出血性敗血症(HS)は急性のパスツレラ症で、Pasteurella multosida のある特定の血清型菌によって引き起こされる。主に牛と水牛が罹患し、急性の致死的経過を取る。HSはアジアとアフリカにおいて特に重要な疾病であり、南ヨーロッパと中近東の国でも発生がみられる。一年を通じて発生するが、普通、雨期に大きな流行が起こる。東南アジアの谷間やデルタ地帯において、稲作に使役される水牛の間で最も多く発生する。 |
1. 病 因
HSの流行は Pasteurella multosida の血清型B:2もしくはE:2によって引き起こされる。血清型E:2はアフリカにおいてのみ分離されており、血清型B:2はエジプトとスーダンを含むその他の地域で確認されている。Pasteurella multosida は細胞外性寄生であり、免疫反応は液性である。 |
2. 発生および疫学
感染は直接、もしくは間接的な接触により引き起こされる。感染源となる細菌は牛や水牛の鼻咽頭に存在し、常在地域においては約5%の牛や水牛がキャリアーであると考えられる。雨期の初めに見られる栄養失調など、種々のストレスの結果、動物の免疫力が弱まり、病気に対する感受性が高まると仮定される。自然感染は病原菌の摂取や吸入によって起こる。感染初期における増殖は扁桃腺であろうと考えられている。感受性のある動物では敗血症が急速に進行し、最初の臨床症状が現れてから8〜24時間以内に菌体毒素によって死亡する。菌体外毒素は確認されていない。
病原菌が正常値に侵入した場合、致死率は非常に高い。常在地においては病気による損失は大きく変化する。東南アジアでは最も重大な損失はモンスーン期に現れ、原因菌は湿った土や水の中で数時間から数日間も感染力を保つため、この時期に広く伝搬する。 |
3. 症 状
ほとんどの臨床例は急性もしくは迅急性であり、最初の臨床症状が現れてから8〜24時間以内に死亡する。転帰が短いために臨床症状は見逃されることが多い。動物はまず元気がなくなり、そして動くのを嫌がるようになる。次いで発熱、流涎、水様性の鼻汁が観察される。浮腫は最初、咽頭部に現れ、それが耳下腺部、頸部、胸部へと拡がっていく。粘膜は充血し、動物は呼吸困難に陥り、起立不能となり、数時間以内に死亡する。時に経過が数日間に長びくケースもある。回復する動物は稀で、慢性型は報告されていない。 |

肺漿膜下の点状出血 |

心筋の点状出血 |
|
4. 病 変
病畜における最も顕著な変化は浮腫、広範囲にわたる出血、および鬱血である。多くの場合、浮腫による腫れが頭部、頸部、胸部に観察される。腫脹部を切開すると、透明もしくは麦わら色をした水様性の液体が現れる。浮腫は筋肉組織にも現れ、感染動物の全身に見られる漿膜下の点状出血は本病に極めて特異的な病変である。血液色をした液体がしばしば心膜嚢や胸腔、腹腔に見られる。点状出血は特に咽頭部と頸部のリンパ節で顕著である。胃腸炎は時々見られるものの、肺炎型パスツレラ症とは異なり、本病において通常、肺炎は広範には起こらない。 |
5. 診 断
特徴的な疫学的発生状況や臨床症状から本病を認識することができる。特に重要なのは、過去における流行の有無とワクチンの接種状況である。散発例では臨床診断がより困難である。季節、急性の転帰、群内における高率の発症、および発熱や浮腫性の腫脹が典型的なHSの発生を裏付ける。検死における典型的な病変でも本病を確認することができる。典型的な流行であれば臨床的に本病と診断することは難しくないが(常在地であれば特に)、急性のサルモネラ症、炭疽、肺炎型パスツレラ症、や牛疫等との類症鑑別は必要である。
推定診断は典型的な症状を呈する病畜の血液もしくは主要臓器から Pasteurella multosida を分離することによって行う。その後の血清型別で、B:2もしくはE:2と同定されれば確定診断となる。他の血清型も牛や水牛において種々の感染を引き起こすが、それは典型的なHSではない。間接血球凝集反応や凝集試験、カウンター免疫電気泳動、沈降反応などによって診断を行っている機関もある。
検査材料に腐敗が進んでいる場合、無関係な細菌が増殖して原因菌を分離できない可能性がある。その場合は血液や組織乳剤等、少量の材料をマウスもしくはウサギに皮下注射することにより、純粋に近いパスツレラ菌の回収を容易にすることができる。
血清学的な検査は診断としての価値がない。しかしながら間接血球凝集反応などは動物の免疫状態を確認する手段として有効である。 |
6. 治療および予防
種々のサルファ剤、テトラサイクリン、ペニシリン、そしてクロラムフェニコールなどの抗生剤は感染の初期に接種すれば有効である。しかしながら本病は急性の経過を取り、かつ往々にして動物へのアクセスが容易でないことから、抗生物質による治療はしばしば実用的ではない。またいくつかの Pasteurella multosida 株について複数の抗生剤に耐性が確認されたという報告があるが、血清型にまでは調べられていない。
予防の主要な手段はワクチン接種である。最も有効なのはオイル・アジュバント・ワクチンであり、1回の接種で約9−12ヶ月間効果が持続するが(他のタイプは約半年)、注射器への吸入が困難であったり、時に有害な組織反応を引き起こすことから、さほど広く普及していない。 |
"The Merck Veterinary Manual" を翻訳 |