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サイアム通信 第二号(プロジェクト専門家から友人への近況報告)

ご無沙汰していて申し訳ありません。ちょうど2ヶ月間、寒い日本の冬を満喫し、3月半ばより再びタイに来ております。これから来年(2006年)のクリスマス・イヴまでタイ暮らしになります。

タイには「暑い」「より暑い」「すごく暑い」という3つの季節があるんだと、垢抜けないくせにウケを狙おうとするタイ人は嬉々として言いますが、まあそれもまんざら嘘ではありません。4月から5月にかけてが最も暑い季節であり、それが過ぎると雨が降り始めて雨期に入り、暑さも少し和らぎます。今年は5月中旬あたりから雨が降り始め、若干凌ぎやすくなってきました。

アパートは6年前まで5年間住んでいたところに決めました。不動産屋を通さずに飛び込みで行ってみたところ、マネージャーをはじめほとんどのアパートのスタッフが替わっておらず、自分のことを覚えていてくれました。人の入れ替わりの激しいタイでは珍しいことです。今回入居したユニットは、階こそ違うものの前回と同じ区画にあるので窓から見える景色も同じ、間取りも同じ、調度品もほとんど同じと、6年を経て昔慣れ親しんだままの生活を再び始めることができました。

それでもアパートの周辺はそれなりに変化していました。アパートの近くにナナ・プラザという一大歓楽街があり、特に欧米人の遊び場となっているのですが、そこからあふれ出すようにショットバーの様な店が道沿いに増え、夕方になると妖しいタイ人のお姉ちゃん達が店の前に座って客を呼んでいます。すぐ近くにできた「ロリータ」という名前の店では、ホステス嬢達がタータンチェックのミニスカートに白いブラウスという出で立ちで店の前でたむろしています。「ロリータ」という店のコンセプトに合わせるためにそんな格好をしているのでしょうが、いかんせん顔を見ると、みんな「ロリータ」と呼ぶには無理のある30歳前後のお姉さま達です。それでもエキゾチックな顔立ち(良く言えば)が好きな白人のおじさん達には好かれるのかもしれません。最も店の中に客がいるのをこれまで一度も目にしたことはありませんが。

そんな通りを歩いて毎夕方タバコ工場へと出かけます。もちろんタバコを買うためではなく、走るために行くのです。出発前の健康診断で派遣許容ギリギリのC判定を頂き、太りすぎだという太鼓判を押されました。三大成人病のどれかをいつ発症してもおかしくない状態らしく、個人的に栄養コンサルタントまで受けさせられました。というわけで一大決心をしてデジタル体重・体脂肪計を買い、蒸し風呂のような気候の中を走り始めたというわけです。

アパートからタバコ工場までは歩いて約10分、その時間帯にはバーのお姉ちゃん達が店の前に座り、仕事前の腹ごしらえをしています。出入り口の隅には線香が焚かれ、道行く人にタイの香りを感じさせます。そんな女の子達相手に服やアクセサリーを売る人たちも道をうろうろ。通り沿いに並ぶ屋台には工事現場で働くお兄ちゃん達が群れ、夜の仕事に備えて夕飯を買っていきます。そんな光景を横目で見ながら歩き抜け、工場の守衛さんと挨拶を交わしておもむろに走り始めます。ゆっくり走って一周が約25分。日本手ぬぐいの鉢巻きを締め、音楽を聴きながら2周走り終え、その間にすっかり暗くなった道をアパートへ向かいます。走り初めてかれこれ2ヶ月、84キロあった体重もようやく70キロ台に突入しました。

さて仕事の方はと申しますれば、書類作りやら何やらで面倒なことこの上なく、ラボやフィールドでの仕事を中心に考えていれば良かった昔が懐かしく思い出されます。タイ、マレイシアを中心に据えた周辺4カ国に対する協力なので、何をするにしても最低4倍の仕事量にふくれあがります。加えてタイが主体的に関わっていてくれているならばともかく、こちらがほとんどすべてのお膳立てをして「専門家として周辺国へ出かけて頂く」という状態であるため、タイにも周辺国にも気を使って馬鹿馬鹿しく思うこともしばしば。それでいて東京の本部は「タイが積極的に関わるよう努力しろ」などと他人事のような指示を出してきます。そんなきれい事を言ったところで、タイがきちんと責任を果たさなかった場合に何かしらのペナルティーを課されているわけではなく、こちらの描いたブループリント通りに動いてくれるはずがないのです。結局の所、その昔培った人間関係を武器に、何とか活動を進めている所です。まあアジアは義理や人情が通じるので、これでもまだやりやすいのかもしれません。

