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1. 地理並びに自然環境
    
東南アジアの西端に位置し、タイ、ラオス、中国、インド、そしてバングラデシュと国境を接する。人口は日本の約4割だが、国土の大きさは約1.8倍と広大である。
    ミャンマーの国土は西に顔を向けた鳥に例えられることがよくある。くちばしの部分がラカイン州都シットウェー、足がエーヤワディデルタ、そして尻尾がタニンダーリ管区である。
    国土の北端には最高峰カカボラジ(5881m)がそびえる。中央には平原が縦に走りその左右には山々が連なる。この平原は古くからビルマ族が多く住む地域であり上記の上ビルマとほぼ重なる。中央平原の西端、つまりラカイン州の東の州境にはアラカン(ラカイン)山脈が連なる。この山脈はインドのアッサム地方のあたりからミャンマーとインドの国境に連なり、チン州を貫き、ラカイン州へとつながっている。アラカン山脈とその西のベンガル湾に面する海岸線との間には細長い平野が広がり、米の産地となっている。ここはインド洋で猛威を振るうサイクロンによる被害を受けることも多い。中央平原の東側はシャン州でほぼ全土が中国から続く高原となっている。
    アラカン山脈とシャン高原に挟まれた細長い中央平原を流れる大河がエーヤワディ(イラワジ)である。エーヤワディ川はカチン州の州都ミッチーナの北で中国とインドから流れる二つの川が合流して形成される。全長2100km。河口付近では約300kmの幅に広がりベンガル湾へと流れ込む。また東部には中国の雲南省を水源とするタンルウィン(サルウィン)川が流れており、ミャンマー第3の都市モウラミャイン南でモッタマ湾へと注ぐ。

下図の州(ピンク色)
1.カチン州、2.カヤー州
3.カイン(カレン)州
4.シャン州、5.チン州
6.モン州、7.ラカイン州

    ミャンマーは国土の大部分が熱帯に属しモンスーンの影響を強く受ける。季節は暑期(3月〜5月)、雨期(6月〜10月)、乾期(11月〜2月)に分かれる。暑期はもっとも暑くヤンゴンでは40度を超える日も珍しくない。雨はほとんど降らない。雨期になると気温が下がり過ごしやすくはなるが、年間降雨量(ヤンゴンで約3000mm)のほとんどがこの季節に集中するためほぼ毎日雨が降っている。乾期は空気が乾燥して心地よい風が吹き、気温も低いため年間を通じてもっとも過ごしやすい時期である。朝晩は冷え込みヤンゴンでも15度を下回る日がある。
    降雨パターンはほぼ全土で共通している。ただし中央平原(上ビルマ)では降水量が極端に少なくドライゾーン(半乾燥地帯)と呼ばれている。ここは雨期でも雨量は少なく、乾期や暑期にはまったく降水がない(年間降水量500-700mm程度)。一説によるとバガン王朝時代のパゴダ建設ラッシュで大量のレンガが必要だったため、その燃料となる木々を乱伐して気候が変わってしまったという。一方、気温は標高により大きく影響を受けるので旅行者は注意が必要である。カチン州、チン州、シャン州など山間部の乾期には気温がかなり下がる。例えばチン州の州都ハッカ(標高1863m)では氷点下になることもある。

