ザンビア訪問記、その 3 2008 年 3 月 17 日 ~ 21 日

3 月 19 日 (水)
      朝、7 時前に目が覚めた。停電で電気が使えず、ホテルの近くを散歩することにした。街は閑散としているが、職場へ向かうらしき人が三々五々歩いている。横道に入ると高校があり、既に学生達が登校しておしゃべりに花を咲かせている。ウガンダでは地方の街を歩いているとすれ違いざまに挨拶をする人が多いが、ここではあまりそういうこともない。
      ホテルへ戻るとまだ停電中。朝食くらいは食べられるのかと思いレストランへ行ってみたが、話し声はするものの誰の姿も見えない。そのうちに Dr. ムガビもやって来たので、レセプションで朝食を食べたいと申し出たところ、コックとおぼしき女性が現れた。「バグダット・カフェ」という映画に出てくるドイツ人女性を彷彿とさせる体型をしている (つまりガッチリとした太り方をしているということ)。それでまたドイツ兵のようにテキパキと無駄なく状況を説明する。「電気がないため炭で料理をしなければならず、時間がかかる」ということであった。確か昨晩は電気があったにもかかわらず、料理が出てくるまでに 1 時間以上もかかっていたが、炭でやるとなると 2 時間くらいはかかるということなのか。この女性、無駄なく話をする割には、やることは無駄なことばかりである。「逆だと良かったのに」と Dr. ムガビに耳打ちした。と、その時、まことに良いタイミングで電気がついた。我々はオーダーを済ませ、幸いなことにあまり待たされることもなく、おいしい朝食にありつくことができた。

チョマの大通り

牛肉の生産会社ザンビーフ。モザンビークではモザンビーフとなるのだろうか。

チョマの朝、カリッとした空気が心地よい。

チョマの高校では子供達が 7 時過ぎにもう登校してきた。

      蔵田専門家に再び運転を任せ、逆のコースをたどってルサカへと戻った。途中、モンゼ市内を過ぎたところで口蹄疫防除のための検問があった。道に消毒液を浸した藁がひかれ、車はその上を通らなくてはならない。また同乗者は手の消毒を義務づけられている。手を洗うよりは靴を消毒した方がいいのではないかと思いながらも、規定通り手を洗って再び車上の人となった。

口蹄疫を持ち込まぬよう、手を洗わせられている蔵田専門家

道路上に消毒液を染みこませた藁がひいてある。

ザンビアの雲、天使が降りてきそうだ。

車の窓に広がるザンビアの風景

      ルサカ市内に入ってからとある道を左にそれて獣医研究所 (Central Veterinary Research Institute) へと向かった。蔵田専門家もまだ行ったことがないそうで、少し不安な様子である。道はどんどんひどい状況になってきて、ついには舗装道路が消えた (舗装と言っても穴ぼこだらけでひどい状態であったが)。泥道を真っ直ぐ真っ直ぐ走っていくものの、それらしき建物が見えてこない。あたりはとても国立の研究機関があるような雰囲気ではない。途中であきらめて引き返し、警察官駐在所のようなところで聞くと、やはり方向は間違っていないという。ということはもっと先まで進まなければいけなかったのだ。仕方なく再び同じ泥道を突き進んでいった。と、ようやくそれらしき看板が左手に見つかり、ひと安心。そこを左に折れてしばらく行くと、忽然と研究所がその全容を現した。レンガ造りのなかなか立派な外見をしている。平屋造りなので横に長い。何故、こんな辺鄙なところに建てたのか知らないが、そういう場所だけあって土地はいくらでもあるのだろう。

こんな道を 20 キロ近く車で走ってようやく到着。

「牛が通るよ」と警告する標識。なかなか色っぽい牛だ。

診断センターは忽然と姿を現した。

ポリオ根絶 !!

