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牛肺疫 (contagious bovine pleuropneumonia: CBPP)
FAO Animal Health Manual No. 14「牛肺疫 (CBPP) 緊急対応準備計画策定の手引書」から
"第 2 章 牛肺疫 (CBPP) の特徴" を抜粋して掲載
阿部 香里 訳

牛肺疫とは、牛の急性、亜急性、もしくは慢性のマイコプラズマ感染症で、著しい生産性低下と死亡率の上昇を引き起こす。繊維素性肺炎、繊維素性胸膜炎、小葉間間質の浮腫が特徴である。

世界分布
      牛肺疫は、現在、主にアフリカの疾病であり、アフリカでは最も深刻な越境性動物疾病と考えられている。本病はサハラ以南アフリカのほとんどの国に常在しており、そのうち少なくとも 27 ヵ国は牛肺疫の存在を報告している。例外は南部アフリカの数ヵ国?ボツワナ、マラウイ、モザンビーク、南アフリカとジンバブエ、そして北部の国境付近以外のナミビア全土である。1990 年代は特にアフリカにおいて牛肺疫の感染が増加し、それまではかなり長期的にわたって本病の発生が認められなかった東部アフリカと南部アフリカの一部において再び深刻な牛肺疫の感染が広まった。これは 1995 年のボツワナ北部の感染でピークに達した。ボツワナは摘発淘汰によって疾病を撲滅し、1997 年 1 月には暫定的に撲滅されたと宣言した。
      牛肺疫は地中海沿岸のいくつかの国でも 1990 年代には存在していた (イタリア 1993年、スペイン 1994 年、ポルトガル 1999年)。
      この疾病はアジアの一部にもまだ存在するかもしれないが、未確認である。バングラデシュは公式に牛肺疫の存在を確認している唯一の国である。その他の大陸には存在しない。

病原体
      牛肺疫 (CBPP) の病原体は小コロニー株 (牛型) (MmmSCと略す ) の Mycoplasma mycoides subsp. mycoides である。これは反芻動物に対して大なり小なり病原性のある6種の近縁なマイコプラズマを含む「mycoides グループ」に属する。このグループの血清学的及び遺伝子的関連度は高い。MmmSC の血清型は1つだけである。 MmmSC は他のマイコプラズマ同様、細胞壁を欠き、多形性である。新しい培養においては枝上構造をとることが多いが時間が経った培養では小球菌状である。発育にはコレステロールを多量に含む特殊な (血清添加) 培養基を必要とする。本病原体は弱く、宿主の体外ではほとんど生存できない。乾燥及び消毒に対し感受性である。

感受性家畜 (Susceptible species)
      牛肺疫は主に牛の疾病である。Bos taurusBos indicus の両種は完全に感受性である。水牛は感受性がやや低い。牛肺疫はヤクとバイソンにも感染することが報告されている。ラクダ、野生のウシ科動物及びその他の反芻動物は抵抗性がある。本病の病原体は羊と山羊からも分離されているが、これらの動物が牛肺疫の伝播に何らかの役割を果たしているという証拠はない。

疾病感染
      この疾病は感染家畜と感受性家畜との直接の接触によってのみ、感染した煙霧質により空気感染する。約 200 m 範囲内の空気感染が可能と考えられている。放牧密度の高い牛群ほど急速に感染が広まる可能性が高い。微徴候で慢性的に感染している動物は新しい地域に疾病を広める重要な役を担う。 慢性牛肺疫保持家畜は一見健康であり、肺の中の繊維状莢膜にシーケストラム (複数形=シーケストラ) を形成する肺病変を持っている。そのような家畜はよく「肺保菌牛 (lungers)」と呼ばれている。病原体はそのような状態で何ヵ月も潜伏し、繊維状莢膜が壊れた時に病原体は気管支を通り肺から飛び出し感受性の家畜を感染発病させる。これは特に慢性的な牛肺疫キャリアーの動物が長距離の徒歩による移動や輸送等のストレスにさらされる際にしばしば起こる。マイコプラズマは宿主の体外で生存する能力は弱いので、(嘔吐物などによる) 間接感染はここでは重要ではない。

