲した角はまるで小泉元首相の髪の毛のようでもあり、額が狭いためにすごく頭が悪そうに見える。多分本当にそうなのだろう。

Kicumbanyobo Gate

Murchison Falls National Park

      マーチソン滝の入り口に到着。ちょうど雨が強く降っていた時だったのでしばらく車の中で雨宿りをしていた。しばらくして雨足も弱まり、外へ出て水音のする方へ歩いていくと、水飛沫を上げて滔々と流れるビクトリア・ナイルが目に飛び込んできた。雨期が始まり水嵩が増しているのだろう。ここらあたりの川幅は約 50 メートルほどもあるという。それでもこれだけの水量と速さがあるのだ。これが全て幅 6 メートルの滝に流れ込むのであるから、その勢いたるやすさまじいであろう。その様子を想像してワクワクする気持ちを胸に、滝へ続くトレイルを歩き始めた。マーチソン滝は幅 6 m、高さ 38 m の小さな滝ではあるが、この滝を境にビクトリア・ナイルは白ナイルと名前を変える。日本で言えばちょうど「天城越え」の浄蓮の滝程度であろうか。しかしその迫力は格段に違っていた。
      5 分も歩くとその滝が姿を現せた。トレイルはちょうど滝に水が流れ込むあたりへと進んでいく。川幅が一挙に狭まり、水煙を上げて落ち込んでいく。川そのものが水飛沫のかたまりとなり、色が白く変わった。白ナイルと呼ばれる所以だろうか。一旦、落ち込んだ水が、重力をなくしたように再び湧き上がってくる。それを何度か繰り返し、水はようやく狭い滝を抜けて平穏を取り戻す。その水量、勢い、音、すべてにおいて凄まじいの一言。物理的には吸い込まれそうであり、精神的には突き放されているように感じる。我々はしばし呆然とその怒れる水を眺めていた。
      トレイルは滝沿いに進み、流れ出す白ナイルを見渡せる場所まで到達する。そこからは内陸へ潜り込んでいき、そのまま歩いていけば滝の下に出られるのだそうだ。ボートに乗って滝を見に来る人は、まずボートから滝の全容を見物し、その後、余力があればトレイルを歩いて登り、滝の上まで来るという。高さが 38 m であるからそれほど登りがきついとは思えないが、我々は滝壺に降りることはせず、そのまま駐車場へ戻ってフェリー乗り場へと向かった。ナイルの南側から北側へ渡るためだ。

Victoria Nile

Murchison Falls

Murchison Falls

Murchison Falls

      マーチソン・フォールズはウガンダ一大きい国立公園であるが、通常、観光客がサファリを楽しむ地域は、公園の東部、ビクトリア・ナイルとアルバート・ナイルに囲まれたほんの 20 平方 km ほどの草原に限られている (地図を見る)。実際、この地を訪れてみると、その野生動物の密度の高さに驚かされる。
      桟橋かと思っていた細長いはしけ様のフェリーに乗って、我々は北岸へ渡った。対岸の船着き場にはパラーという地名がついている。そしてそこにはアフリカ象が 4 頭もいた。これはないだろう。こんなに簡単にゾウが見られてしまうと、動物園みたいで野生動物だという感じがしないし、ありがたみも薄れる。気を取り直し、まずは今晩の宿舎であるパラー・サファリ・ロッジへ向かうべく少し進むと、そこにはカバがいた。まだ 4 時を過ぎたばかりで、カバが陸に繰り出す時間ではない。しかもどこかの事務所とおぼしきパラボラ・アンテナ前のローンで芝を食べているのだ。これもないだろう。いったいここはどうなっているのか、このカバは誰かに飼われているのではないかと疑いたくもなる。筆者などは呆気にとられて写真を撮る気にすらならなかった。

Ferry on the south bank of Victoria Nile

北岸に渡るフェリーの上で、戸田くん (左) と近藤くん

African elephants at the pier

Hippopotamus (近藤くん撮影)