      研究所では Chief Veterinary Research Officer である Dr. カブリリカ (Kablilika) に説明していただいた。国の機関としてのラボは中央にここ 1 ヶ所、地域ラボが 5 ヶ所、そしてその下に県獣医事務所のラボがある。地域ラボがあるのは南部 (Mazabuka)、西部 (Mongu)、クッパーベルト (中央部の北、Ndora)、北部 (Isoka)、東部 (Chipata) である。人員は 5 ヶ所あわせて獣医が 7 名しかおらず、他にはラボ・テクニシャンが配置されている。地域によって仕事内容を特化しており、一般的には家畜疾病診断と家畜衛生分野の研究を主業務としているが、人員・予算・機材の不足から活動は停滞しているという。
      中央のラボである獣医研究所に話を戻そう。シニア研究員と獣医師があわせて 21 名おり、6 つのセクション (細菌、寄生虫、生化学・毒性学、病理、ウイルス、動物用ワクチン生産) に配属されている。年間の検査数は 3~5 万献体程度であるとのことであった。ほとんどは農業省からのサンプルとのことなので、この数字にはアクティブ・サベイランスなどの調査検体も含まれており、実際に持ち込みで検査を依頼される数は 300-400 検体程度であろうと思われた (後で実際の持ち込み検体についていた番号を見て、蔵田専門家が推測)。ここはルサカ中心部から遠すぎるため街中に事務所を持っており、検査を依頼する場合はそこにサンプルをデポジットできるようになっている。
      基本的に県からのサンプルはこの研究所に持ち込まれ、ウイルス分離や鳥インフルエンザ診断などここでは処理できない検体についてザンビア大学獣医学部へ送っている。狂犬病は直接蛍光抗体法で診断し、24 時間以内に結果を返している。試薬は南アのリファレンス・ラボから購入。疾病調査にはモバイル・ラボを使い、主に南部で牛肺疫を調べているという。フランスにあるリファレンス・ラボから補体結合反応用の試薬を買うと聞き、これならばウガンダでもできそうだという気になった。他にサルモネラに対する証書も発行している。現在、品質管理などラボのマネジメントにも関心を払っており、長期的に ISO 取得 (番号を聞きそびれた) も視野に入れている。

ワクチン製造についての説明を聞く。

気腫疽ワクチンの製造中

診断に係るデータベースの説明をする病理のスタッフ

寄生虫病検査室の面々

      動物用ワクチンとしては、炭疽 (ターゲット: 20 万ドース)、気腫疽 (同: 30 万ドース)、ブルセラ、出血性敗血症 (同: 30 万ドース)、狂犬病 (同: 10 万ドース、犬用) の 5 種類を製造している。実際に作っている施設を見せていただいたが、かなりシンプルなものであり、製造後、実際に力価の検定などをしているのかどうかわからなかった (聞くのを忘れてしまった)。蔵田専門家によると、ザンビアの協力隊員がここで製造されたワクチンを飼い犬に打っていたが、その犬が狂犬病を発症してその隊員を咬み、大騒ぎになったそうだ。というわけで、効力についてはきちんと調べていないのではないかと思われる。
      現在、走っているプロジェクトはイーファットによる SLIP (Small Livestock Investment Project) と、FAO/WB による鳥インフルエンザに係るトレーニングのふたつ。前者は、牛肺疫と東海岸熱の調査および疾病コントロール・システムの改善を目指しているという。
      研究所としての問題点はいずこも同じで多い。移動手段、電気、水道、機材、施設の維持管理、予算不足、などなど、途上国のラボと呼ばれる施設ではユニバーサルな問題をここでも抱えている。特に老朽化した建物の状態は深刻であり、現在、FAO/WB による鳥インフルエンザ・プロジェクトが 30 % を、そして残り 70 % を国がカバーする形で進めているという (工事の音が鳴り響いていた)。予算は活動ベースであるが、家畜疾病診断用の必要経費は十分とまではいかないが、省から支出されていると聞いた。
      Dr. カブリリカとの話の後、研究所内部を案内していただいた。建物の老朽化はやはり目立つが、機材類はそれなりに揃っている。何よりもスタッフが多いので、実際にラボが動いているという印象を受けた。いつもガランとしていて検査室のドアに鍵がかかりっぱなしの我がエンテベのラボとは随分と違う。ウイルスの部屋にクリーンベンチはあったが、細胞培養はやっていないという。狂犬病、鳥インフルエンザ、口蹄疫の血清診断が主業務であると聞いた。細菌検査室では気腫疽菌、炭疽菌、ブルセラ菌、出血性敗血症菌、サルモネラ菌の分離・同定は可能。マイコプラズマについても取り組み中。血清診断としては補体結合反応、ELISA、ツベルクリン試験を行っている。

