気腫疽 (black-leg, black-quarter)
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発 生
気腫疽菌 (Clostridium chauvoei) の感染に起因する筋炎型のクロストリジウム感染症で、主に牛、めん羊および山羊など反芻獣の急性熱性伝染病である。 |
原 因
気腫疽菌は両端鈍円のグラム陽性桿菌で、酸素の存在するところでは全く増殖することはできない、いわゆる偏性嫌気性菌である。糸状に長連鎖することはなく、通常は単在または短連鎖を示し、動物の体内でも体外でも芽胞を形成するが、莢膜は有さない。芽胞は土壌中に長く生存し、多くの消毒薬や煮沸などに強い抵抗性を示す。 |
症 状
潜伏期は 5 日前後で、突然 40〜42度の発熱を示し、食欲の減退や反芻の停止および、頸、肩、臀部の震せんがみられる。そして、死亡の 2〜3 日前に主として肩、胸、大腿部などの筋肉の厚い部分に不整形の気腫性腫瘤ができる。初めは限局性で疼痛があるが、急速に広がり、腫脹の中央部は冷感を帯び、無痛性に変わる腫脹部を指圧すると本病に特有の捻髪音が、また打診によって鼓脹音が聞かれる。腫瘤に近接のリンパ節も腫大し、疼痛によって跛行を呈する。甚急性では歩様蹌踉、呼吸困難、前進の痙攣などを示して急死し、体表の腫脹や浮腫は認められないことが多い。また、まれには皮下織に病変を認めず、小腸に限局性の出血病変を示す腸炎型の発生も見られる。 |
診 断
捻髪音や鼓脹音を発する体表の腫瘤、出血を中心とする筋肉や実質臓器の病変がみられるものでは診断も比較的容易であるが、通常臨床症状や剖検所見から他のクロストリジウム感染症によるものと区別することは困難である。悪性水腫、炭疽、壊死性腸炎、非定型間質性肺炎、急性鼓脹症、並びに硝酸塩中毒などとの類症鑑別が必要である。最終的には家畜保健衛生所などの検査機関に依頼して原因菌を確認する必要がある。すなわち、気腫部や実質臓器についてスタンプ標本を作製し、直接ギムザ染色や蛍光抗体法により気腫疽菌を証明したり、ガス噴射法やガスパック法などの嫌気性培養により気腫疽菌を分離しなければならない。また、死後時間の経過した検体では、マウスやモルモット接種試験を行う必要がある。 |
対 策
常在地域では定期的にワクチンを使用し、また群内に発生が見られた時には同居牛に対して緊急的にワクチンや抗生物質を投与すると効果的である。
本病が発生したときには直ちに最寄りの家畜保健衛生所に届けることが必要であり、発生畜舎やその周辺を徹底的に消毒して気腫疽菌による汚染を防止しなければならない。 |
本文は養賢堂発行「新版家畜衛生ハンドブック」より転載。 |