疾病パターン
      流行性牛肺疫はこの疾病がこれまでは無感染であった地域や国、もしくは群に感染した時におこる。このタイプの特徴は群の中での高い感染率、それも急性型感染家畜が多く、致死率も高い。群中、もしくは群間の感染率は、特に家畜が多く集まる水のみ場や家畜市などの機会、そして家畜群を市場へ連れていく途中や囲い込んだりする際に特に高い。
      突発発生の初期段階においては、感染密度は低く、感染の広がり方は遅いかもしれない。そのような状況の場合、感染がピークを迎えるまで数ヵ月かかることもありうる。この初期の段階は、早期認知と疾病検疫の面で特に危険な段階である。感染潜伏期間がまちまちで、しばしば潜伏期間が長いことや、疾病は一見健康そうに見える動物から感染が広まることから、疾病がいつどの時点で突発したのか感染経路を突き止めることは難しいことが多い。
      この状態で疾病が効果的に抑制されないかぎり、ゆくゆくは牛肺疫が蔓延化し、これが多くのアフリカ諸国の現状である。蔓延化した牛肺疫の感染は偶発的であり、多くの場合は軽症で慢性的な状況で致死率も低い。時々感染が大流行する場合もあるし、全体的にみれば、このような慢性化状態でもかなりの家畜生産の損失を招く。

写真 1: 群に見られる症状
写真の牛は呼吸が困難な状態に陥っている。首と頭を伸ばし、四肢を大きく広げている。しばしば肘は外に広がっている。肺膜の腫れが胸部の痛みを引き起こし、その結果、腹式呼吸をするようになる。全体的に衰弱している。

写真 2: 牛肺疫感染牛の典型的な鼻漏

呼吸困難と咳により、首と頭を伸ばしている状態の罹患牛。(Foreign Animal Diseases より転載)

臨床症状
      潜伏期間は一般的に 3 から 6 週間であるが、最長 6 ヵ月ほど長期にわたることもある。急性型の場合は 3 日から 10 日の発熱、食欲不振, 乳牛の場合は牛乳生産の低下、著しい沈うつ症状そして通常は腹部の呼吸の乱れなどがみられる。これらはすぐに乾いた咳に変わり、それが段々と激しくなり、典型的には風に向かって背中を丸め、ひじを突き出し、頭を伸ばしている姿から胸部の痛みを感じているのが分かる。時には血液まじりの鼻汁や口の周りに泡状の涎がたまることもある。重症の場合の致死率は 75 %にも昇り、疾病の兆候が現れてから 3 月以内に致死に至る。回復した動物でも非常に弱く削痩した状態であり、慢性的キャリアーとなるものが多い。発生の初期段階では極度の急性パターンも発生することがあり、その際はいくつかの微かな兆候で突然死亡に至ることもある。
      一般的なものは亜急性もしくは慢性的なケースである。その際の兆候は穏やかで、兆候が確認されない場合もある。微熱、体重減少、呼吸器症状は、その対象動物が激しい運動をして初めて兆候が分かる。不顕性なケースもありうる。
      6 ヵ月未満の子牛の場合、牛肺疫は関節炎としてしか現れない。その際は跛行と関節の柔らかい腫れが見られる。

写真 3: 死後解剖の特徴的所見
肺に付着した大量の (オムレツ状の) 繊維素凝塊と胸腔内に貯留した黄色っぽい胸水を示すため、横隔膜の一部が除去されている。

写真 4: 肺の組織変化
牛肺疫急性型。肺の断面、赤色の肝変 (つまり、肝臓のような見かけと感触) が認められる。

写真 5: シーケストラムを伴った慢性型牛肺疫。シーケストラムは食肉検査において注意すべき牛肺疫の典型的病変である。慢性型牛肺疫では、このような病変がしばしば認められる。


