ルワンダ持続的農業・農村開発調査 現地視察、その 1

      7 月 1 日から 4 日にかけて多田専門員に同行する形で隣国ルワンダへ出張した。10 数年前、ツチ族とフツ族の争いが大虐殺へと発展した国だ。当時、イギリスに住んでいた筆者は、BBC のドキュメンタリーを見て衝撃を受けた覚えがある。特に刑務所内を撮影した映像は本当にショッキングであった。そして最近では映画「ホテル・ルワンダ」で再び脚光を浴びたのが記憶に新しい。出発前、ルワンダへ行ってきた隊員や JICA 関係者から、なかなか良い評判を耳にしていた。「生ビールが飲める」「パンがおいしい」といった、ある意味海外生活者にとって切実な情報から、「各省庁では濫用を防ぐために公用車を廃止し、必要があればレンタカーを使っている」とか、「大統領が統率力のある人で、強権的ではあるものの非常に良い政策を実施している」といった、ウガンダ人にとっては耳の痛い話を、である。実際はどうなのか、確かめるには時間が短すぎるが、それでもまあ何か感じるものはあるだろうとこの出張を楽しみにしていた。出発は夜 10 時近い便である。それが 2 時間半も遅れたためにエンテベ空港で 4 時間以上も待たされ、出鼻を挫かれたような格好になってしまった。
      今回ルワンダへ行くことになった経緯をまず説明しよう。ルワンダの東部県ブゲセラ郡において 2006 年 4 月より「持続的農業・農村開発計画調査」が進められている。来年 1 月で終了を迎えるらしいが、 3 年近い調査であるからひとつのプロジェクトと言ってもおかしくないだろう。その開発調査は農業全般をカバーするため多くのコンポーネントを含み、そのうちのひとつが「改良乳牛導入クイック・プロジェクト」だ。これはルワンダ政府が進めている "One Cow One Poor Family Project" に沿って実施されており、ブゲセラ郡ンタラマ・セクター内の 3 セルで、18 農家を対象に実施している。ちなみにセクターは「村」、セルは「字 (あざ)」といったところか。このクイック・プロジェクトは、飼料畑および牛舎の有無を基準にセル事務所が選定した 18 軒の農家へ、75 % 交雑 (フリージアンとアンコーレ) の改良牛を 1 頭ずつ配るというもの。2006 年の 12 月に牛が配られたが、それ以来これまで様々な問題が噴出したため、最も近いところにいてかつ安上がりな専門家として我々に白羽の矢が立ち、出張することになったわけである。

キガリからブゲセラ郡ンタラマ・セクターへ向かう途中

キガリからブゲセラ郡ンタラマ・セクターへ向かう途中

7 月 2 日 (水)
      まずはフィールドへ出かける前に JICA ルワンダ事務所にて開発調査チームの方々とお会いし、これまでの経緯について詳しい話を伺った。その内容は以下の通りである。

1. 実施機関:RARDA (Rwanda Animal Resource Development Authority)-JICA 調査団合同チーム
2. 実施期間:2006 年 6 月から 2008 年 12 月まで
3. 目的および上位政策との整合性:モデル農家の生計向上、厩肥施用による土壌改良および乳摂取による栄養改善。ルワンダの国策である One Cow One Poor Family Project に沿って実施。
4. 対象地域およびモデル農家:ブゲセラ郡ンタラマ・セクター内の 3 セル、18 モデル農家。モデル農家は飼料畑および牛舎の有無を基準にセル事務所が選定。
5. 配布乳牛:75 % 交雑の改良妊娠牛
6. プロジェクト実施スケジュール:2006 年 12 月の導入を前に、技術研修、スタディー・ツアー、牛舎の建設、天水貯水槽の設置などを進めた。牛舎用コンクリートおよび貯水槽は開発調査チームにて供与。
7. 改良乳牛購入および選定:RARDA の獣医師および家畜衛生技師、購入業者、JICA 調査チームで、ニャガタレ州の牧場から視覚判定により選定し、血液検査を経て RARDA が最終的に決定した。
8. 飼養状態:
- 繁殖は人工授精および種牛による自然交配の 2 面から実施
- 泌乳量:2.5~8.0 リットル/日
- 出産累計頭数:雄 9 頭 (うち 3 頭死亡)、雌 5 頭、流産 2 頭、母牛とともに売却 1 頭 ---> 計 17 頭
- 給餌方法:粗飼料が主体 (ネピアグラス、サツマイモの茎葉、野草、等で、豆科牧草はごく一部)
- 飼養法:舎飼いのゼロ・グレージング
9. 課題・問題点:
i) 低泌乳量
ii) ネピアグラスに偏重した給餌飼料
iii) 家畜衛生を含む RARDA および地方政府機関の脆弱な支援体制
iv) 視覚に頼る改良乳牛選定
v) 非常に低い人工授精成功率 (25 %)