上図の管区(黄色)
1.エーヤワディ管区
2.ザガイン管区
3.タニンダーリ管区
4.バゴー管区
5.マグウェ管区
6.マンダレー管区
7.ヤンゴン管区

2. 内 政
(1)88年、全国的な民主化要求デモにより26年間続いた社会主義政権が崩壊したが、国軍がデモを鎮圧するとともに国家法秩序回復評議会(SLORC)を組織し政権を掌握した(97年、SLORC は国家平和開発評議会(SPDC)に改組)。90年には総選挙が実施され、アウン・サン・スー・チー女史率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝。政府は民政移管のためには堅固な憲法が必要であるとして今日まで政権移譲を行っていない。
(2)政府は、89年から95年まで、スー・チー女史に対し国家防御法違反により自宅軟禁措置を課した。95年の自宅軟禁解除後、同女史と政府の対立が高まっていたが、2000年10月より、政府とスー・チー女史との間で直接対話が開始され、右対話開始後、2002年5月には、スー・チー女史に対する行動制限措置を解除するとともに、政府は、拘束していた政治犯を2003年5月上旬までに約550名釈放した。しかし、2003年5月にスー・チー女史が地方遊説の途次で当局に拘束された。同年9月には、スー・チー女史は手術のため入院し、退院後には自宅へ移送され、以来、自宅軟禁下におかれている。
(3)2003年8月25日、キン・ニュンSPDC第一書記は首相に就任し、就任演説の際、7段階からなる民主化のためのロードマップを発表。また、本年1月、ミャンマー政府は同国最大の少数民族武装勢力であるカレン民族同盟(KNU)と和平交渉を行い、同月23日のプレスリリースで、同政府がKNUとの間で紛争の終結等に関し、相互理解(mutual understanding)に達した旨発表。
(4)2004年5月17日、国民会議が約8年ぶりに再開され、17の少数民族武装勢力は全て出席したが、NLDは欠席。(SPDCは国民会議再開に先立ち、NLD一部幹部の自宅軟禁解除、同党本部の再開、スー・チー女史と同党幹部の会合許可等の措置を実施。)これまでに、連邦政府と州・地方政府等との間の権限区分が説明された後、各代表グループにおける討議及び全体会合が開催された。7月9日、国民会議は休会に入り、次回は2005年2月に再開予定。
(5)同年9月、ウィン・アウン外相等を含む一部の閣僚の交代が行われ、ニャン・ウイン新外務大臣が就任。
(6)同年10月19日、キン・ニュン首相の辞任、後任としてソー・ウインSPDC第一書記の首相就任、テイン・セインSPDC第二書記の同第一書記就任が発表された。
(7)同年11月以降、政府は3回にわたり、政治犯を含む合計約2万人の囚人の釈放を決定した旨発表。

3. 社会経済状況
    1962年以来農業を除く主要産業の国有化等社会主義経済政策を推進してきた。しかし閉鎖的経済政策等により外貨準備の枯渇、生産の停滞、対外債務の累積等経済困難が増大し、1987年12月には国連より後発開発途上国(LLDC)の認定を受けるに至った。88年9月に国軍が全権を掌握後、現政権は社会主義政策を放棄する旨発表すると共に、外資法の制定等経済開放政策を推進。92年から95年まで経済は高い成長率で伸びていたが、最近は非現実的な為替レートや硬直的な経済構造等が発展の障害となり、外貨不足が顕著となってきている。
    特に、2003年2月には、民間銀行利用者の預金取付騒ぎが発生し、民間銀行や一般企業が深刻な資金不足に見舞われているほか、為替市場にも影響が出ている。さらに、2003年5月のスー・チー女史拘束を受けて、米国が対ミャンマー制裁法を新たに制定したことが国内産業への打撃となり、失業者増加、外貨不足の深刻化を招いている。
    また2004年10月には、EUがミャンマーの民主化状況に進展が見られないとして、ミャンマー国営企業への借款の禁止等を含む制裁措置の強化を決定した。

