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ブルセラ病 (brucellosis)

発 生
      ブルセラ病は世界各国に広く分布し、重要な人獣共通伝染病のひとつで、日本では家畜法定伝染病に指定されている。

原 因
      主に牛型ブルセラ菌 (Brucella abortus) の感染に起因し、牛の諸臓器、特に子宮、胎盤および精巣などに炎症と壊死を形成する。雌牛では流産、後産停滞、乳房炎を、雄牛では精巣炎を起こす。ブルセラ菌はグラム陰性の短桿菌で、鞭毛や芽胞を有せず、生物学的並びに血清学的性状の違いにより 6 菌種に分類されている。

妊娠後期に流産した胎子。 妊娠中期に流産した胎子。

発育したブルセラ菌に光をあてると、上写真のように空色に染まって見える (培地上の右側)。

症 状
      明らかな臨床所見が認められることは少なく、症状で診断することは極めて困難である。雌牛では流産と後産停滞がみられ、ときには子宮内膜炎、子宮蓄膿症および乳房炎がみられることもある。流産は主に妊娠の後期にみられ、7〜8 ヶ月の胎齢に起こることが多い。雄牛では精巣炎や精嚢炎がみられる。

流産した母牛の子宮から流出した悪露。
流産時の胎盤。顆粒状の黄白色の壊死巣が表面に観察される。
正常なモルモットの脾臓 (1) と、B. abortus を接種されたモルモットの脾臓 (2)。

肝臓のブルセラ結節。肉芽腫病変では、中心部にマクロファージが、そしてそれを取り囲むようにリンパ球が集積する。
リンパ節から分離されたブルセラ菌のコロニー。培養5日程度で、丸く透明で小さなコロニーが観察される。
Brucella abortus のグラム染色。最初の分離ではしばしば短い棒状の桿菌が観察される。

診 断
1. 血清学的診断
      市販の診断液を使って、急速凝集反応 (ローズベンガル・テスト)、試験管凝集反応および補体結合反応、ELISA などを実施する。まず急速凝集反応によるスクリーニング・テストを行い、その陽性牛については更に試験管凝集反応や補体結合反応、ELISA を実施し、これら確定診断で陽性の牛を殺処分することによって本病の清浄化を図っていく。
2. 細菌分離
      流産胎子の胃内容物、血清反応による淘汰牛の主要臓器並びにリンパ節について、ブルセラ菌の分離培養を行う。0.5〜1 %の血清を加えたブルセラ寒天培地に塗布し、37 度で 5〜7 日間、5〜10 %炭酸ガス分圧下で培養する。ブルセラ菌は帯青色透明の小円形集落を形成するので、生物学的性状と吸収抗血清との凝集反応により型別を行う。
3. 病理学的検査
      胎盤、子宮、乳房、リンパ節あるいは精巣における肉芽腫性病変の外、小葉性間質乳房炎または慢性カタル性乳管炎、化膿性子宮内膜炎、精巣炎なども伴うことがある。

対 策
      本病に対する効果的なワクチンや治療薬はない。日本では血清反応による陽性牛の摘発淘汰方式を確実に行い、本病の防圧がすすめられている。

本文は養賢堂発行「新版家畜衛生ハンドブック」より転載した。またここに掲載されている写真は、動物衛生研究所編纂「家畜疾病カラーアトラス」より転載した (空色に染まったブルセラ菌の写真を除く)。

補足ヒトのブルセラ病について (波状熱・マルタ熱とも呼ばれる)
      ヒトに感染すると発熱、発汗、頭痛、筋痛、背部痛、体力消耗、全身的な疼痛・悪寒というような症状を起こす。潜伏期間は通常 1〜3 週間。重症化すれば、脳炎、髄膜炎などの中枢神経の炎症や心内膜炎、骨髄炎を起こすこともある。一部泌尿生殖器の症状が顕著に出ることもある。
      感染は生乳などによる消化器感染 (経口感染) が多い。粘膜や皮膚からの感染 (経皮感染) もある。症状は菌の種類によって違う。日本ではブルセラは“家畜法定伝染病”に指定されており、検査が厳重に行われているため欧米に比べると発生率は少ない。