病理解剖所見
      牛肺疫の急性型では繊維素性肺炎と夥しい量の胸水が認められる。特に後者は驚くほどの量の、30 リットルにも及ぶ黄色い滲出液で凝塊を含み胸郭内に貯留する。肺は片側性または両側性、部分的または全体的に硬化し特徴的な大理石紋様が認められる。病変部は腫脹し、桃色から暗赤色の様々な色調を呈し、やや硬い質感となり、透明な液体が滴る。時に切断面から出た血が混じることがある。小葉間中隔は著しく肥厚する。感染部位を覆う胸膜表面は肥厚し、灰色から赤色を呈し、しばしば、黄色くもろい繊維素に覆われる。局所のリンパ節は腫脹し、浮腫状を呈し、壊死が認められることがある。
      慢性型では、壊死した肺組織が包囲されて直径 1-20 cm のシーケストラムを形成する。シーケストラム内の組織は、元の急性型の肺病変の構造を保つ傾向があるが、時間が経つにつれて石灰化や液状化することもある。これが壊れて中の生きたマイコプラズマが放出されることもあれば、そのまま吸収されてしまうこともある。慢性例では往々にして胸郭内の癒着が認められる。
マイコプラズマ感染による腱の滑膜炎および関節炎により腫脹した関節。(Foreign Animal Diseases より転載)
胸壁が折り返された状態:内臓や胸膜上に繊維素凝塊と、胸腔内に貯留した胸水が見られる。(Foreign Animal Diseases より転載)
肺炎の病変が片側性であることは稀ではない。(Foreign Animal Diseases より転載)
肺小葉間中隔の著しい肥厚は、特徴的な"大理石紋様"としても知られている。(Foreign Animal Diseases より転載)
肺小葉間中隔の著しい肥厚は、特徴的な"大理石紋様"としても知られている。(Foreign Animal Diseases より転載)
肺の凝固壊死巣。(Foreign Animal Diseases より転載)


組織病理所見
      鏡検では、初期の肺病変は、小葉間中隔のリンパ管の拡張と肺胞壁の肥厚を伴うカタル性細気管支炎病巣からなる。同時またはすぐ後に、血管とリンパ管が栓塞し、肺胞が液体と細胞 (肺胞マクロファージ及び多形核白血球) で満たされる。リンパ濾胞の細胞増生と細気管支における多形核細胞の増加が認められる。胸膜下リンパ管の拡張及びリンパ性浮腫も認められる。
      壊死は初期から認められ、小葉単位に起こることが多い。しばしば、集簇した白血球及び核状壊死組織片により正常組織と隔てられている。結合組織の皮膜がすぐに形成されるが、壊死塊は何ヵ月にもわたって存続する。
      肺炎に冒された組織は結合組織によってゆっくりと置換される。この置換は血管の周囲から始まる。単核細胞の層が壊死組織側の結合組織と境界を形成し、結合組織が次第に壊死組織に入り込んでこれを置換する。


臨床診断
      群中の多数の牛における急性あるいは慢性の発咳、食欲不振、体重の減少を伴う呼吸器疾患の発生 (写真 1) では、かなり牛肺疫が疑われる。重要な呼吸器症状として、速迫した、困難を伴う、騒々しい呼吸;鼻孔からの鼻汁の流出 (写真 2); 特に運動後の発咳を探す。
      病理解剖所見はとても特徴的である。以下の場合には牛肺疫を強く疑うべきである:
黄色の液体が胸腔に貯溜している; 肺が黄色いもので覆われている (写真 3); 肺が胸郭に癒着している;肺がしぼまず、硬く、肝変または大理石紋様を呈している (写真 4); 慢性例ではシーケストラ (写真 5) が認められることがある。

鑑別診断
      牛肺疫の臨床症状はかなり特徴的である。にもかかわらず、牛肺疫と紛らわしい多くの疾病が存在する。それらは:
牛 疫、出血性敗血症、東海岸熱、細菌性・ウイルス性気管支肺炎、急性パスツレラ感染症、牛結核、アクチノバシラス症、創傷性心膜炎、膿 瘍、包虫のシスト

検査診断
      組織病理学的診断も診断の一助となるが、本病の確定診断は病原体の分離と同定、及び/又は、特異的な抗原の検出あるいは適切な血清学的検査方法による抗体の検出である。
      実験室における牛肺疫の診断方法の詳細は、OIE の「診断検査とワクチンの標準マニュアル」(2000 年発行第 4 版; www.oie.int に掲載)を参照されたい。以下は、通常用いるべき検査方法に重点を置いたその概要である。

