第一号第二号第三号第四号第五号第六号

ビクトリア通信 第一号

心地よい風の入り込むアパートの部屋に座ってコンピューターと向き合っていると、とても赤道直下のアフリカにいるとは思えません。窓のすぐ下にはゴルフコースが見え、その向こうには木々が生い茂っており、草木の緑と空の青さが輝いています。標高1,000メートルを超えるこの町では一年中エアコンなしで暮らせるらしく、アパートには扇風機しかないのですが、暑がりの自分でもさほど苦になることはありません。

とはいってもこの国に到着したときには結構暑くて、「当てが外れた」というのが第一印象でした。朝の8時前にロンドンからの飛行機が着陸したのですが、降り立った空港はモワッとした空気に包まれていて日射しもかなり強く、すぐにジャケットを脱いで長袖シャツの袖をたくし上げました。それでも暑い空気が体にまとわりついてくるバンコクよりは余程凌ぎやすいことに変わりなく、後で聞いた話では2月3月が一番暑い時期だとのこと。実際4月に入ってからはぐっと涼しくなってきました。

空港は改築工事の真っ最中で、入国審査と通関は安っぽいプレハブ小屋の中、前途多難な先行きを暗示するようで「あーあ」という印象でした。が、通関時の荷物検査でスーツケースと箱のひとつをあけられたとき、「うわあ、こんなにきれいに整理された荷物を見たのは初めてだ。」と検査官に自分のパッキングをほめられ、「日本人は几帳面なんだ」と、衣類を包んだ風呂敷の歴史的な講釈を少し披露し、気分晴れ晴れと入国を果たしました。

ウガンダには14年前にも来たことがあります。イギリスの大学に在学中、最後のフィールド調査をウガンダ東部のトロロという町にある研究所のスタッフと行いました。当時は2ヶ月間だけの滞在でしたが、初めてアフリカへ足を踏み入れた機会であり、まだ若くて物事を新鮮に受け入れられる時期でもあったので、ウガンダの印象は当時に書いた文章を読んで下さった方が面白いかもしれません (昔に書いた文章なのでお恥ずかしい限りですが)。以下のサイトにアップしてあります。
http://yk8.sakura.ne.jp/ADC-UG/Pages/Pages-J/Essay/Tororo01.html

首都のカンパラは7つの連なる丘の上に広がる町なので、ほとんど平坦なところがありません。道はどこもアップダウンが多く、しかも状態が悪かったり渋滞がひどかったり。坂道発進の苦手な人はドキドキしっぱなしでとても運転などできないでしょう。だいたいイギリスの植民地だった国なので、ラウンドアバウトが多いのが難です。ラウンドアバウトというのはサークル状になっている交差点で、右側から入ってくる車が優先。そしてグルグル回りながら出たい方向へ出て行くというあのヨーロッパでよく見かけるやつです。このラウンドアバウト、車の量が適度であれば非常に快適ですが(歩行者にとっては最悪なのですが)、ある一定量を超えてしまうと二進も三進もいかなくなってしまいます。現在のカンパラがこの状態にあり、朝夕はどこのラウンドアバウトでも車が詰まってグリコのキャラメル状態。政府は信号機のついた交差点に変えようと努力していますが、渋滞の解消までにはまだまだ時間がかかりそうです。

写真左:ゴルフ場を我が物顔で闊歩するコウノトリ。プレイしていてもこんなのが近くに来てじっと見つめていられたら、気が散ってスコアーもガタガタになることだろう。写真右:街の中心部の木の上で羽を休めるコウノトリ。木の大きさに比べて鳥が大きすぎるこのアンバランスさを見ていると、何か落ち着かない気分になる。街の景観としてしっくりこない。


カンパラに来て最初に気になったのは鳥です。朝などアパートの近くを散歩していると色々な鳥を見かけます。カラスは胸の部分が白くてパンダみたいですし、また特に目立つのがコウノトリです。日本では天皇皇后両陛下が毎年放鳥されたりして保護に努め、最近では40何年ぶりかで抱卵しているつがいが確認されたなどと Asahi.com のホームページで読みましたが、ここでは町中だというのに至るところで見かけます。実際、体がかなり大きい鳥ですので、街路樹などでボーッとしているコウノトリなどは違和感があるどころか、見る者に恐怖感さえ抱かせます。先日、歩道を歩いていたら、後ろからコウノトリが歩いてきて隣に並びました。どうも羽を怪我して飛べない鳥のようなのですが、何もよりによって数少ない通行人の隣をわざわざ歩く必要はないのではないか、失礼ではないかとムッとした次第です。しかも汚いし。僕は目が合うのを怖れて横目でちらちら見ていたのですが、何かされるのではないかと気が気ではありませんでした。

