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ニューカッスル病 (Newcastle disease: ND)
      ニューカッスル病(ND)は伝播力の極めて強いウイルスによる急性感染病で、養鶏産業にとって最も恐れられている疾病の一つである。
      
ND の病勢は感染ウイルスによって様々で、急性死をみるもの、呼吸器症状、下痢、沈鬱、更に神経症状、産卵の停止、また、気付かれない程度の呼吸器症状から、全く無症状で、抗体の変化によって感染がわかるという例もある。
      
ND は、国内全域のみならず世界的に発生があり、輸入愛玩鳥より端を発した大流行の例もある。法定家畜伝染病に指定されている。
1. 発 生
      パラミクソウイルス科(paramyxoviridae)の ND ウイルスによる。ND ウイルスの特徴の一つとして赤血球凝集性があり、この症状を応用して ND ウイルスの定量に赤血球凝集(HA)反応、抗体測定のための赤血球凝集抑制(HI)反応が広く用いられている。
2. 伝 播
      水平伝播による。
ND ウイルスは感染すると侵入部位の呼吸器粘膜で増殖し、次いで内臓諸器官に分布、増殖し、脳にも到達する。感染後 48 時間には体内のウイルスは著しく増殖する。これに伴って鶏は症状を発現するが、この間ウイルスの排出が続く。従って周囲の器材、資料、また管理者、動物、昆虫、塵埃などが汚染し感染源となる。また汚染鶏の移動はもちろん、スズメ、ホロホロチョウ、水鳥、オームなども感染して保毒状態となるので、野鳥、渡り鳥も伝播に一役買うことがある。
3. 症 状
      ND ウイルスは病原性から次のように分けられている。

i) 強毒内蔵型 (急性型、アジア型)
      群内の急死がまず目立ち、次いで1〜3日の経過で全ての鶏が発病し、死亡する。この間、食欲廃絶、沈鬱、嗜眠,立毛を示し、白色便を混じえた緑色下痢便を排泄し、肉冠の鬱血、呼吸器症状がみられ、病鶏は集合してうずくまり、起立不能、痙攣を起こして死亡する。産卵中の鶏は産卵を停止するが、甚急性の場合、死の直前まで産卵する例があるという。経過が長びく例では神経症状 (脚、翼の麻痺、斜頸、チック <断続的痙攣>) を示す。死亡率はほとんど100%。

ii) 強毒神経型 (慢性型、アメリカ型)
      アジア型に類似するが、やや慢性の経過をとる。特徴ある症状は緑色下痢便、呼吸器症状、神経症状である。多くは2〜7日の経過で死亡するが、この期を耐過すれば回復する。産卵中の鶏は産卵を停止する。群としてみれば、産卵の急激な低下、停止となり、約1ヶ月続いて回復に向かう。この時、軟便、小型卵がみられる。老齢鶏では換羽に入って休産 (2〜3ヶ月) するという。この型のウイルスは病原性に多様性があり、若鶏など症状は重く死亡率も高い。若鶏 (1ヶ月齢前後) で 50〜80%、成鶏で5%前後の死亡率。

iii) 中等毒型 (Beaudette 型)
      病勢は軽く、特徴は呼吸器症状と急激な産卵の低下である。死亡率はひなで数%、ほかは死亡することはまれである。

iv) 弱毒型 (Hitchner 型)
      ひなでもほとんどが症状を示すことはない。この型に属するウイルス (B1株など)は生ウイルスワクチンに用いられている。剖検すると消化管の出血、潰瘍が特徴的所見としてみられる。好発部位は腺胃、十二指腸起始部、メッケル憩室の後方、盲腸扁桃などである。この所見は粘膜面のみでなく漿膜面にもみられることがある。外に気管の滲出物の増加、充血、出血、あるいは軟卵胞、血腫卵胞、破裂卵胞、また腹腔への破裂卵胞の流出などがみられるが、これらは他の感染症にもみられる所見である。

