ザンビア訪問記、その 2 2008 年 3 月 17 日 ~ 21 日 |
3 月 18 日 (火)
翌朝、ルサカを後にして南西部のチョマへと向かった。距離にして 300 km 弱、ビクトリア・フォールズのあるリビングストンはチョマから更に 200 km 弱走ったジンバブエとの国境にある。運転は蔵田専門家にお任せで、我々はシートに座って景色を眺めているだけというお気楽な移動であった。筆者のカバンは未だ届かず、ポロシャツだけはルサカで購入したものの、着替える下着もズボンもない身軽で不潔な旅となった。
当日の朝は曇りがちの天気だったが、一面隙間がないほどの雲に覆われているわけではなく、ガラスの上に綿をちぎって並べ、それを頭上に持ち上げたような空をしていた。ちぎり取られたような雲が底面を同じ高さに揃えて漂っているのだ。ウガンダではあまり見ない空の風景に、異国の空気を感じた。実際、その翌日も翌々日も、午前中には同じような雲が浮かんでいた。まわりの景色はといえば、起伏の少ない平原にブッシュがちりばめられているような感じだ。人も車も少ない。日本の二倍の国土に 1,000 万人程度しか住んでいないのだからあたりまえか。ウガンダではどこを見ても開墾された田畑や牛や山羊が目に飛び込んでくる。道路ではマタツが狂ったようにスピードを競い、タンクローリーが事故を起こしてそこここに転がっている。しかしザンビアでは穴ぼこさえないきれいな道に車の姿はなく、まわりを見渡してもたまにメイズの畑を目にする程度であった。家畜さえほとんど姿を見せない。音楽を聴きながら車の運転をするのが好きな筆者にとっては、こんな国で国内出張をしたいと切に思う。
|
|
モンゼ県獣医事務所 |
|
|
モンゼ獣医事務所の看板 |
|
|
ライブストック・オフィサーに話を伺う。 |
|
|
モンゼ県獣医事務所のラボ |
|
2 時間半程度でモンゼという街に着いた。ルサカから約 200 km のところ、チョマまであと残りがちょうど 100 km だ。蔵田専門家がここで県獣医事務所への訪問をアレンジして下さった。事務所ではライブストック・オフィサーに対応していただいた。
県に配属されている獣医師は所長ひとりのみで、当事務所はラボ技術者と管理スタッフが、現場は獣医師補が担当しており、スタッフは全部で 27 名。県は 20 のキャンプに分かれており、そのうち 15 ヶ所に獣医補が配属されているという。またこの地域はザンビアの東海岸熱コリドールの中にあり (そういう言葉を筆者は初めて聞いた)、その対策にワクチン (マラウイ製) を使っているとのこと。現在は県内で口蹄疫が発生中で、その対応に追われているそうだ。洪水になると、県内の野生動物がゲームパークからより標高の高い地域に移動するため、それに伴って病気も移動すると考えられる。現在は雨季の終わりにあたり、未舗装道路の状態はひどいものであった。県内には大規模なコマーシャル・ファームが 32 ヶ所あるらしい。
検査室も見せていただいた。専任のラボ・テクニシャンがひとりいる。顕微鏡や遠心器など、基本的な機材があり、糞便検査と血液検査を行っている。ウガンダと同じような状況だ。水道と電気はあるがしばしば止まるという点も似ている。検査記録はきちんと残しているらしい (この点はウガンダの負けか?)。しかし少し気になったのは、本当に頻繁に検査をしているのだろうかという点だ。室内があまりにも整頓されており、薬品類やガラス器具、塗抹標本などが一切目に触れるところにない。筆者の経験からすると、あまり動いていないのではないかという印象を受けた。こんなことを書いて間違っていたら本当に申し訳ないのだが、、、 |
|
チョマにある南部州獣医事務所。 |
|
|
キャンプの獣医師補に説明を受ける。写真左から Dr. ムアジ、獣医師補、Dr. ソコ、Dr. ムガビ、蔵田専門家。 |
|
モンゼで昼食を食べ、更にチョマを目指して車を走らせた。チョマの獣医事務所は南部州 (Southern Province と呼んでいるが、日本で言えば県というよりはむしろ関東地方のような県がいくつか集まった地域に相当する) の事務所と同じ敷地内にある。DVO の Dr. ソコに応対していただいた。近くのキャンプへ案内して頂けることになっており、時間がないので早速出かけようということになった。自称ドライバー蔵田専門家に運転をお任せして出かけたが、舗装道路ではないため、このところの雨で状態はひどいことになっている。右に左に揺さぶられ車の底を擦りつつ、約 30 km の道のりを 1 時間以上かかってムバマラ・キャンプ (Mbamala Camp) に到着した。なかなか陽気で人の良さそうな獣医師補が配属されており、我々の到着を待っていてくれた。このキャンプで働き始めてから既に 7 年になるらしい。農家の人たちと非常に良好な関係を築いているように見受けられた。