昨日の晩はベランダでコウモリが這いずりまわっていました。そのうちおとなしくなるかな、と抛っておいたのですが、ベランダのドア下の隙間から部屋の中へ入ってきてしまい、床をバタバタ這いずり始めました。仕方なく雑巾で取り押さえて外に放すと、さっきまで這いずり回っていた無様な姿からは想像もできないほど器用にすっと闇の中へ飛んでいきました。子どもの頃に「コウモリは地面に落とすと飛べなくなる」と聞いた話は本当だと、この年になってしかもウガンダで確認できるとは思ってもいませんでした。

さて職場ですが、空港の隣、エンテベという昔の首都郊外にあります。現在の首都であるカンパラからは40 キロほど、車で約1時間かかります。ビクトリア湖を望む高台にあり、診断センター内の自分の部屋から湖が見渡せます。センターは農業畜産水産省の一機関であり、その本省もエンテベ市内にあります。省といってもほとんどの建物が平屋か二階建て、野生のベルベット・モンキーが遊びに来る様なところです。通勤中、ドライバーはラジオで BBC ワールドのニュースを聞いています。考えてみれば、これまでドライバーと英語で会話ができる国などなかったのですから、その意味では働きやすい国なのかもしれません。

まだ「本格的に仕事を始めた」と言えるにはほど遠い状態ですが、先週スタッフを集めて初めてのミーティングを開きました。インフォーマルな、ざっくばらんに話し合える会議にしようということで所長の了解を得ていたのですが、いざ始まってみると「議長は誰にするか」という議題で5分経過、その後は「お祈り」です。この様子を見ていて、突然、高校の始業式・終業式を思い出してしまいました。うちの高校はカトリック系、校長のカナダ人ロゼール・フールが式の最初にいつも舌っ足らずの日本語で「じぇんちじぇんのうのかみよ (全知全能の神よ)」で始まるお祈りをしていたのです。

お祈りの最後にみんなが十字を切ったので、自分は末広がりに八の字でも切ろうかという考えがふと頭をよぎりましたが、変な誤解を与えるとまずいのでやめておきました。その後は自己紹介や所長の近況報告が延々と続き、結局、最初の 30 分はプロジェクトとは関係のない話で終わってしまいました。無駄のない会議というのはどこの国でもありえないのかもしれません。しかしこの形式張った進行法はどこからきたのでしょうか。イギリスでもこんな堅苦しいミーティングはしていませんでしたが、、、

お題は「JICA プロジェクトについて」だったので、僕がひと通り説明をして、その後意見を出し合いました。これから2ヶ月程度の期間でみんなが納得できるようなアクション・プランを作るということで了解を得ましたが、彼らの間からどこまでアイディアが出てくるかはわかりません。イギリスから頭を抑えつけられてきたのか、与えられたものをこなすことに慣れているのか、詳細な活動計画ができていないということにとまどいを感じているような印象を受けました。「自分たちで作ってそれを着実にこなしていく方がいいだろう」と力説したものの、これからどうなりますことやら。前途多難なことに変わりはありません。

写真左:診断センターはビクトリア湖に面しているため景色が良い。この写真は自分が机に座っている部屋の窓から撮ったもので、この草地の右隣に空港がある。湖からは心地良い風が一日中吹き込んでくる。写真右:ウガンダのビール「ナイル」。この他に「クラブ」というブランドもあり、ともに 500 ml 入りのボトルで売られている。ちなみにこのレストランはウガンダで唯一の日本料理店「Kyoto」。

余談ですが、先日カンパラで大規模な反政府のデモがありました。会社のサトウキビ畑を広げるためにカンパラ郊外の森を切り開きたいという申請をインド系の砂糖工場が出し、ウガンダ政府がそれに対して許可を出したため、民衆が怒ってデモに発展したそうです。インド系の人が2人殺されました。「ザワワ、ザワワ」と歌っている場合ではありません。この国も経済はインド人が握っているようです。自分たちで何とかしなければいけないと感じているのでしょうが、現実的にインド人を追い出してしまうと国の経済はガタガタになってしまうというジレンマがあります。あの恐怖政治を行ったイディ・アミン政権の時がそうでした。

ではまた気が向いたら第二号をしたためます。(2007 年 4 月 15 日 プロジェクト長期専門家 柏崎 佳人 記)

第一号第二号第三号第四号第五号第六号

滞在記・旅行記トップへ戻る。