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1. 地理並びに自然環境
    カンボジアは熱帯に位置し、年間を通じて極めて豊富な太陽の恵みを受けている。平均気温は摂氏27度、最低平均気温は摂氏17度である。 相対湿度は夜のほうが高く、通常は90%以上、昼間の平均湿度は80%である。 季節は、雨期と乾期の2つに分かれ、 南西の季節風のために、多湿な雨期が4月から10月まで続く。ほとんどの雨は山岳地帯に降り(年間5000ミリ)、プノンペンの雨量は年間で平均1400ミリ程度である。 乾期は11月から3月まで続き、12月から1月が最も涼しい。最も暑い月は4月で、気温は38度(華氏100度)まで上がることがある。

    はるかチベットに源を発する国際河川メコン川が国土のやや東よりを北から南に縦断し、プノンペン付近で西側から合流するトンレサップ川と合流し、東南に流れを変えベトナムへと注いでいる。国土の中央部には、トンレサップ湖およびこれらの大河がつくった沖積平野が広がっており、その周囲を取り囲むように山地が走っている。国土の大半を森林(密林、疎林)が占めており、年間降水量が4000 mm から 6000 mmを越す東側の海岸地帯にはマングローブ林が発達している。

2. 歴 史
    1-6世紀にかけてフーナン王国、6-8世紀にかけてチェンラ王国として繁栄、その後一時ジャワ王国の支配を受けたが、9世紀に主権を奪回し、以後15世紀までアンコール王朝の繁栄を極め、大帝国を築き上げた。 しかしその後、次第に東南アジアの新興国ベトナムとタイ(シャム)から挟撃され、1884年にフランスがインドシナ半島を植民地化しフランスの保護国となる頃には、半ば両国の従属国となっていた。
    1941年の日本軍の仏印進駐以来、フランスの影響は後退したが、1945年8月の日本の敗戦に伴い、フランスの間接統治が再開される事によって、独立運動が激化する事になった。シアヌーク国王の主導のもと全土に広がった独立運動により、1953年11月9日「カンボジア王国」として、完全独立を達成した。その後、シアヌーク殿下の治世の下で、非同盟中立政策が推進され、平和と発展の時代が続いた。しかし、隣国ベトナムと大国アメリカの影響を受け、インドシナ戦争に巻き込まれることになる。
    1970年にアメリカ支援の下、親米右派のロン・ノル国防相によるクーデターが発生、ロン・ノル政権(クメール共和国)が発足、シアヌーク殿下は北京に亡命した。シアヌーク殿下は、かつて自らが弾圧した共産主義勢力と共闘し、政権奪回を図った。 ベトナム共産党の支援を受けたインドシナ共産党を中核とする連合勢力が、1975年の4月17日にプノンペンを陥落させ、全土を掌握した。その後、インドシナ共産党の一派であったポル・ポト率いるクメールルージュが、内部抗争によって政権を掌握し(民主カンプチア国)、都市住民の農村下放や、大量虐殺が行われたことは、記憶に新しい。 その後も、ベトナム軍の進駐や、親ベトナム政府軍とクメールルージュ主体の3派連合との内戦の継続など、不幸な歴史を歩んだ。1991年には全ての当事者の間でパリ和平協定が成立し、日本でも大きく取り上げられた国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)管理のもとで、1993年に民主的な総選挙が行われた。 この結果、シアヌーク殿下(現国王)の息子ラナリットの率いるフンシンペック(独立・中立・平和・協力のカンボジアの為の民族統一戦線)と親ベトナムの旧政権を主体としたカンボジア人民党の連立政権が誕生した。 同年9月21日には立憲君主制、民主主義、自由市場経済を標榜する「カンボジア王国憲法」が制定、カンボジアに、新たな時代の幕が切って落とされた。

