4. 畜産の課題
1) 家畜生産における低生産性
過去10年間における家畜生産の伸び率は、食肉、牛乳、および鶏卵でそれぞれ5.7%、2.6%、6.8%と比較的高い数値を示している。しかしながら、生産量の増加は一農家当たりの飼育頭羽数の増加に負うところが多く、生産性の向上からきた部分は少ない。更なる飼育頭羽数の増加は、十分量の飼料確保に対する困難、環境問題への配慮等もあり、将来とも続けるのは難しくなってきている。従って、今後は家畜頭羽数の増加ではなく、家畜単位、農家単位の生産物の増加(生産性の向上)を図っていく必要がある。
2) 生産コストの上昇
粗放的な庭先養豚、養鶏、牛、水牛飼育では、生産コストに対する配慮はほとんど必要がなかった。これは生産コストの大部分を占める餌代がほとんど無料だったからである。しかし、外部からの購入飼料を全く与えないこのような飼い方が、本当に生産コストが最も低い飼い方なのかどうか、一概には判断できない。
また、商業的な中・大規模経営(畜産の専業化)が進むと、生産コストを下げるための最大の要因は餌代であり、バランスの取れた良質の飼料をいかに安定して、かつ低価格で確保するかが健全な経営の基礎となる。ベトナムの場合、飼料会社の発展は遅れており、国内で得られる飼料原料の開拓も進んでいない。配合飼料に対する品質基準、規定・法令の設置およびそれらの執行をはかる検査体制も、現状では無いに等しい。
3) 家畜育種・繁殖分野での遅れ
1980年代後半から、すべての政府関連試験研究所に対して適応された独立採算政策の結果、すぐに収入の増加が見込めない育種・繁殖といった分野への投資はほとんど止まってしまった。このため家畜の育種改良事業の停滞が目立っている。特に豚、乳牛、鶏において、外来種と在来種の交配による、小規模農民用に最も適した交雑種の創出は早急に開始する必要がある。
4) 家畜衛生サービスの未整理、低投資
地方家畜衛生サービス体制の不備により、農家レベルでの正確な衛生状態が中央レベルにまで上がってこない。地域レベルで働く家畜衛生担当者の待遇が十分でないため、本来の職務としての衛生サービス業務に専念できないスタッフが多い。また、一般小規模農民に対しての普及サービスが原則として有料となった結果、政府の行う家畜疾病コントロール対策(病気発生の届け出、強制ワクチネーション、家畜移動制限、等)に対して、家畜農民からの積極的な協力が期待できなくなった。
5) 市場・流通システムの不備
市場・流通システムは将来の畜産発展のためには早急に整備されなければならない分野である。特に生体市場、屠畜場、食肉加工場、集乳所、貯乳冷却所、生乳加工場といった一連の施設が不足している。また、定期的(毎週一度)な地域ごとの生体家畜、畜産物価格情報の公開が必要である。
6) 普及サービス網の不備(特に小規模農民に対して)
社会主義時代に存在した政府による無料の普及サービスは、今ではほとんど姿を消した。受益者負担の原則による普及サービスの民営化が押し進められているが、その進歩は遅い。現状では、小規模家畜飼育農家は普及サービスの恩恵に浴することはほとんど無い。
7) 関連試験研究の不備
独立採算性の原則が続いており、試験研究所の運営は厳しい状態から抜けきれないでいる。研究費、運営費不足から、研究者、特に20ー30才代の将来を嘱望される若手が、研究者としての将来を断念するケースが目立っている。
|