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1. 地理並びに自然環境
    ラオスはインドシナ半島に位置する内陸国で、面積236,800平方キロ、日本の本州とほぼ等しい。中国、カンボジア、ベトナム、ミャンマー、タイと国境を接しており、国境線の総延長は5,080キロに及ぶ。
    国土は南北に 950 km、東西に 100〜450 km の幅を持っている。ラオス全土の約 80 %は山岳地帯であり、残り 20 %はメコン河及びその支流に沿った平地である。標高が最も低いところはメコン河の 70 m、最も高いところが Phou Bia という山の 2,817 m で、1,000 m 以上の山を 18 座持つ。ラオスにはメコン河及びその支流など多くの河川が流れており、総延長が 100 km を越える河川は8本ある。水資源は豊富であり、輸出の中で大きな比重を占める電力は豊富な水資源の賜である。
    気候は熱帯モンスーンに属し、雨期は4月中旬から 10 月中旬まで、乾期は 10 月中旬から4月中旬まである。年間降雨量はほとんど雨期に集中している。しかし、北部の 1,300 mm から南部高地の 3,700 mm まで地域によって差があるばかりでなく、年によって降雨パターンの変動も大きく、しばしば旱魃、洪水をもたらしている。
2. 社会経済状況
    1975 年の内戦終結に伴い、6世紀余りにわたった王制を廃してラオス人民民主共和国が成立した。当初は親ベトナム、親ソ路線をとっていたが、1986 年に「新思考」政策を唱えて以来、全方位外交を行っている。同時に経済改革も進め、市場原理導入等の経済開放化政策(新経済メカニズム)を推進している。1991 年には憲法を採択し、1992 年以降は国民議会選挙行われるなど、民主化も進んでいる。近年はタイ、中国など近隣諸国との関係の強化、西側諸国との対外関係拡大にも努力しており、1997 年には ASEAN に正式加盟した。人口は 2002 年現在、推定 5,532 千人となっており、人口増加率は約 2.5 %である。
    経済的には、内陸国という不利な地理的条件や過去の長期にわたる内線の影響によって、未だに後開発途上国(LLDC)の域にとどまっており、2000 年の一人あたり GDP は 273 ドルである。主要産業は農林水産業で、1999 年の統計では国内総生産(GDP)の 53 %を農林水産業が占めている。うち、最も比重が重いのはコメで、農林水産部門の 38.5 %を占めており、次いで畜産が 34 %で、GDP の 18 %に達する。また農林水産業は労働力の 77 %を吸収している。
    ラオス政府は 2020 年までに最貧国からの脱出を意図し、一人あたり GDP 885 ドルを目標に、様々な長期計画を策定している。
3. 農業及び畜産の概況
    ラオスにおける農地の状況は国土の8%に満たない。耕地に至っては4%もない。一方、森林面積は 1963 年には国土面積の 63 %が森林であったのに対して、10 年後には 54 %、1981 年には 47 %に減少したとされる。その後の 20 年間で国土の8%に相当する森林面積が失われたとされるから、現在では国土の 35 %前後が森林であると見られる。
    1998 年から 2002 年までの家畜頭数の推移は下記の表の通りである。このうち、水牛、牛はほとんどが在来種であり、水牛雌の成熟体重 300〜350 kg、牛の成雌体重 200 kg 程度とされる。鶏、豚では改良種が導入されてきており、未だ比率は少ないものの徐々に頭数を増やしていくものと見られる。
1998 年〜2002 年の推定家畜頭数(単位:1000 頭)
区 分 1998 年 1999 年 2000 年 2001 年 2002 年
水 牛 1,093 1,008 1,028 1,051 1,069
1,127 1,000 1,100 1,217 1,286
1,464 1,320 1,425 1,426 1,526
羊・ヤギ 122 112 121 124 126
家 禽 12,111 12,353 13,094 14,063 17,748
4. 家畜衛生の現状と対策
    子牛の死亡率が 25 %、子豚の死亡率は 40 %と言われているほか、EU プロジェクトからの聞き取りでは水牛の子牛は寄生虫の被害が大きく、死亡率は 30〜40 %に達していると言われている。栄養不足など飼養管理上の問題から病気に対する抵抗力が落ちていることも考えられるが、このような状況からラオスの家畜生産における最も重要な課題は衛生対策であるといえる。治療、疾病診断、伝染病予防など必要な体制は一応あるものの、ワクチンや診断のためのコールドチェーンは整備されていない。衛生対策に対する認識が低い上、農村部にはワクチン等の獣医療サービスも十分には届いていないと見られる。
    ワクチン接種率は、農業センサスによれば牛が 35 %、水牛が 48 %とかなり普及している一方、豚は8%と非常に低くなっている。ビエンチャンではこの割合が牛で 56 %、水牛が 80 %、豚が 34 %と高い接種率となっており、その一方では農村部、特に山岳丘陵地帯ではかなり低い。
    またラオスは国境線を5カ国と接しているため、家畜の密輸入に伴って口蹄疫の侵入に度々見舞われており、主要幹線沿いに拡大するケースが報告されている。近年では 1998 年にカンボジアからサバナケット県へ侵入し南部で被害が、1999 年にはベトナムからサバナケット県へ侵入し中央部で被害が出ている。
    ラオスにおける重要な疾病としては、口蹄疫、出血性敗血症(HS)、豚コレラ、ニューカッスル病、家禽コレラ、アヒルペスト、狂犬病、デルマトフィルス症、胞虫症、ヒナ白痢、トキソプラズマ症、牛回虫症、肝蛭症などがある。
    このような現状から、政府の畜産振興は第一に衛生対策に主眼がおかれている。また、EU の「家畜サービス及び普及活動強化プロジェクト」(2004 年度に終了)では目的として畜産振興による農村の生活向上を挙げており、具体的な対策として獣医療サービスに対する支援を中心に行ってきた。
    畜水産局は、県及び郡の畜水産事務所を通して家畜衛生サービスを提供している。各村には研修を受けた村落獣医(Village Veterinary Worker: VVW)が配置され、ワクチン接種、治療、投薬等を行っている。EU プロジェクトでは VVW の訓練を行い、これまでに全国で 6,000 人の VVW が配置されている。
    しかしこのような取り組みをしてきたものの家畜衛生サービスは必ずしも十分に機能しておらず、先に記した通り医薬品・病理サンプル輸送のためのコールドチェーンも十分に整備されていない。また、VVW の移動手段も十分に確保されていない。加えて予防接種における注射針の使い回し、個体確認の不徹底など、獣医療についての基本的な認識が必ずしも浸透していないものとみられる。