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鳥インフルエンザの現場から、その2
ベトナム
2004 年初頭における高病原性鳥インフルエンザ (H5N1) の初発生以来、ベトナムでは鶏肉の需要が増加するテト正月(ベトナムの旧正月)前後に大発生を繰り返した。
2004 年の発生では、北部江河デルタ流域および南部メコンデルタ流域においてほぼ同時期に発生が始まり、瞬く間にベトナム全土に広まった。感染のため死亡した、もしくは淘汰された家禽の数は4千3百万羽にのぼり、全家禽数の16.8%にあたる。2005 年初の発生ではその数は1.5百万羽に減ったものの、アヒルの飼育が盛んな地域の小規模農家が主として打撃を受け、大規模な養鶏場は被害を免れた。
この2回にわたる大発生を受けてベトナム政府はワクチン接種の方針を決め、まず 2005 9 月から 12 月にかけて約8.4千万羽の鶏と4千万羽のアヒルにワクチンの接種を実施した。2006 年のワクチンキャンペーンは 3 月から始められ、64 県中、33 県でワクチンの接種を義務づけられた (その他の地域では高~中等度危険地域においてワクチン接種が薦められた)。これまでに約9.5千万羽の鶏と3.4千万羽のアヒルがワクチンを接種された。このワクチン接種が功を奏し、カオ・バン県における 2005 12 月の発生以来、高病原性鳥インフルエンザの発生は報告されていない。
アヒルは高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染しても臨床症状を示さないため、自然界でキャリアの役割を果たしていると考えられる。ベトナムにおける鳥インフルエンザ流行の第二波でも、アヒルの飼養頭数が多い地域での発生が多く確認された。
獣医診断センターにおいては、ワクチン接種後のモニタリングを実施している。ワクチン接種をした家禽類から採血をし、抗体価を調べている。ウイルスセクションのスタッフは検査で忙しいため、採材はもっぱら細菌セクションのスタッフが担当 。またキャリアとなる可能性の高いアヒルについては、総排泄腔のスワブを採取し、ウイルスの分離を試みている。気温が高く蒸し暑いこの時期、マスクやゴム手袋や防護服を着ての作業は不快なこときわまりない。上、および左の写真は採材に出かけたスタッフに頼んで撮ってきてもらった。今年に入ってから発生がないので、そろそろ終わりにするらしい。

ミャンマー
        他のインドシナ半島諸国と一線を画し、ミャンマーでは今年に入るまで鳥インフルエンザの発生が認められなかった。それでも当プロジェクトでは2人の日本人短期専門家を派遣したり、ミャンマーの診断センタースタッフを研修に招聘、緊急機材供与を実施するなどの援助を通して、鳥インフルエンザの防除体制を整えてきた。
        そんな中、今年2月に入ってから中部サガイン管区において家禽の大量死が発生し (下の表を参照) 鳥インフルエンザの疑いがにわかに浮上した。検査の結果、最初の2地区 (Shwebo East および Kanbalu Zigon) での発生は鳥インフルエンザであるという確証が得られなかったものの、3番目の Khin Oo と、4番目の Pyigyidagun における発生は鳥インフルエンザによるものと診断され、確定診断のために検査材料を送付したタイ国立家畜衛生研究所においても高病原性鳥インフルエンザ (H5N1) であることが確認された。それゆえミャンマー政府は3月8日、正式に高病原性鳥インフルエンザの発生を公に発表した。より詳しいデータと写真はここをクリック。
2006 2 月から 3 月にかけてサガインおよびマンダレー管区で発生した家禽の大量死
Township Period Poultry
farms
Number of
fowls
Number of
death
% of
death
Shwebo East
(Sagain Division)
1st week of Feb 06 26 18,100 1,500 8
Kanbalu Zigon
(Sagain Division)
3rd week of Feb 06 3 12,000 1,200 10
Khin Oo
(Sagain Division)
1st week of Mar 06 1 105 5 4
Pyigyidagun
(Mandalay Division)
2nd week of Mar 06 1 784 112 14
Total 31 30,989 2,817 9
2006 3 16 日付 The New Light of Myanmar 紙から転載
採材を行う Dr. スダラット、右端
今回の発生にあたり、当プロジェクトはタイ人専門家の派遣要請を受け、国立家畜衛生研究所ウイルス研究室スタッフの Dr. スダラットの派遣を決めた。プロジェクトからは検査に用いる少額機材を、またタイ側からは検査用の試薬・消耗品類を供与。それを用いて Dr. スダラットが発生の中心地にあるマンダレーの地域診断センターに赴任し、鳥インフルエンザの診断体制を確立させた。同時期に FAO がオーストラリア人の専門家を赴任させたが、1ヶ月の滞在に夫人を同行し、観光はすれどもラボで働くことはなかったという。それゆえ Dr. スダラットの活躍が余計に際立つこととなった。
感染して死亡した鶏。顔面の出血および浮腫性腫脹が見られる。 神経症状を呈して歩行困難な幼鶏。
ミャンマー中央部、マンダレー周辺における鳥インフルエンザの発生はその後、約1ヶ月間続いたが、ミャンマー政府および家畜衛生関係スタッフの尽力により、何とかコントロールに成功して他の地域への浸潤を防ぐことができた。左の写真は、今年4月末に OIE が開催した鳥インフルエンザにかかる国際会議に出席するために来日した、ミャンマーからの代表3人である。一時帰国中であった筆者が浅草とお台場の観光に連れ出した。
(20067月 プロジェクト長期専門家 柏崎 佳人 記)