ニューカッスル病の発生で死亡した鶏。
神経症状(脚や翼の麻痺、頭や頸の痙攣、等)
気管粘膜の充血および浮腫
腺胃における出血及び潰瘍
腸粘膜における出血及び潰瘍
肥大した脾臓、退化・壊死による白斑が観察される
血腫卵胞
血管細胞性浸潤と大脳グリア細胞のわずかな増殖を伴う非化膿性脳炎 (HE染色)
4. 診 断
      発生状況、臨床所見、剖検所見による。特に剖検して消化管に出血、潰瘍がみられたなら
ND と確認できる。ただし ND ウイルスは病原性が多様であることに注意すべきで、上に上げた強毒内蔵型から弱毒型まで4つの型に明確に分けられるものではなく、多様な病原性を示すウイルスが存在する。
      一方、鶏はほとんどが
ND ワクチンの投与を受けているが、免疫状態は様々である。従って、病勢も多様な型でみられることがあることを考えておくべきである。

i) ウイルスの分離
      確定的な診断は病原ウイルスの分離及び同定による。
ND ウイルスは多くの培養細胞で培養が可能であるが、最も多く用いられるのは発育鶏卵である。感染鶏の気管、肺、あるいは腸管や腸内容の乳剤を発育鶏卵 (10〜11日齢) の尿膜腔内へ接種し、37度で培養する。ウイルスの病原性、あるいは量によるが、普通は3〜4日で胎子は死亡する。胎子の死亡がみられなかった場合 (例えば弱毒 B1 株は胎子を殺すことはほとんどない)、2〜3代継代する。
      培養後、尿膜腔液を採取して赤血球凝集 (
HA) テストを行い、赤血球凝集像を認めれば ND ウイルスとすることができる。ただし、トリインフルエンザウイルス、ND ウイルスと同じパラミクソウイルス科に属するユーカイパウイルスも赤血球凝集能力を示すので、このような時は抗 ND ウイルス血清を用いて赤血球凝集抑制 (HI) テストを行って同定する。
      また、鶏腎培養細胞 (
CK) に接種すると細胞変性効果 (CPE) を示す。ND ウイルスによる CPE は細胞質内に空胞を持つ癒合性巨細胞がみられる。この時、感染細胞に赤血球液を加えると赤血球吸着 (HAD) がみられる。また、気管粘膜の塗抹標本を作り、蛍光抗体法によって抗原検出がみられれば確認できる。
      分離したウイルスについて、
MLD/MDT (ウイルスの 10 倍段階希釈を行って発育鶏卵の尿膜腔内へ接種し、最小致死量の平均致死時間を算定する)、ICPI (1 日齢ひなの脳内へ接種し、死亡、発症、正常の数から病原性を算定する) 及び IVPI (6 週齢ひなの静脈内へ接種し、ICPI と同じように病原性を算出する) を行えば、病原性の程度がわかる。

ii) 血清反応
      
ND に耐過した鶏には著しい抗体の産出がみられる。HI 反応を行って抗体価が 1:640 あるいは 1:1280 以上あれば ND 感染があったとする。

5. 対 策
      ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがある。生ワクチン (
B1 株) は主に基礎免疫のために、不活化ワクチンや TCND (生ワクチン) は中雛期以降の免疫維持のために用いられる。ND 感染の危険度に応じてワクチン投与プログラムがある。ND ワクチンには、伝染性気管支炎 (IB) と NDIB (生及び不活化)、伝染性コリーザ (IC)・A (NDICA、不活化)、更に NDIBIC (不活化)、といった混合ワクチンもある。
6. 衛生管理
      ワクチンの効果は感染を防ぐことではないので、鶏の健康状態によっては発病することもある。
ND と限らず病原微生物の侵入を人が感知することはできないので、日頃の衛生管理、特に隔離飼養の徹底を図った管理が大切である。
養賢堂、新版家畜衛生ハンドブックより