病理の部屋が診断用検体の窓口となっている。検体を受け取るとこのスリップに記入をし、検体にこのスリップをつけて関係するセクションに送られる。

持ち込まれた検体のバックグラウンド情報を書き込む用紙。この内容がコンピューターのデータベースにインプットされる。そのデータベースのソフトは、ザンビアで独自に開発したものだそうだが、なかなかスマートでうまくできていた。

3 月 20 日 (木)
      朝、JICA ザンビア事務所にて宮坂次長とお会いし、今回の視察についての報告および家畜衛生分野の協力について、意見交換を行った。その後で再び獣医学部を訪問し、学部長の Dr. ムウィーネに、ザンビアの鳥インフルエンザに対する取り組みについて、プレゼンテーションをして頂いた。タイトルは Avian Influenza Risk Assessment and Preparedness in Zambia である。内容は以下の通り。
      アフリカではエジプト、カメールーン、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、スーダンで高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されており、そのうちエジプトでは約 40 人が感染し、その半数が死亡している。ザンビアでは国家的な計画として 1. 家畜衛生、2. 公衆衛生、3. コミュニケーション戦略、に重点を置いているが、ラボの設備、フィールドにおける資材 (サンプル・コレクションとその輸送用)、トレーニング (人材養成)、パブリック・アウェアネスの点で問題が残っている。
      現在、獣医研究所において血清診断を行っており、その陽性サンプルが大学に送られてくる。大学では診断、研究、トレーニング、パブリック・アウェアネスの活動を進めている。特に診断では、ウイルス検出法として鶏卵接種、培養細胞接種が実施可能。それに加え、RT-PCR による H5 型の同定も行える。血清診断としては HI (血液凝集阻止試験) が利用できる。
      また、北海道大学による人獣共通感染症センターについても簡単に紹介していただいた。HUCZCZ: Hokkaido University Centre for Zoonoses Control in Zambia という長い名前のセンターがこの学部内に作られ、2 人の日本人スタッフが常駐している。目指すのは「南アフリカ地域における人獣共通感染症のコントロールのための研究と教育を促進する」ことだそうだ。具体的にはエボラ出血熱、トリパノゾーマ症、マイコプラズマ症をターゲットにしている。
      プレゼンの後はざっくばらんな意見交換会となった。特にザンビア側スタッフの発言で耳に残っているのは、「人を教える技術が非常に重要である。」ということ。トレーニングをする人材 (TOT: Trainer of Training) を育てるということだ。まさに彼らのプロジェクト「家畜衛生・生産技術普及向上計画」で中心に据えられているコンセプトである。

獣医学部の中庭、白鷺のような鳥が集まっていた。

学部長から鳥インフルエンザに対するザンビアの取り組みについて説明を受ける。

3 月 21 日 (金) Good Friday
      最終日、公式の予定は何もなく、午前中は各人好きなことをして過ごした。11 時にホステルを出発して空港へ向かった。我々の面倒を一手に引き受けてくれた蔵田専門家にとっては、さぞかし長い一週間であったことだろう。残っていたクワチャ紙幣を使おうと空港内の免税店を見て回ったが、どれもこれも値段が高く、結局スナック菓子しか買えなかった。飛行機は約 30 分遅れで出発。これでナイロビでのトランジットは 1 時間程度しかなくなったが、荷物は預けなかったのでなくなることもない。エンテベには予定通り到着した。今日はイースター 4 連休の初日ということもあり、休日だというのにカンパラ市内は買い物客でごった返していた。市内の渋滞はひどいもので中心部を通ることができず、ぐるっと迂回しての帰宅となった。
      多田専門員や蔵田専門家を初め、関係者の方々のご厚意・ご尽力により、非常に実り多い視察旅行となった。この経験を今後のプロジェクト活動に生かせるよう、頑張りたいと思う。

大学のメイン・ストリート Chancellor's Drive

イースターの朝、Chancellor's Drive を行き交う人々

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2008 年 3 月 長期専門家 柏崎 佳人 記