      ざっと以上のような説明を聞いてまず最初に気になったのは、導入した牛は 75 % の交雑というだけで、特に改良されたわけでも何でもないという点だ。乳牛の場合、純血種であっても当然乳量には個体差がある。だから高能力牛の子孫を残そうと農家は苦労を重ねていく。精液を提供する雄牛の場合などは、後代検定といってその子孫の能力から雄牛の価値を判定したりするくらいだ。ところが RARDA-JICA 調査団合同チームの方々は、75 % の交雑種であれば、どれもローカル種より泌乳量が多いはずだと思いこんでおられたのだろう。本来であれば、少なくとも泌乳能力の高い母牛から生まれた子供か、評価の高い雄牛の精液を使った人工授精により生まれた子供を選ぶべきであったのだ。つまり最初からつまづいてしまったわけである。泌乳量が少ないというのも仕方がない。
      しかし、ウガンダの交雑種乳牛などでも日量 2 リットル程度の牛がざらにいる。2.5~8.0 リットル/日というのはさほど悪くない数字である。最初の期待が大きかっただけに (15 リットルくらいは搾れるとと考えていたらしい)、とてつもなく少なく思えるのだろう。それにしても家畜衛生などのサポート体制がないままに、経験のない農家に乳牛を配るというのは無謀としか言いようがない。乳牛は家畜の中でも高度な飼養技術が必要とされる動物だ。国策として決まり、動き出してしまったためにもう後戻りはできないのか。弱い立場の農家にそのしわ寄せがきていなければよいのだが、、、という気持ちを胸に、我々はブゲセラ郡へと向かった。


農家 1 の牛舎

農家 1 の牛

農家 2:パイナップル栽培

農家 2:パイナップル栽培

      ここらあたりのルワンダは、ウガンダの南西部と地形がよく似ている。丘が連なり、アップダウンが続く。そのような丘陵地帯は土地が痩せているためか、ウガンダでは牧畜が主体であるが、ここルワンダでは農作物の栽培が中心のように見受けられた。プロジェクト・サイトもそのような丘陵地帯に散在している。

農家 1:改良乳牛導入プロジェクトのモデル農家
      JICA チームから供与された牛は 2 月に出産。当時は日量 8 リットル出していたが、現在では 5 リットルまでに低下した。その後、農家が自分でもう一頭未経産牛を購入した (約 8 万円)。現在、妊娠 3 ヶ月。乳価は 1 リットル 30 円程度。
      牛の状態は悪くない。体格は小さめだが、痩せてはいないし毛艶も良い。乾期に入り、農家は毎日往復 2 時間かけて水を取りに行くという。1 頭が日に約 40 リットルくらいの水を必要とする乳牛を、こんなに水源から離れたところで飼育すること自体、無謀としか言いようがない。しかし聞いたところによれば、だいたいどこの農家も同じような状況なのだという。牛小屋が狭いのが若干気になった。RARDA-JICA チームで設計し、床のセメントなどはプロジェクトから供与して農家が建てたらしいが、もう少し広い方が良かっただろうと感じた。

農家 2:パイナップルの栽培
      8 ヶ月程度で収穫できる。1 個約 60 円。コーヒーも植え始めた。

農家 3:食用バナナの栽培
      昨年 9 月に植え付け。収穫までに約 1 年かかる。

農家 4:ウサギの飼育
      昨年 11 月にひとつがいをプロジェクトが供与し、それが現在では 34 羽にまで増えた。1 羽約 160 円から 200 円。しかしルワンダではウサギを食べるという習慣が一般的ではないため、マーケットが確立されていない。


農家 3:食用バナナの栽培

農家 3:食用バナナの栽培

農家 4 のウサギ小屋の前で、多田さん (左) と後藤さん

農家 4 の牛。アンコーレとセブとフリージアンが混ざっているようだ。プロジェクトから供与された牛ではない。

農家 4 のウサギ小屋

農家 4 のウサギ小屋

農家 4 の子供

小規模溜池

小規模溜池建設
      人力で掘削。畑作用で、貯水量は 100~120 立方メートル (1 ヶ月程度もつくらいの量)。水が流出するため、粘土で隙間を詰め、更にビニールシートを張る予定。

農家 5:改良乳牛導入プロジェクトのモデル農家
      昨年 12 月に仔牛が生まれた。泌乳量は最高で 4 リットル/日程度。自然交配をし、現在妊娠 3 ヶ月。ここでも牛の状態は悪くない。背部の皮膚に 2-3 ヶ所、丸い湿疹痕のような瘡蓋があり、農家はランピースキン病ではないかと心配していたが、筆者の目にはランピースキン病の病変には見えなかった。


農家 5 の牛舎

農家 5 の牛

貯水槽、ケニア式

貯水槽、ケニア式

農家 6:養蜂農家

農家 6 のユーカリに咲いた花

ケニア式貯水槽
      高地灌漑のための雨水貯水槽。これは JICA 開発チームによるものではない。

農家 6:養蜂
      女王蜂を取ってくることにより、野生のハチを集める。季節により色や味が違うため、品質が一定しない。この時期、ハチが蜜を集めるのは主にユーカリの花から。


その 2 を読む。

2008 年 7 月 長期専門家 柏崎 佳人 記