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牛結核病 (bovine tuberculosis)

本病は牛型結核菌の感染によって起こる肉芽腫性疾患である。病変は肺およびリンパ節に好発し、しばしば乾酪変性を随伴する。慢性肉芽腫結節、いわゆる結核結節を特徴とする病変形成がある。

病原体
      Mycobacterium bovis はマイコバクテリウムの仲間で、大きさが 0.3~0.6 x 1.0~4.5 nm のグラム陽性桿菌で、好酸性菌である。本菌はヒト型結核菌 (M. tuberculosis)、トリ型結核菌 (M. avium) と共に好酸菌に属する。細胞内寄生菌であるため、石灰化壊死巣を中心にした修飾されたマクロファージ (類上皮細胞およびラングハンス型巨細胞) からなる肉芽腫を形成する。このような病変を結核結節と称する。マイコバクテリウム属の菌感染では非定型好酸菌にも同様な病変形成能があり複雑である。菌に運動性はなく好気性である。また、菌の培養濾液中には様々な抗原物質が含まれている。ツベルクリン蛋白による皮内反応ではこれら好酸菌種の解析は困難である。

感染様式および疫学
      M. bovis は罹患牛の気管分泌物、唾液、糞便中に排泄され、直接あるいは間接的に気道あるいは経口感染を起こす。また、糞便などへの菌排泄が起こるため飼育環境を汚染し、畜舎疫となって牛群に急速に感染が起こる。胎盤感染、交尾感染、乳房感染なども成立しうる。M. bovis 以外の原因で起こる結核病は M. avium が原因でも起こり、ヨーロッパで多発している。また非定型好酸菌感染でも同様なことが起こる。非定型好酸菌は水中などの自然界に広く分布する。この感染症では無病巣反応牛の原因にもなる。
      感受性動物は反芻動物である牛、シカ、人などで、公衆衛生上重要疾病である。

ツベルクリン反応陽性牛
ツベルクリン反応陽性牛
リンパ節の髄様腫大および乾酪壊死

臨床症状および病理学的所見
      播種性結核感染あるいは進行性結核病では、発咳、栄養不良、泌乳低下、好カルシウム血症、削痩が見られ、リンパ節腫大等が特徴的である。
      病理解剖学的所見はリンパ節の髄様腫大および乾酪壊死が見られることである。乾酪壊死は肺も好発部位である。侵襲部位であるリンパ節や肺の初期病巣は自然治癒することが多い。アネルギー (anergy) 状態になるとリンパ行性、血行性に菌が播種され、粟粒結核になる。
      組織学的病変の特徴はいわゆる結核結節で、乾酪壊死を中心に修飾されたマクロファージの集積による結核性病変を形成する。この周囲に感作リンパ球浸潤からなる特徴的像を呈する。

診断
      ツベルクリン反応を用いた免疫反応による診断法が有用である。ツベルクリンによる遅延型アレルギー反応を皮内反応で判定する。皮内反応は尾根部または頚側部で実施するが、皮内反応の部位は国の法律で定められている。診断基準は接種後 72 時間の皮内硬結の大きさで判定される。すなわち 5 mm 以上の硬結を陽性、3 mm 以下を陰性とする。疑陽性牛は 2 ヶ月後に再検査を実施して疑似陽性牛以上を陽性と判定する。アネルギー牛はこの反応では診断が困難な場合がある。

粟粒結核
結核菌 (チールニールセン染色)
結核結節

対策および予防
      有効な予防法や治療法はない。従って、防疫対策 (陽性牛の摘発と淘汰) を適切に実施することにより清浄化を図ることが重要である。本症が発生した農場では牛群を汚染群と清浄群に分け、ツベルクリン反応を繰り返し実施する。牛を導入する場合、導入先の衛生状況を正確に把握することが重要である。発生牛舎では消毒と石灰塗布に努め、汚染源の遮断を徹底的に実施する。

本文は国際農林業協力協会 (AICAF) 発行「熱帯農業シリーズ 23 熱帯に多発する家畜の重要伝染病」より転載した。またここに掲載されている写真は、動物衛生研究所編纂「家畜疾病カラーアトラス」より転載した。