だいたいこれまでの3年間、プロジェクトの活動自体が当初作製した計画通りに進められてきておらず、行き当たりバッタリというやり方で物事の投入を図ってきたように見受けられます。プロジェクト活動の大筋を左右する考え方そのものが、周辺4カ国の利益を第一とするものではなく、タイやマレイシアが恥をかかない、損をしないという事の方により重点が置かれてきたようです。つまりは投入実績(タイ人の専門家を何人派遣したか、というようなこと)をいかに格好良く見せるかということばかりに気を取られ、投入した事によって産まれる成果の内容にはほとんど気を配ってこなかったということです。これは正に国連関係の機関、例えば食糧農業機関(FAO)とか国際獣疫局(OIE)といったところのやり方に似ています。やたらと派手なセミナーやらワークショップなどを開いたり、無料配布する資料などをわんさか作ったりする割には、地に足の着いた技術移転を地道に行うということはしません。OIEは東南アジアでかれこれ10年も口蹄疫という病気の撲滅プログラムを行っていながら、ひとつの国どころか、たったひとつの地域でさえこの病気が無くなったところはないというのが現実です。きめの細かい技術移転こそがJICAと他のドナーとの大きな違いだと僕は思っているので、できるだけ労を惜しまずに活動していかなくてはなりません。

今月末にタイ人3人を連れてラオスへ出張するのですが、そのたった1回の出張のために、どれだけの書類が必要か、、、。まずラオス側の局長宛にタイ人専門家を送る旨のレターを書き、了解を求めます。しかしすぐに返事が来るわけではなく、メールやファックスを何度か入れて催促しなければなりません。その間にタイ側にもタイ人の専門家を送る事に関して畜産局長から許可を取り、また僕自身が行くことについても文書で了承を得ます。タイ人の専門家はコンケンという地方都市の診断センターで働いているため、そこの所長さんにも了解を得るためのレターを送らなければなりません。次ぎにJICA事務所へ僕自身の出張届けを出し、相手国事務所(ラオス事務所)の担当者宛には便宜供与依頼を送ります。さらに「ラオスのビザ発行のための口上書」を領事館で作製してもらうための依頼状をJICA事務所でもらい、それを持って領事館へ出向きビザ発給のための口上書を作製してもらいます。次ぎにそれを携えてラオス大使館へ出向き、2日かかってようやくビザが発給されます。まだ終わりではありません。今回の出張ではラオスで走っている森林プロジェクトと共同で野外調査を行うため、そのプロジェクトの専門家とも連絡を取り合って日程を詰めます。そしてその野外調査のための準備をバンコクで整え、加えてタイ人専門家がラオスで技術移転をするために必要な機材・消耗品の買い出しにも行かなければなりません。更には3人のタイ人専門家がいるコンケンはラオスから近いこともあって車で行くことにしたため、そのための許可書やタイの免許証を取らなければなりません。手続きためには健康診断書が必要とのことで病院へ行き(中にマクドナルドがあってビックリ)、在留証明が必要なので領事館へも再び行きました。そして書類がすべて整ったところで陸運局へ。朝10時前に行って事務所へ戻ったのは午後3時でした。とまあ、どこかへ出張に出かける度にこんな面倒な手続きをしており、これだけでうんざりしてしまいます。

今回も3月に赴任して以来、今年度の活動計画を話し合うために4カ国を一巡してきました。行く度に親しみも湧いてくるので、お互い言いたいことが少しずつ言い合えるようになってきていると感じます。ミャンマーでは白いゾウを見に連れて行ってもらいました。診断センターのスタッフのひとりがゾウの健康管理の責任者らしく、僕は一般の人が入れないゾウの運動場まで入れてもらい、直接サトウキビをあげてきました。観覧席には人が沢山おり、何か自分が見られているようで恥ずかしかったのですが。白いゾウは全部で3頭、みんなバングラデシュとの国境近くで捕獲されたそうです。白というよりはピンク色なのですが、目を見ると黒目が無くてほとんど真っ白です。アルビノではなく白い色素があるとのことで、直射日光に当たっても大丈夫だということでした。聖なる動物とされているため写真撮影はできず、その姿をお見せできないのが残念です。そういえばうちのアパートの近くにもしょっちゅうゾウが出没します。もちろん観光客に餌のサトウキビを買わせて食べさせるためなのですが、歩道をゾウが歩いていたりすると本当に邪魔です。

さて、当プロジェクトのホームページがほぼ完成しました(英語はまだまだなのですが)。プロジェクトに関する既述は報告書から抜粋したお堅い文章なので面白くもないでしょうが、プロジェクトの輪郭だけはうっすらとわかるかもしれません。また自分がこれまで書いた文章も大幅に加筆してアップロードしてあります(メニューの"四方山話"からリンクされています)。更に、カンボジアで活躍中の協力隊員からの報告もアップしました。アンコールの皮膚病のゾウの写真は結構気持ち悪いです。(20055月 プロジェクト長期専門家 柏崎 佳人 記)


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