      英 Daily Mail 誌によると、ウガンダ共和国のマーチソン・フォールズ国立公園にて、森番(密猟者を監視する人?)が、怒ったカバに100メーターほど追いかけられるという事件が発生。無事、安全地帯まで逃げ来れたそうですが。カバは縄張り意識が強く、攻撃的な動物で、侵入者に対しては、相手がなんであれ撃退行動に出るそうです。
      同記事によれば、カバの歯はカミソリなみに鋭いとか。また、体重は約2トンあるにも関わらず、時速50kmほどの速度で走ることもでき、アフリカでは他の動物よりもずっと多く人間様を殺しているとか。草食動物なのに、おそるべし (http://www.momouta.org/blogs/mloge/2007/06/
13/a_a_pa_a_la_a_la_mad_a_ar_a_a から引用)。この場所は北岸フェリー乗り場、左上写真の象のいた場所のあたりである。

Uganda Kob

Warthog

      北岸にある唯一のサファリ・ロッジにチェック・イン後、すぐに車に飛び乗り夕方のサファリに出かけた。ロッジから北上して行くとすぐにウォーターバックが現れ期待が膨らむ。次はウガンダ・コブの登場。なかなか美しいレイヨウ類の仲間だ。ガイドブックによると、この公園にはコブが沢山生息しているらしい。このあたりは、視界の開けた草原に椰子の木が散在しているというちょっと変わった景色が続く。以前、住んでいたウルグアイでは、渡り鳥のルートに沿って椰子の木が茂っていた。それはつまり渡り鳥が椰子の実を食べ、その実が糞と共に大地に落とされ根を張り雄々しく育った結果である。ここでもそのようなことが起こっているのだろうか。それとも落ちだ実を食べた動物がまき散らしているのだろうか。
      道を間違えて、先ほどのフェリー乗り場へ通じる道を下って行くと、丘の斜面を移動するゾウの群に遭遇した。あまり大型のゾウはいなかったが、フェリー乗り場で見たゾウよりは格段に野性味を備えていた。もう少し進んだところで道を間違えたことに気がつき引き返して来ると、まずはバッファローに、そして次はハートビーストに出会った。ハートビーストは面長で、間延びした頭の悪そうな顔をしている。戸田くんは「昆虫系」と表現していた。確かにバッタとよく似ている。
      リッチなお客さんが利用する小さな飛行場を横目に見つつ、アルバート・トラックへと入り込んで行った。コブやオリビなどのレイヨウ類はわんさかいる。しばらくすると左手にキリンの姿が見えた。1 頭や 2 頭ではない。群で優雅に餌を食べている。何とも愛嬌のある小さな顔と、あの独特なゆったりとした動きのリズムから、同じ地球上の生物とは思えない、異星人のような印象を受ける。Rothschild's giraffe は世界中でここにしかいないのだそうだ。その異星人は車を走らせるにつれて次から次へと現れるようになった。顔が小さくて足が長い。ある意味、ウガンダ人のようでもある。
      ちょうど夕方の時間帯であり、あわよくばライオンと出くわすのではないかという期待を込めて、ライオン・トラックへと車を進めた。ライオンのプライドのひとつがこのあたりを縄張りにしているのだそうだ。しかしその夢はバッファローによってあっけなくかき消された。車を走らせて行くと、前方の道を歩く 2 頭のバッファローが目にとまった。近づいてクラクションを鳴らすと、後ろの 1 頭が立ち止まって振り返った。怒っている。道から退く気配がなく、かといってこちらにも突っ込んで行く勇気などない。仕方なくあっさりと負けを認め、もと来た
アルバート・トラックへと戻って行った。すると今度はまた別のバッファローに道をふさがれてしまった。八方ふさがりならぬ、二方ふさがりとは正にこのこと。いこかもどろか、思案のしどころ。しかしこちらの方のバッファローは我々など気にもとめない様子ですぐに道を逸れ、再び草原の中へ姿を消してくれた。ここらが今日の潮時とばかり、我々は再びアルバート・トラックを通ってロッジへと戻った。その帰り道、車のすぐ脇に Abyssinian Ground Hornbill のつがいを見つけた。大型の美しい鳥である。写真を撮り損ねたのが悔やまれる。---> その 2 に続く。

平原に散立する椰子の木々

African elephant

African buffalo

Jackson's hartebeest

Rothschild's giraffe

Rothschild's giraffe

その 2 を読む。

2008 年 9 月 長期専門家 柏崎 佳人 記