4. 畜産の概況
    ミャンマーはGDPの52%を農業が占める農業国であり、畜水産業は7%、そのうち6割を畜産が占めている。
    家畜の飼養は小規模の農家によるものがほとんどで、牛・水牛は稲作などの耕種作物の役畜としての利用が行われているほか、小規模な庭先養豚、養鶏が中心となっている。
    牛及び水牛は95%が役畜であり、牛肉を目的とした肉用牛飼養はほとんど行われていない。酪農はマンダレーを中心とした中央部及びヤンゴンなどに見られ、主として練乳生産が目的となっている。養豚では都市近郊に大規模な養豚経営も見られるが、生産の大半は小規模農家によるものとなっている。改良種(交雑種)がかなり普及しており、全体の40%を占める。養鶏も生産の大半が在来鶏の庭先飼養による一方、外国資本も併せてブロイラー、レイヤーによる商業養鶏が発展し始めた。
    家畜の飼養頭羽数は下表の通りで、順調に増加が続いている。牛のうち乳用牛は43万頭飼育されている(2001/2002)。国民1人あたりの年間の畜産物は供給量は食肉が10.2 kgで、うち半分が家禽肉、残りが牛肉、豚肉で同量程度。卵は46.8個、牛乳が14.9 kgとなっている。
家畜飼養頭羽数(単位:100万頭・羽)
家 畜 1997/1998 1998/1999 1999/2000 2000/2001 2001/2002
10.3 10.5 10.8 11.0 11.2
水 牛 2.3 2.3 2.4 2.4 2.5
緬山羊 1.6 1.7 1.7 1.7 1.8
3.6 3.6 3.8 3.9 4.1
33.4 37.7 41.1 43.5 48.3
アヒル 5.6 5.9 6.2 6.4 6.8
    畜産に関する行政組織は畜水産省の下に家畜改良獣医局(LBVD)、及び畜産公社(LFME)が置かれ、LBVDは、1. 畜産開発及び動物衛生に関する普及事業、2. 検疫等の証明業務、3. 家畜遺伝資源の保存、畜産開発、調査研究、及び研修を担当している。またLFMEは国営企業として、1. 肉用牛、役牛も含めた飼養管理技術の実証展示、2. 乳用牛、豚、鶏、アヒルの優良種畜の開発・農家への供給、3. 飼料、飼料添加物、動物薬の供給を行うほか、4. 生産された畜産物の消費者への供給を行っている。LBVDが一般農家を対象とし、在来鶏の改良等も目指しているのに対し、LFMEは改良種のりようなどによりやや先進的な農家が対象となる。なお、畜産振興のためミャンマー畜産連盟が1998年に設立され、組織化が進んでいる。LBVDなどの指導により運営されており、行政の行う畜産振興の補完的役割も担っている。
    ミャンマー政府の畜産政策は、1. 畜産分野の総合的な開発の推進、2. 国内消費のための食肉生産の増加と余剰分の近隣国への輸出、3. 遺伝資源の保存と適切な活用、及び畜産農家地域の社会経済的状況の改善である。具体的な目標として、今後10年間の畜産分野の開発目標を掲げており、1. 牛・水牛については年率1.2%、羊・山羊・豚については3%、家禽類については5%の増加、2. 畜産物消費量を食肉22 kg、牛乳25 kg、卵146個に増加、3. 家畜の生体輸出の増加、4. ワクチン生産センター、疾病診断センター、品質管理センター、飼料センター、食肉加工工場、乳製品加工工場の増加をあげている。
5. 家畜衛生の現状と課題
    ミャンマーでは全人口の約65%が農業従事者で、国家経済は稲作、畑作を中心とした農業生産によって支えられている。しかし、田畑の起耕、農産物の運搬はすべて牛によってなされており、農村地帯の道路には牛のために砂を敷いた測道が用意されている。そのため口蹄疫の発生は農業生産全般に被害を与えるとして、最重要家畜疾病に位置づけられている。ミャンマー政府はその他に主な家畜疾病として、豚コレラ、ニューカッスル病、伝染性ファブリキュウス嚢病等16疾病をあげている。疾病の性格から口蹄疫は数年おきに大きな発生を繰り返しているが、出血性敗血症や豚コレラなどの発生は少ない。近年問題とされていた鶏疾病(ニューカッスル病、伝染性ファブリキュウス嚢病等)も、最近はワクチンの使用によって発生が減っている。経営規模が小さいこと、またこれら疾病のワクチンの品質が高いことなどが原因と思われる。