検査診断のための検体の採取と輸送:
・肺の病変部の組織、気管支リンパ節、縦隔リンパ節、胸水 10 ml 以上を無菌的に採取する。発症した仔牛の関節の関節腔液も採取する。組織病理用に、もう 1 セットの検体を緩衝ホルマリン液に採取する。
・血清用に血液 (各およそ 20 ml) を、臨床症状を示しているあらゆる牛から採取するとともに、外見上明らかに健康な牛数頭からも採取する。
・保存処理のされていない組織、胸水、関節腔液はマイコプラズマを保護し雑菌の増殖を抑える効果のある輸送用培地 (ペプトンとグルコースを含まないハートインフュージョン培地に 10 %イースト・エクストラクト、20 %血清、0.3 %寒天、ペニシリン 500 IU/ml、1:10,000 酢酸タリウム加) に入れておくのが望ましい。それらの組織及び血清は氷水中又は冷凍したジェルパックと同梱することにより保冷して検査室に送付する。

MmmSC の培養と同定
ペニシリン、酢酸タリウム加の Hayflicks's 培地や Gourlay's 培地等により、保存処理のされていない組織及び胸水から MmmSC を分離することができる。病原体の検出には、培養液を通常の暗視野顕微鏡により鏡検して糸状の生命体を探す。本病原体は、通常、発育阻止試験、及び/又は、蛍光抗体法によって同定する。これらの検査においては、近縁の Mycoplasma spp. による交差反応が認められることがある。この問題を解決するため、イムノブロッティング法、免疫ペルオキシダーゼ法、ポリメレース・チェーン・リアクション法 (PCR) など各種の新技術の開発が行われている。

抗原の検出
確定診断、特に菌分離に十分な量の検体が採取できない場合に有用な抗原検出法がいくつかあるので以下に挙げる。

寒天ゲル内沈降反応--便利で簡単な検査方法--:
胸水やすりつぶした肺組織からの特異抗原の短時日での検出に使用する。この応用として界面沈降反応 (interfacial precipitation test) がある。

間接蛍光抗体法
牛の MmmSC 高度免疫血清と抗牛 IgG 標識抗体を使用する方法で、病理検体のスメア標本を検査するのによい。本検査法は、胸水の検査に最適であり、また肺組織のスタンプ標本にも用いることができる。本検査法では Erichrome 黒で後染色することにより特異性を向上させることができる。

免疫科学的検査
パラフィンブロック包埋標本にペルオキシダーゼ抗ペルオキシダーゼ法 (PAP) を行なうことにより、small brochiolesarveoli 及び肺病変の小葉間間質の免疫反応部位を検出する。本方法は作業が複雑だが、特に急性型で突然死亡した動物で大変有用である。PCR は現在のところ研究用で、日々の診断用には至っていない。

抗体の検出
現在のところ、補体結合反応 (CFT マイクロタイター法) が最も汎用されている牛肺疫の検査方法である。本検査方法の特異性は実際に感染している牛では 99.5 %と高い。しかし群によっては、偽陽性反応が一時的に高い場合もある。本検査方法の感受性はあまり良くないので、以下の場合見逃す恐れがある:
・感染ごく初期の動物;
・感染ごく後期の動物 (CFT は慢性型の 30 %を見逃す);
・大きな病変を有する動物。抗体の量が検査抗原を凌駕するため;
・感染初期に抗生物質で治療されたため、検出可能な量の抗体が産生されないもの。
ワクチン接種後の CFT の陽性反応は安定せず期間も短い。また CFT は通常、群に対する検査方法として使用する。
      競合 ELISA (c-ELISA)IAEA の補助のもと、アフリカの数カ国で野外評価(治験)が行われているところである。少なくともCFTと同程度の感受性はあるものの、他の ELISA と同様、感受性を向上させるためには特異性が犠牲となり、その逆も成り立つ。本方法は群単位での抗体レベルを計るのに適している。
      受身赤血球凝集反応は、日常の検査方法としては用いられないが、血清を用いた診断方法として利用できる。感染ごく初期及びごく後期の動物においてスクリーニング検査として使えるかもしれない。
      スライド凝集反応は簡単で、訪問先農家でも実施可能である。感染初期により感度が高いが、特異性がない。


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