3. 社会経済状況
    主要産業は農林水産業で労働人口の約8割が従事。93年の新政府誕生後、経済復興が進んだが、97年7月の武力衝突やアジア経済危機の影響で援助停止や投資中断が相次ぎ、経済状況は悪化。98年の新政権成立による政情安定化と財政経済改革を受けて状況は回復に向かった。99年は1月に付加価値税を導入し9月までの税収が前年比58%増加。過去2年連続1%だった成長率は4%程度に、インフレ率は前年の12.6%から5%程度になる見通し。 国際通貨基金(IMF)は96年に腐敗と森林乱伐を理由に融資を停止したが、99年10月、2002年までに8160万ドルの融資再開を決定した。 2000年の予算案は総額2兆3550億リエル。歳出で最大の国防費は6%減の3112億リエル。厚生、スポーツ関係費は倍増。
4. 畜産の概況
    カンボジアのGDPに占める農業の割合は37%、更に畜産はその約3割と重要な位置を占めているものの、専業の畜産経営はほとんど見られない。稲作等の農作業は通常2頭立てで行われるため、多くの場合牛・水牛は農耕用としてのペアで飼育されている。また豚は現金収入及び貯蓄として、家禽(鶏、アヒル)は自家消費及び販売目的で農家の庭先で飼われているのがほとんどである。2001年の統計では、牛286万9000頭、うち役用が131万頭、水牛62万6000頭、うち役用が35万7000頭、豚211万5000頭、家禽(鶏及びアヒル)1524万8000羽が飼養されている。
    牛及び水牛は約半数が役畜として利用されているほか肉用にも利用されているが、いわゆる乳用牛はいない。在来種がほとんどであるが、1960年代にインドよりハリアナ種が導入されたほか、1984年には家畜繁殖センターにブラーマン種が導入され、これらとの交雑種も利用されている。豚は床下などで小規模な飼育を行っているケースが多く、現金収入を得、農家の貯蓄としての意味も大きい。農村部では在来種、又は在来種との交雑種が多く見られるが、改良種の子豚を肥育素豚として購入する農家も増えている。家禽は農家の自家用に利用されているほか、余剰分が販売され農家の現金収入となっている。
    畜産物の消費量は国民ひとりあたり年間に牛肉4.6 kg、豚肉8 kg、家禽肉1.7 kgで、今後増加が見込まれる。
    カンボジア政府は畜産政策として家畜の生産性、役畜検査、食料生産、公衆衛生管理の向上、畜産物の輸出の向上を通じた農家及び国民所得の向上を掲げている。これを達成するため、1.家畜の死亡・罹患率の減少、2.家畜飼養管理技術の向上、3.家畜の改良と新品種の導入、4.家畜生産及び糞尿処理技術開発、5.流通改善のための対策を行っている。
    農林水産省では家畜衛生生産局から各県レベル・地区レベルの家畜衛生生産事務所に技術的な支援を行っており、5000人の地方家畜衛生指導員を養成し、地域ごとに農家への指導、ワクチン接種、治療などを行っている。付属機関として家畜衛生研究所は基礎となる疾病診断、疫学調査、ワクチン指導などを行っており、家畜繁殖センターでは改良のための牛及び飼料作物種苗の増殖、配布を行っている。
5. 家畜衛生の現状と課題
    カンボジアへの協力を考える際、それがいかなる協力であれ同国の歴史的経緯をまずは十分に考慮に入れる必要がある。つまり、カンボジアの人口の84%が農村人口であり、またGDPに農林水産業が占める割合は43%と、同国にとっての農業の重要性は言うまでもないが、農業を初め、その他の産業を支える人材育成、経済・社会インフラの整備、保健医療・教育の充実、地雷除去や障害者支援といった急務が山積している事にもかかわらず、人材・資金が極度に不足していることに十分な配慮をする必要がある。
    家畜衛生分野の協力については以下の2点が重要である。
1. カンボジアで最重要と考えられる、小規模稲作と使役動物としての家畜生産が一体化している(つまり、稲作に必要な動力として牛を中心とした家畜に頼り、また同時にこれらの家畜の飼料として稲わらに頼る関係がある)。
2. 家畜生産・販売が農家現金収入の数少ない手段のひとつであり、同時に小規模農家の資産としての役割、また貧困改善に直接的な役割を果たす。
    上記1,2に鑑み、家畜の生命、価値に直接的に重大な損害を及ぼし得る家畜衛生分野の協力の必要性が、畜産分野においても高いと考えられる。実際カンボジア政府も同様の認識を持っており、また同国畜産分野で幅広い協力を進めている世界銀行の融資による農業生産向上計画も家畜衛生面での協力を重視している。
    同国において発生が認められた家畜疾病は下表の通りである。これらの疾病に対する対応策については、カンボジア独自で有効とされるものはほとんどないものと思われる。仮に疾病の報告がなされたとしても、検体を採取するための交通費、日当、宿泊費を支払うことができず、中央の診断ラボにおいてさえ診断活動がほとんど行われていないのが現状である。
    また同ラボの職員の給与もカンボジア独自では支払うことはできず、世界銀行の融資による農業生産向上計画により給与補填が行われており、これがなければ職員が満足に出勤することさえできないのが現実である。よって家畜疾病の発生状況の全体像および詳細については、未だ畜水産局も把握するに至っていない。
    以上のような状況の中、定量的な分析は行われていないものの、重要とされる家畜疾病は同国政府から提示されている。最重要視されるのは出血性敗血症である。これはカンボジアでの発生件数が高いとされ、また同国で最も重要な家畜と考えられる牛に感染し、死に至らしめる。続いて口蹄疫(感染力が強く、歩行および餌を食べることができなくなるため、経済損失が高い)、ニューカッスル病、豚コレラが重要とされている。
発生が認められた家畜疾病
畜 種
主 要 疾 病
牛、水牛及び小反芻動物
出血性敗血症、気腫疽、口蹄疫、炭疽
豚コレラ、豚丹毒、口蹄疫、サルモネラ菌、大腸菌症
家 禽
ニューカッスル病、家禽コレラ、ガンボロ病、雛白痢病、鶏痘、鳥インフルエンザ、伝染性気管支炎