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東海岸熱
(East Coast fever)
牛タイレリア病のひとつであり、血液原虫
Theileria parva
の感染によって起こるダニ媒介性疾病で、発熱および黄疸を主徴とする。
病原体
Theileria parva
がコイタマダニ (
Rhipicephalus appendiculatus
) によって媒介され、アフリカの牛、水牛に感染する。タイレリアの生活環は以下の図に示すように、牛に寄生するメロゴニー (シゾゴニー)、ダニの体内で生活するガモゴニーおよびスポロゴニーなどの3期に分けられる。
タイレリア属の胞子虫は独特の生活環を持っている。牛に寄生して発育・増殖する時期をシゾゴニー (
schizogony
、番号1から6)、飽血ダニの腸管で発育・増殖する時代をガメトゴニー (
gametogony
、番号8から13)、および幼ダニや若ダニの唾液腺上皮内で発育・増殖する時期をスポロゴニー (
sporogony
、番号14 から15) という。
シゾゴニー期は感染幼ダニが牛を吸血する際に、スポロゾイト (
sporozoit
) が牛に感染して始まる。スポロゾイトは領域のリンパ球を侵襲しシゾント (
schizont
: コッホ小体、番号2) を形成する。感染リンパ球が破壊され、メロゾイトは分裂を繰り返して発育するが、赤血球の破壊・溶血により新たな赤血球に感染する。この際、適当な時期に卵円形のメロゾイト (この時期を
gamont
: ガモントという。番号6) となる。
フリーのガモントを持つ牛がダニに飽血されるとガモゴニー期に入る。すなわち、ガモントは飽血ダニの腸管上皮細胞に感染する。この際ガモントは、運動性糸状物を形成 (鞭毛放出:
extragellation
、番号 8.1 から 8.4) しながら発育する雌生殖体 (
microgamete
、番号 8.3 および 8.4) になるものと、雄生殖体 (
macrogamete
、番号9) とがある。雄生殖体と雌生殖体が融合してザイゴート (
zygote
、番号 10) となる。ザイゴート内に内側空胞 (番号 10 から 12) が発達し、キネート (
kinete
、番号 11) を形成しながら運動性キネート (番号 13) へ発育する。
運動性キネートが新たに幼ダニの唾液腺細胞に感染し (番号 14)、スポロゴニー期に入る。すなわち、感染キネートは幼ダニの唾液腺細胞内で幼若スポロント (
sporont
、すなわちサイトメア、番号 14) を作り始め、これが成熟してスポロゾイトの集合体を形成し (番号 15)、唾液腺腔内に感染性スポンゾイトを放出する。この時に牛を吸血するとシゾゴニー期に入る。
E
: 赤血球、
KB
: コッホ小体、
IV
: 内空胞、
N
: 核、
NH
: 宿主細胞の核、
S
: スポロゾイト、
SPO
: スポロント、
T
: 尖端針状構造物、
YS
: 幼若スポロント
感染様式および疫学
主として東アフリカ諸国に発生が見られ、水牛で持続感染が起こり、牛の感染源となる。媒介ダニはコイマダニ属である。この原虫をダニが吸血し、ダニの体内および牛体内で発育環を形成する。ダニの唾液腺内に形成されたスポロゾイトが、ダニの吸血時に牛に感染する。感染スポロゾイトは、感染領域にあるリンパ節のリンパ球やその他のリンパ球に感染してシゾントになる。これがリンパ球から放出されてメロゾイトとなり、赤血球に寄生してピロプラズム (メロゾイト) となる。赤血球のピロプラズマは再びダニに接種され、ダニの中腸で有性生殖後キネートとなり、ダニの唾液腺に移行してサイトメアとなる。その後、同細胞内でスポロゾイトを形成する。
本症は牛、コブウシ、アフリカ水牛などに感染するが、その中で牛が最も感受性が高い。致死率は非常に高く、成牛より幼牛における感受性が高い。
臨床症状および病理学的所見
潜伏期間はスポロゾイト侵入の量依存性なので様々であるが、最低5日以上である。発症はスポロゾイト侵入領域のリンパ節の腫脹と発熱である、発熱は 40 度以上の熱が続く。食欲廃絶、脈拍増加、呼吸数増加から呼吸困難に陥り死亡する。ピロプラズム寄生は株や経過によって様々であるが、一般に寄生率は 1~70 %とまちまちである。貧血は経過の短い死亡例では目立つことが少ない。経過の比較的長い例では貧血が顕著である。また白血球減少症も著しい。死亡率は 70 %以上で、感染後 3~4 週間で斃死する。時には神経症状を示すことがある。
剖検では発熱、頻脈、過呼吸、白血球減少症など、全身性炎症反応症候の特徴が見られる。すなわち、リンパ装置の腫大、充血性肺水腫、気管内における気泡を含む泡沫状粘液分泌物、諸臓器における出血性変化などである。
組織学的にはリンパ節における壊死、および多数のシゾント寄生、肝臓、腎臓、肺におけるリンパ球浸潤などがある。
診断
疫学、臨床症状、剖検所見から診断が可能である。確定診断はマクロシゾントの確認で、耳下腺あるいは浅頚リンパ節のバイオプシー材料のギムザ染色で実施する。血液塗抹でも診断は可能である。
血清学的診断法は開発が進められているが、複雑で困難である。間接蛍光抗体法はタイレリア属の同定に広く利用されているが、正確性に欠けている。詳細は
OIE Manual (1996, p.321~330)
を参照のこと。
肩甲骨前部にリンパ節の腫脹が見られる。
リンパ節の腫脹、出血および水腫
タイレリア原虫を含むリンパ芽球
対策および予防
東海岸熱耐過牛は再感染に抵抗性が強く、3年間は抵抗性が持続すると言われているが、その後は再感染が起きる。予防は防ダニ処置、治療、飼育管理の改善である。実際には殺ダニ剤によるダニ駆除である。徹底した検疫、淘汰、薬浴、移動禁止などの対策は非常に有効であるが、国家的財務保証が必要である。テトラサイクリン、ナフトキノン製剤はシゾントステージに有効である。
本文は国際農林業協力協会
(AICAF)
発行「熱帯農業シリーズ 23 熱帯に多発する家畜の重要伝染病」より転載した。またここに掲載されている写真は、
Foreign Animal Diseases
より転載した。
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