まずキャンプの事務所で活動内容について説明して頂いた。このキャンプの管轄内には牛が 1,200 頭、山羊が 1,500 頭、鶏が 2 万羽いる。ウーマンズ・クラブやユース・クラブなどが家畜を使ったいくつかの小さなプロジェクトを走らせており、また貧困対策や孤児支援プロジェクトでは山羊の飼育などをしている。集乳所があり、乳牛を飼育している農家もある。獣医師補としての診療活動の傍ら、このようなプロジェクトをサポートしているという。普及活動にも力を入れており、小さなグループを対象にして (村では 50 人くらい) マイクロ・トレーニングを進めている。内容は鶏の飼養法、クラッシャーの作り方、疾病の予防とコントロール、ミルキング・パーラーについてなど様々で、グループや村からの要望によって内容を考えているそうだ。
疾病予防として使えるワクチンは、気腫疽、出血性敗血症 (約 30 円)、それに東海岸熱 (約 300 円) だそうだ。他には除角や去勢なども行っている。診断は基本的に臨床診断であり、農家は治療に係る薬品代とサービス料を支払う。ダニ駆除は牛体への散布 (spraying) もしくは滴下 (pouring) による。薬浴槽もキャンプ内に 5 ヶ所あるが、全て壊れているらしい。
このマイクロ・トレーニングという普及法はなかなか面白そうである。もちろん講師となる獣医師補の能力に因るところが大きいであろうが、それを強化するのが現在走っている JICA の家畜衛生・生産技術普及向上計画であり、獣医師補をトレーニングするというプロジェクトの活動が、草の根レベルまで浸透するシステムが出来上がっている様子がよく理解できた。まあ、だからこそこのプロジェクトを立ち上げたのであろう。診療やワクチネーションに関しては、ウガンダのサブカウンティーにおいても同じようなサービスを提供していると思うが (獣医師の数が多い分、この点に関してはウガンダの方が充実しているかもしれない)、農家レベルへの普及についてはザンビアの方がうまく機能しているようだ。 |
|
キャンプ内の Keabumbwe 村にある農家を訪れた。 |
|
|
農家のご主人 Mr. Rubila (左から二人目) に話を伺う。 |
|
|
牛に引かせるカート。2 頭引きだ。 |
|
|
ゴミひとつ落ちていない。空気も穏やかでやさしい。 |
|
次に近くの農家を見学させていただいた。Keabumbwe という村にあるルビラさん (Mr. Rubila) の家だ。23 頭の牛に他に、山羊と鶏も飼っている。奥さんも複数いるが、我々がお目にかかったのは 2 人のみであった。牛は全部雌であり、交配させたいときにはそこら辺をうろうろしている近所の雄とかけ合わせるのだそうだ。本当は持ち主に金を払って交配させなければいけないらしい。牛はサセックス種。東海岸熱コリドール内の牛がほぼ全滅した被害の後、政府のリストッキング・プログラムから受け取ったものだ。家の収入の 80 % は穀物収入であるが、家畜は財産であり、病気になれば少し検査に金を払ってでもその原因をつきとめ、予防に役立てたいと話されていた。家の敷地内はきれいに掃除が行き届いていた。きっと家畜の世話もきちんとされているのだろうと思う。
牛に引かせるカートが屋根付きの小屋の中にあった。ザンビアのこのあたりでは牛耕が盛んらしく、車の窓からも荷物を運んでいる牛車を何度か見かけた。ルビラさんの家にも牛をつなぐヨックや、牛耕用の器具がいくつも置いてあった。牛を訓練するノウハウは代々受け継がれているそうだ。
夕方、色の鮮やかになる時間帯を、再び悪路に揺られてチョマへと戻った。州事務所のラボを見せていただいたが、故障している機材もあり、あまり使われているようには見えなかった。その昔、隊員が配属されていたそうであるから、その頃は動いていたのだろう。ラボは生き物であり、しばらく使っていないとすぐに寂れてしまう。このあたりにまだまだザンビアで改善するべきポイントがありそうだ。(その 3 に続く) |
ザンビア訪問記、その 1 | その 2 | その 3 |
2008 年 3 月 長期専門家 柏崎 佳人 記 |